ハーバード大学の研究チームは、脳の3つの領域の間の接続性をモデルとする多域brain-on-a-chipを新しく開発した。その過程で、脳の異なる領域のニューロンの違いを詳しく調べ、領域間の接続性を再現する目的でin vitroモデルが用いられた。
このハーバード大学の研究論文は、2016年12月28日付The Journal of Neurophysiology誌オンライン版に掲載され、「Neurons Derived from Different Brain Regions Are Inherently Different in Vitro: A Novel Multiregional Brain-On-A-Chip (In Vitroで、脳の領域ごとにニューロンが本質的に異なることを解明:新しい発想の多域Brain-On-A-Chip)」と題されている。共同第一著者を務めた、Harvard John A. Paulson School of Engineering and Applied Sciences (SEAS), Disease Biophysics Groupのポスドク研究員のBen Maoz, Ph.D.は、「脳は個別ニューロンの集まり以上のものだ。様々なタイプの細胞があり、異なる領域間が接続されている」と述べている。
脳をモデル化する場合、領域間の接続を攻撃する様々な疾患があるため、研究ではその接続性を再現できなければならない。ハーバード大学 Wyss Institute for Biologically Inspired EngineeringのCore Faculty Member であり、SEAS, Bioengineering and Applied Physics BuildingのTarr Family Professorを務めるKit Parker, Ph.D. (写真) は、「アメリカの医療予算の約26%は、神経学的疾患、精神医学的疾患の治療に宛てられている。患者の苦痛を和らげる治療薬の開発を支援するツールは人道的なだけでなく、医療コストを引き下げる方法として最善でもある」と述べている。
このハーバード大学の研究論文は、2016年12月28日付The Journal of Neurophysiologyオンライン版に掲載されており、「Neurons Derived from Different Brain Regions Are Inherently Different in Vitro: A Novel Multiregional Brain-On-A-Chip (In Vitroで、脳の領域ごとにニューロンが本質的に異なることを解明:新しい発想の多域Brain-On-A-Chip)」と題されている。SEASのDisease Biophysics GroupとWyss Instituteの研究チームは、脳の中でも統合失調症でもっとも影響を受ける扁桃体、海馬、前頭前皮質という3つの領域をモデル化した。さらに、in vitroで、各領域のニューロンの細胞構成、タンパク質発現、代謝、電気的活動の各特徴を調べた。論文の共同第一著者であり、Disease Biophysics Groupの元ポスドク研究員だったStephanie Dauth, Ph.D.は、「脳の異なる領域のニューロンがそれぞれ異なることは驚くことではないが、その違いの大きさには驚かされる。In vitroで、領域ごとの細胞タイプの構成比、代謝、タンパク質発現、電気的活動などすべてが違っていた。このことは、研究でもどの領域のニューロンを扱うかで違ってくることを示している」と述べている。
次に、ニューロンが互いに情報伝達をする時にどう変化するかを調べた。そのために、各領域の細胞を個別に培養し、その上でチップに埋め込まれたガイド経路を通して細胞間の接続をつくらせた。その後、細胞構成比と電気的活動を測定したところ、他の領域のニューロンと接触すると細胞が大きく変化することを突き止めた。Dr. Maozは、「細胞が他の領域と情報伝達をするとカルチャーの細胞構成が変化し、電気生理的特性が変化し、ニューロンの固有特性がすべて変化する。このことから、in vitroモデルには異なる脳の領域を組み合わせることが重要で、特に領域間の接続に影響するような神経疾患を研究する場合にはそれが不可欠だということが分かる」と述べている。
疾患のモデル化に対するチップの有効性を証明するため、研究チームは脳の異なる領域の細胞に、統合失調症に似た効果を持つフェンシクリジン塩酸塩、一般にはPCPと呼ばれる薬品を加えた。brain-on-a-chipのおかげで初めて、この薬品の効果が、個別領域だけでなく、in vitroで接続されている他の領域にまで広がっていく様子を見ることができた。brain-on-a-chipは、薬物依存症、心理的外傷後ストレス障害、脳外傷などあらゆる神経疾患、あるいは精神疾患の研究に効果的である。
Dr. Parkerは、「これまで、コネクトーム・プロジェクトは、脳のネットワーク全体を考えていなかった。私たちの研究では、異なる脳領域を区別する際に細胞外基質ネットワークが重要であり、そのような脳領域の生理的な、あるいは病理生理学的なプロセスもそれぞれ異なること明らかにした。この研究の進展で医薬開発が可能になるだけでなく、人間が考え、感じ、生き延びる仕組みの基礎的な理解をも可能にするだろう」と述べている。
この研究論文の共著者として、(以下すべてDr.) Sean P. Sheehy、Matthew A. Hemphill、Tara Murty、Mary Kate Macedonia、Angie M. Greer、Bogdan Budnik。また、この研究は、ハーバード大学のWyss Institute for Biologically Inspired EngineeringとDefense Advanced Research Projects Agencyの援助を受けて行われた。
原著へのリンクは英語版をご覧ください
Harvard Scientists Create Novel Multiregional Brain-on-a-Chip



