オプトジェネティックスを用い、癌は増殖シグナル伝達のタイミングの変化が鍵であることを発見

オプトジェネティックスを用い、癌は増殖シグナル伝達のタイミングの変化が鍵であることを発見

2018年8月29日にサイエンスのオンラインで公開された新研究で、非小細胞肺癌(NSCLC)での遺伝子変異は、細胞の主要な増殖シグナルの認識を妨げて、腫瘍形成を促進する可能性があると報告された。この論文は、「癌突然変異と標的薬物は、Ras-Erk経路によるダイナミックシグナルエンコーディングを混乱させる可能性がある(Cancer Mutations and Targeted Drugs Can Disrupt Dynamic Signal Encoding by the Ras-Erk Pathway.)」と題されている。



カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)の研究者が率いるこの研究は、多くのヒト癌の根底にある欠陥メカニズムを理解し、欠陥メカニズムを最終標的とする重要な意味を持つ可能性がある。健常細胞は、いつ、どのように増殖、分裂、および移動するかについて外部の手がかりを解釈するために、Ras / Erk増殖シグナル伝達経路(Ras / MAPK経路)に依存するが、これらのメッセージが伝達される際の欠陥は、 制御不能に陥り、身体の他の部分へ浸潤する原因となりうる。このような突然変異は、大多数のヒト癌で発見され、Ras / Erkの治療法を開発は、癌研究の至高の目標である。

何十年もの研究により、科学者は、突然変異により経路の1つ以上のコンポーネントが成長前の状態から抜け出せなくなった場合に、Ras / Erkによる癌が生じると考えている。研究者らは、これらの壊れたスイッチを元に戻す標的治療法を開発するために努力してきたが、これまでのところほとんどが臨床試験に失敗している。

現在、光パルスを用いてRas / Erkシグナル伝達を制御し、ゲノム動態を迅速に読み取ることが可能なUCSFで開発されたハイスループット技術を用い、この広範囲に研究された経路について驚くべき発見をした。オプトジェネティックス(Optogenetics:光感受性タンパク質が光パルスに応答するように細胞内で遺伝子操作されるアプローチ)は、神経科学における革新的な実験技術であり、研究者はニューロンのネットワーク内の電気活動パターンを精緻に制御し研究することができる。

同じアプローチを使用することによって個々の細胞内の化学伝達パターンを探索する新しいUCSFの研究は、いくつかのRas / Erk突然変異が、細胞増殖シグナルの強度よりむしろタイミングを変えることによって癌を引き起こすことを明らかにした。 シグナルタイミングのこのぼやけが、欠陥Ras / Erkシグナル伝達を遮断するように設計された一部の標的薬物が逆説的に経路を活性化し、潜在的に新しい腫瘍形成のリスクを高める理由も示された。
「この新しい技術は疾患細胞に接続する診断装置のようなもので、多くの光に基づく刺激で細胞を刺激して調べ、それがどのように反応するか見ることができる。」「このアプローチを使用することで、細胞回路によって通常はフィルタリングされたシグナルに応答して細胞増殖につながるシグナル、すなわち振る舞いを処理する方法において、ある欠陥を有する癌細胞を同定することができた。」と論文著者の1人であるUCSF合成生物学者のWendell Lim博士は語った。

UCSFの医学腫瘍専門医および癌生物学者であるTrever Bivona博士、プリンストンの分子生物学者Jared Toettcher博士(元Lim研究室のポスドク研究員)は、この新研究の共著者である。 この研究の筆頭著者は、ペンシルバニア大学のLukasz Bugaj博士であり、以前はLim博士のポスドク研究者であった。

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Edited by Michael D. O'Neill

Michael D. O'Neill

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