瞑想やヨガがストレス遺伝子の発現を変化させるとの新研究論文
瞑想、ヨガ、太極拳など心身介入療法 (MBI) は単に心身をリラックスさせてくれるだけではない。Coventry、Radboud両大学の研究によれば、病気やうつ病を引き起こすDNAの分子反応を逆転させてくれるらしいのである。2017年6月16日付Frontiers in Immunologyオンライン版に掲載されたレビュー論文は、マインドフルネスやヨガなど様々なMBIが遺伝子の挙動に与える影響について過去10年間の研究をレビューしている。
このオープンアクセス・レビュー論文は、「What Is the Molecular Signature of Mind–Body Interventions? A Systematic Review of Gene Expression Changes Induced by Meditation and Related Practices (心身介入療法の分子指標は何か。瞑想その他関連実践による遺伝子発現の変化の体系的な考察)」と題されている。
両大学の研究者は、846人の被験者を対象にした過去11年間の18件の研究をすべて調べた結果、MBIの実践の結果、体内で一定パターンの分子レベルの変化が起きており、その分子レベルの変化が心身の健康に利益をもたらす仕組みがつかめたとしている。研究チームは、遺伝子発現、つまり、身体、脳、免疫系などの生体的な構成を左右するタンパク質を産生する遺伝子がどのように影響を受けるかということに注目した。
人が強いストレス状況にさらされると、闘争逃走反応を司る交感神経系 (SNS) が刺激され、これが、遺伝子発現を調節する核内因子カッパB (NF-kB) という分子の産生を増やす。NF-kBはストレスに対応し、細胞レベルで炎症を引き起こすサイトカインと呼ばれるタンパク質を産生する遺伝子を起動する。この反応は短時間の闘争逃走反応には有利だが長期的に続くとがんのリスクを高め、老化を速め、憂うつ症などの精神疾患などを引き起こす。ところが、研究によると、MBIを実践している人では逆の現象が起きるのである。つまり、NF-kBとサイトカインの産生が減り、炎症を起こす遺伝子発現パターンが逆転し、炎症関連の疾患や障害のリスクが減るのである。
研究論文著者らは、闘争逃走反応の炎症効果は一時的に免疫系を増強するため、傷口から感染するリスクの高かった狩猟採集生活という人類前史には重要な役割を果たしていた可能性がある。しかし、ストレスがますます心理的なものになり、また長期化する傾向がある現代社会では炎症性の遺伝子の発現も慢性的になり、したがって精神障害や疾患の原因になる可能性が高まっている。
Coventry University, Centre for Psychology, Behavior, and Achievement, Brain, Belief, and Behavior Lab所属の研究責任者、Dr. Ivana Buricは、「世界中の何百万人という人がヨガや瞑想などの心身介入療法の健康への恩恵を受けているが、その人達もおそらく、この恩恵が分子レベルで起きており、私達の体の遺伝子コードの働きを変化させられることをご存じないと思う。このような実践は細胞に分子指標と呼んでいる変化を残し、それが遺伝子の発現を変えることで、ストレスや不安感が体に与える影響を逆転させる。簡単に言えば、MBIによって脳がDNAプロセスを制御し、私達自身の福利の方向に導くのである。このような効果をさらに深く理解するためには研究を続ける必要がある。たとえば、MBIの効果と運動や栄養などの介入療法の効果を比較検討することなどである。ただし、これだけでも、ますます人気の高まっている心身効果の恩恵を将来の研究者が研究する重要な基礎固めではある」と述べている。
原著へのリンクは英語版をご覧ください
Meditation & Yoga Can Reverse Gene Expression Changes That Cause Stress, New Study Suggests
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