過剰に興奮した神経細胞を鎮静化することで、脳卒中後の脳を保護する可能性が判明。脳卒中による脳損傷に関する数十年来の説に再考を促す新データ。

過剰に興奮した神経細胞を鎮静化することで、脳卒中後の脳を保護する可能性が判明。脳卒中による脳損傷に関する数十年来の説に再考を促す新データ。

ある新しい研究により、科学者らは脳卒中研究でかつて人気を博したものの議論の的となっていたアイデアを再考することになった。脳卒中の後遺症として、過剰に興奮した神経細胞を落ち着かせることで、酸素不足で損傷している神経細胞を殺す可能性のある毒性分子が放出されるのを防ぐことができると、神経科学者らは考えていたのである。この考えは、細胞や動物を使った研究によって裏付けられていたが、多くの臨床試験で脳卒中患者の予後を改善できなかったため、2000年代前半には支持されなくなった。しかし、新たなアプローチにより、この考えはあまりにも早く捨て去られた可能性があることが明らかになった。この新しい知見は、2022年2月25日にBrain誌に掲載された。この論文は「多系統のGWASが虚血性脳卒中後の転帰と関連(Multi-Ancestry GWAS Reveals Excitotoxicity Associated with Outcome After Ischaemic Stroke)」と題されている。

ワシントン大学医学部(セントルイス)の研究者らは、脳卒中を経験した約6,000人の全ゲノムをスキャンし、脳卒中後の極めて重要な最初の24時間以内の回復に関連する2つの遺伝子を同定した。脳卒中の発症から24時間以内に起こる事象は、良きにつけ悪しきにつけ、脳卒中患者の長期的な回復への道筋をつけるものである。この2つの遺伝子は、いずれも神経細胞の興奮性の制御に関与していることが判明し、神経細胞の過剰な刺激が脳卒中の転帰に影響を及ぼすことを示す証拠となった。
共同研究者のジン・モー・リー医学博士(Andrew B. and Gretchen P. Jones教授兼神経科長)は、「興奮毒性が脳卒中の回復に本当に重要なのか、という疑問はずっと残っている。興奮毒性のブロッカーを用いれば、マウスで脳卒中を治すことができる。しかし、ヒトでは多くの臨床試験を行ったが、どれもこれも陰性だった。今回の研究では、2万個の遺伝子のうち、上位2つの遺伝子が、神経細胞の興奮に関わる機構を指し示している。これは非常に驚くべきことだ。これは、興奮毒性がマウスだけでなく、ヒトにおいても重要であることを示す最初の遺伝学的証拠だ。」と述べている。
毎年、米国では、80万人近くが、最も一般的な脳卒中である虚血性脳卒中に罹患している。虚血性脳卒中は、血栓が血管を塞いで脳の一部の酸素が遮断されたときに起こり、突然のしびれ、脱力感、混乱、会話困難などの症状を誘発する。その後24時間以内に、症状が悪化する人もいれば、安定または改善する人もいる。

Life Science News from Around the Globe

Edited by Michael D. O'Neill

Michael D. O'Neill

バイオクイックニュースは、サイエンスライターとして30年以上の豊富な経験があるマイケルD. オニールによって発行されている独立系科学ニュースメディアです。世界中のバイオニュース(生命科学・医学研究の動向)をタイムリーにお届けします。バイオクイックニュースは、現在160カ国以上に読者がおり、2010年から6年連続で米国APEX Award for Publication Excellenceを受賞しました。
BioQuick is a trademark of Michael D. O'Neill

LinkedIn:Michael D. O'Neill

 

サイトスポンサー