T細胞活性の違いに関連したクロマチンアクセシビリティのゲノムワイド変化

T細胞活性の違いに関連したクロマチンアクセシビリティのゲノムワイド変化

La Jolla Institute for Allergy and Immunologyの研究チームは、T細胞活性をコントロールする遺伝子発現パターンをさらに良く理解するため、急性、慢性のウイルス感染に対してT細胞が反応する際のゲノムワイドにおけるクロマチンアクセシビリティの変化をマップ化した。2016年12月20日付Immunityオンライン版に掲載されたこの研究結果は、Tリンパ球の処分を決める分子メカニズムに光を当て、さらにT細胞活性を調節し、免疫機能改善のための臨床介入方法に新しい道を開くもので、研究論文は、「Genome-Wide Changes in Chromatin Accessibility in CD8 T Cells During Viral Infection (ウイルス感染時のCD8 T細胞のゲノムワイドのクロマチンアクセシビリティの変化)」と題されている。


Division of Signaling and Gene Expressionの教授を務めるAnjana Rao, Ph.D.の研究室のポスドク研究員、Dr. James Scott-Browneがこの論文の第一著者を務めており、論文中、「T細胞の状態とそれに伴うT細胞の機能を決定する複数の因子を判定することは、そのT細胞がウイルス感染や腫瘍増殖と戦えるかどうか、また、長期的に防御機能を持つかどうかを知る手がかりになる。T細胞表現型を疲弊から回復し、腫瘍や、HIVのような慢性ウイルス感染とよく戦えるようにしたり、ワクチンに応答してより優れた記憶細胞を生成できるようにしたりすることも可能になるかも知れない」と述べている。


ウイルスが侵入してきたり、細胞が悪性になったりすると、免疫系は、未感作の未熟なCD8 T細胞の小群を動員する。この細胞群はウイルス感染した細胞やがん化した細胞を死滅させる任務を帯びた免疫系に不可欠の分隊である。この細胞群は活性化すると急激に増殖し、成熟して高度に特殊化したエフェクターT細胞になり、ウイルスに感染した細胞や何らかの問題のある細胞を駆除する。さらにエフェクターT細胞はその使命を果たすとほとんどが死滅してしまい、長期的な保護機能を持つ記憶T細胞が少数残されるだけになる。肝炎やHIVのような慢性的なウイルス感染、あるいは特定のタイプのがんの場合には活性化されたCD8 T細胞も勝てず、解消することができない。その結果、CD8 T細胞は、細胞に抑制信号を送る抑制性細胞表面受容体を発現し始め、負のフィードバック・ループを形成する。このメカニズムは、過剰な免疫反応が固定化するのを防ぐものだが、その結果、CD8 T細胞が外からの侵入物に対して効果的に戦えず、「T細胞疲弊」と呼ばれる状態に陥ってしまう。

Dr. Raoの研究チームは、以前の研究で、NFATと呼ばれる転写調節因子がT細胞の活性化と疲弊を調整する分子的なかなめの役目をしていることを突き止めている。CD8 T細胞の表面のT細胞受容体が異種タンパク質を認識すると、シグナル・カスケードを起動し、最終的にNFATとAP-1が対になって活性化される。この対が共にゲノムの調節領域に結合して遺伝子プログラムを起動し、このプログラムがT細胞を活性化し、がんやウイルス感染と戦う準備をさせる。NFATは、単独ではゲノム内の調節領域の異なるサブセットに結合することで、平衡点を「活性」から「疲弊」に移し、腫瘍や感染に対する免疫系の反応を弱める。現在の研究は、研究室で増殖させたT細胞を使う過去の実験からさらに発展し、急性または慢性のウイルスに感染したマウスから分離したT細胞を使っている。

この実験では、ATAC-seqと呼ばれる、クロマチン中のアクセス可能な「オープン」の部分を確定する強力な手法を取っている。クロマチンはゲノムDNAとそれに関連するタンパク質の複合体であり、DNAを詰め込み、圧縮するだけでなく、転写調節因子へのアクセスを許したり、拒んだりすることで遺伝子発現の調節を助けている。ゲノムのどの調節部位が「オープン」になっているかを知ることができれば、特定の生物学的プロセスにどの転写調節因子が関わっているかを判定できる。
過去にRao研究室にポスドク研究員として在籍し、現在はブラジルのUniversidade Federal do Rio de Janeiroの准教授を務める、共同筆頭著者の一人、Dr. Renata Pereiraは、「未感作細胞がエフェクター細胞に変化する際に、『活性化された運命』を決める遺伝子付近のクロマチン領域が大きく変化することを突き止めた。それに比べて、エフェクター細胞のクロマチン構造は、記憶細胞または疲弊細胞のそれとよく似通っていた。
そのことから、これらの細胞タイプの機能の違いは、すでにオープンになっているクロマチンの領域に結合している転写調節因子の動きによってほぼ決まるということが示される。従って、クロマチンへのアクセスが多かれ少なかれ可能な場合には、T細胞の機能の変化においては、変化させるタンパク質よりも、転写調節因子の方がさらに興味深い標的になりえる」と述べている。

写真

写真は、がん細胞を攻撃するT細胞 (灰色)。
(Credit: La Jolla Institute for Allergy and Immunology)

原著へのリンクは英語版をご覧ください
Genome-Wide Changes in Chromatin Accessibility Associated with Differences in T-Cell Activity
 

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Edited by Michael D. O'Neill

Michael D. O'Neill

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