3つのタンパク質遺伝子の注射でハイリスクHPV型に対する免疫反応を誘発。子宮頸癌の前駆腫瘍の3分の1においてHPVを完全に消失させた。
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子宮頸部の前癌を治療するための新しい免疫療法により、臨床試験に参加した3分の1の女性が病変とHPV感染の両方を完全に排除することに成功した。この注射(治療用ワクチン)には、子宮頸部上皮内腫瘍(CIN: cervical intraepithelial neoplasia)として知られるほぼすべての子宮頸癌前駆体の原因となるハイリスクのヒトパピローマウイルス(HPV: human papilloma virus)を攻撃する免疫系反応を引き起こす3種類のタンパク質遺伝子が含まれている。
「HPVに感染している女性を治療するための製品は殆ど無い。比較的簡単で成功率がこのようなものを見たのは今回が初めてで、非常にエキサイティングだ。」とミシガン大学医学部の家族医学および産科婦人科教授のDiane Harper博士(写真)は述べた。
頸部前癌病変は3段階の重症度に分類される。CIN 2病変はしばしば自然に消失するが、CIN 3病変に進行することもある。 CIN 3が最も重症で、成長が非常に遅い疾患だが、30年以内にCIN 3病変の半分以下が癌になることがある。
「しかし、CIN 3のどの女性ががんになるのか、どの女性ががんにならないのかを判断する方法は無い。したがって、CIN 2または3の女性はすべてがんになる可能性があるものとして扱う」とHarper博士は語った。
この研究では、CIN2またはCIN3と診断された192人の女性が登録し、129人がワクチン接種を受け、63人がプラセボ投与を受けた。 大腿部に3回、1週間に1回、3週間、女性に注射を3回行った。 6ヵ月後、女性はCIN 2/3のための標準的な外科的処置で治療され、切除された組織を検査した。
ワクチン接種を受けた女性は、HPV感染症の種類に関わらず、プラセボグループの女性の2倍以上のCIN消失を確認した。 結果はより重症のCIN3で最も顕著であった:ワクチンを投与された人の36%でCIN3が排除されたのに対し、プラセボグループの女性ではCIN3の排除は見られなかった。
手術後もう2年半の間参加者を追跡した長期の追跡調査では、プラセボよりワクチン接種を受けた人々のほうが優れていることを示し、ワクチン群のより多くの女性がHPVを完全に排除したままであった。
この研究は、2019年4月4日にGynecologic Oncologyにオンラインで発表された。 このオープンアクセスの論文は、「子宮頸部上皮内悪性腫瘍グレード2および3におけるTipapkinogen Sovacivec治療用HPVワクチンの有効性および安全性:2.5年の追跡調査を伴う無作為化対照第II相試験(The Efficacy and Safety of Tipapkinogen Sovacivec Therapeutic HPV Vaccine in Cervical Intraepithelial Neoplasia Grades 2 and 3: Randomized Controlled Phase II Trial with 2.5 Years of Follow-Up.)」と題されている。
Harper博士は、tipapkinogen sovacivec(TS)と呼ばれる治療用ワクチンはHPV感染を予防するために投与されるワクチンのGardasil 9とは全く異なるものだと述べた。 Gardasil9はHPV感染の発生を防ぐが、TSはすでにHPVに感染している組織を除去する。 CIN2とCIN3は常にハイリスクのHPV感染によって引き起こされる。
この論文の中で、Harper博士とその共著者は以下のことを指摘している。
「変異ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)は、ワクチンの遺伝子デリバリーシステムとして広く使用されているワクシニアウイルスの高度に弱毒化された複製欠損株である。TSには3つのタンパク質をコードする遺伝子を挿入してある:ヒトサイトカインIL-2、発ガン性を無くした改変型HPV 16 E6およびE7タンパク質。MVAそれ自体はインターフェロン - アルファ応答の誘導により免疫反応に寄与する。皮下注射時に、TSは周囲の細胞に感染する。そして、E6およびE7タンパク質はウイルス感染によって共活性化される樹状細胞によりプロセシングおよび提示され、これらの樹状細胞は流入領域リンパ節に移動し、E6およびE7ペプチドをリンパ節に存在するナイーブT細胞に提示し、標的細胞性免疫応答を発生させる。」
CIN2またはCIN3の典型的な治療法は、LEEPまたは円錐と呼ばれる円錐形の子宮頸部片の切除だ。 この結果、瘢痕化および子宮頸管の短縮が起こり、それが出産時に問題を引き起こし、帝王切開のリスクを高める可能性がある。 さらに、この方法を受けている女性は、スクリーニングを続けなければ、今後20年間の子宮頸がんの発症リスクが非常に高くなる。
国際的に認知されているHPVの研究者でありメンバーであるHarper博士(ミシガン大学ローゲル癌センターおよびミシガン臨床健康研究研究所(MICHR)のシニアアソシエートディレクター)は、次のように述べた。
ワクチンで、病変を排除するだけでなく、HPV感染も排除することを発見した。
「それは実際に病気の原因であるHPVを治療する」とHarper博士は語った。
ワクチン注射を受けた女性は、注射部位で時々ひどい反応を示した。 Harper博士は、ワクチンが免疫システムを引き起こすよう設計してあるので、想定内だと語った。 免疫反応は皮膚を炎症させる可能性がある。
この研究では子宮頸部病変のみを調べたが、HPVは頭頸部癌や肛門癌を含む他のいくつかの種類の癌と関連している。 研究者らは将来これらの癌についてTSを試験することを構想している。
米国食品医薬品局からTSの承認を得る前に、追加の臨床試験が必要である。 現在は利用可能な試験はない。
Gynecological Oncologyの論文の他の著者には、Pekka Nieminen、Gilbert Donders、Mark H. Einstein、Francisco Garcia、Warner K. Huh、Mark H. Stoler、Katerina Glavini、Gemma Attley、Jean-Marc Limacher、Berangere Bastien、そして Elizabeth Callejaが含まれている。
この研究は、化合物をTransgene社に売却したロシュによって資金提供された。 Transgene社はHarper博士とデータ分析を実施した。
BioQuick News:Experimental Immune-Based Therapy Completely Clears HPV in One-Third of Cervical Cancer Precursor Neoplasias; Injection of Genes for Three Proteins Triggers Immune System Response to High-Risk HPV Types
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