オーストラリアのニューサウスウェールズ大学(UNSW)の研究者らは、実際に老化を逆行させ、DNA修復を改善し、NASAの火星任務をも可能にするであろう革新的な薬物を発見した。2017年3月23日のScience誌に発表された論文は「老化中のタンパク質-タンパク質相互作用を調節する保存されたNAD+結合ポケット(“A Conserved NAD+ Binding Pocket That Regulates Protein-Protein Interactions During Aging.”)」と題され、研究者チームは細胞が損傷したDNAを修復できるようにする分子プロセスの重要なステップを特定したことを記している。
本チームによるマウス実験では、老化と放射線によるDNA損傷の修復が可能であることを示唆している。このアンチエイジング効果はNASAが火星ミッションに使用できると注目するほど有望である。
人間の細胞はDNA損傷を修復する先天的な能力を持ってはいるが、この能力は年を取るにつれて低下するものである。研究チームは体内のあらゆる細胞に存在する代謝物であるNAD+が、このDNA修復を制御するタンパク質間相互作用の調節因子として重要な役割を担っていることを特定した。 NMN と呼ばれるNAD+前駆体(「ブースター」)でマウスを治療することにより、放射線曝露または老化によるDNA損傷を修復する細胞の能力が向上したのである。
「老齢マウスの細胞が、わずか1週間の治療後には、若いマウスのものと区別がつかないほどになったのです。」と、UNSW医科大学のハーバード・メディカルスクールのDavid Sinclair教授は語る。 NMN療法のヒト試験は6ヶ月以内に開始される。
「これは安全で効果的なアンチエイジング薬に今最も近いものです。治験がうまくいけば、市場に出るのは3〜5年後になるでしょう。 NASAは火星への任務期間の4年間、宇宙飛行士の健康を維持しなければいけないので、本研究に大変興味をもっているのです。」と、シドニーのUNSW研究室のSinclair博士は述べる。
例え短期間の任務であっても、宇宙飛行士は宇宙線による老化の加速のため、筋肉の衰弱や記憶喪失、その他諸々の症状に苦しむ。火星への飛行では、宇宙飛行士の細胞の5%が死亡し、癌の可能性は100%に近づくことが予測される。
Sinclair教授とUNSWのLindsay Wu博士は、2016年12月にNASAのiTech大会において最優秀賞を勝ち取った同僚チームである。「我々は生物学的問題の解決策を提示し、300件のエントリーの中から最優秀賞に選ばれました。」とWu博士は語る。
宇宙線は宇宙飛行士だけの問題ではない。私たちもまた航空機に乗っている際に受けている。例えばロンドン・シンガポール・メルボルン便では、胸部X線撮影と同等の放射能を浴びることになる。
理論的には、フリークエント・フライヤーにも本治療法を用いてDNA損傷の影響を緩和することができる。他にも、小児癌生存者においてもこの治療は有用である。
Wu博士によると、小児がん生存者の96%が45歳までに慢性疾患を罹患する。これらは心血管疾患、2型糖尿病、アルツハイマー病、および元の癌とは無関係の癌を含む。
「老化の加速はあらゆる機能にダメージを与えていくものですが、それを改善していく事が出来れば素晴らしいことであり、私たちはこの分子でそれを成し遂げることが出来ると信じています。」と、Wu博士は語る。
ついにアンチエイジング薬に兆しが
過去4年間に渡り、Sinclair教授とWu博士は、MetroBiotech NSWとMetroBiotech Internationalとの間でNMNを医薬品化することに取り組んできた。
今年ついにボストンのブリガム・アンド・ウィルス病院でヒトの臨床試験が始まる。
NAD+とNMNの発見は、UNSW研究所が過去4年間を費やしてきた研究に勢いを与えることになるだろう。
研究者たちは、老化過程における多数のタンパク質と分子の相互作用とそれらの役割について検討してきた。彼らはすでに、NAD+が老化や女性不妊の様々な疾患の治療に有用であり、また化学療法の副作用の治療に有用であることを立証している。現に2003年にはSinclair教授が、アンチエイジング酵素SIRT1と赤ワインに微量に含まれる天然分子であるレスベラトロールとの関連性を明らかにしている。
「レスベラトロールはSIRT1だけを活性化しますが、NAD+ブースターは7種類全てのサーチュインSIRT1-7を活性化し、健康と寿命にさらに大きな影響を与えるはずです。」とSinclair教授は語った。
写真は教授David Sinclair教授(手前)と彼のUNSWチームである。 (提供:Britta Campion)。
原著へのリンクは英語版をご覧ください
NAD+ “Booster” Could Have Significant Anti-Aging Effects



