細胞外小胞に抗体様RNAナノ粒子を付加した新世代の抗がん剤の開発へ

細胞外小胞に抗体様RNAナノ粒子を付加した新世代の抗がん剤の開発へ

サイエンス出版部 発行書籍

細胞外微小胞(extracellular microvesicles)に抗体様RNAナノ粒子を結合させることで、低分子干渉RNA (siRNA) など効果的なRNA薬剤を選択的にがん細胞に向けて送り込めることが新しい研究で示されている。研究チームは動物モデルの3種のがんを対象に、RNAナノテクノロジーを用いて、この実験にRNAナノ粒子を使い、微小なRNA薬剤を搭載した細胞外微小胞をがん細胞に向けて送り込むことに成功した。



2017年12月11日付Nature Nanotechnologyオンライン版に掲載された研究成果が、siRNA、microRNAその他のRNA干渉技術を用いた新世代の抗がん剤の開発に結びつくことも考えられる。この論文は、「Nanoparticle Orientation to Control RNA Loading and Ligand Display on Extracellular Vesicles for Cancer Regression (ナノ粒子配向で細胞外小胞のRNA搭載とリガンド・ディスプレイを制御し、がん退縮を狙う)」と題されている。


この研究は、Ohio State University College of PharmacyとOhio State University Comprehensive Cancer Center – James Cancer Hospital and Solove Research Institute (OSUCCC – James) の研究チームが主導して行った。この研究の研究責任者、College of PharmacyのSylvan G. Frank Endowed Chair ProfessorでOSUCCC – James Translational Therapeutics Programのメンバーも務めるPeixuan Guo (写真), PhDは、「siRNA、RNA干渉技術を用いた治療法ががん治療を大きく変えようとしている。しかし、このような作用因子を評価する臨床治験は、作用因子を人体のがん細胞に直接送り込むことができないためにことごとく失敗している」と述べている。


Dr. Guoは、「作用因子ががん細胞に入り込めた場合でも、エンドソームと呼ばれる細胞内小胞に取り込まれ、効果を失う。しかし、私達の研究結果で、抗がん治療法として有望なこの手法を妨げている2つの大きな問題を解決できる。一つには小胞をがん細胞に向けて送り込むこと、もう一つはがん細胞に取り込まれた小胞をエンドソームに閉じ込められないようにすることである。この研究では、人間患者から採取したがんを植え付けた動物モデルに作用因子の粒子を全身的に注射したところ、がんの成長が止まった。現在、この技術を臨床治療に置き換える作業を進めている」と述べている。

Dr. Guoの研究チームは、次のように、3種のがんタイプで過剰発現される表面マーカーと結合するアプタマーと呼ばれる抗体様RNA分子をディスプレーする細胞外微小胞を作成した。前立腺がんを阻止するためには前立腺特異的膜抗原 (PSMA) に結合するよう設計された小胞、乳がんを阻止するためには上皮成長因子受容体 (EGFR) と結合するよう設計された小胞、人間由来の移植大腸がんを阻止するためには葉酸受容体に結合するよう設計された小胞をそれぞれ作成した。

小胞はいずれも、試験治療として、サバイビン遺伝子を下方制御する低分子干渉RNAを搭載している。サバイビン遺伝子はアポトーシスを阻害するもので、様々ながんタイプで過剰発現される。その結果、前立腺特異的膜抗原を標的にした小胞は、動物モデルで前立腺がんの進行を阻止し、毒性は検出されなかった。EGFRを標的にした小胞は、動物モデルで乳がんの進行を阻止した。また、葉酸受容体を標的にした小胞は、動物モデルで人間由来の大腸がんの進行をかなり抑制した。

Dr. Guoは、「私達の研究結果を概要すれば、干渉RNAを特にがん細胞に送り込むために、RNAナノテクノロジーを使って自然の細胞外小胞をプログラムすることができるということだ」と述べている。この研究チームのメンバーとして、The Ohio State University Wexner Medical Center所属のFengmei Pi、Daniel W. Binzel、Zhefeng Li、Hui Li、Farzin Haque、Shaoying Wang、Carlo M. Croceの各氏、University of Houston所属のMeiyan Sun、Bin Guoの両氏、University of Kentucky所属のPiotr Rychahou、B. Mark Evers両氏、現在University of Texas所属のTae Jin Lee氏らが名を連ねている。

BioQuick News:Researchers Invent Novel RNA Nanotech to Decorate Extracellular Vesicles (ECVs) for Effective Cancer Therapy

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Edited by Michael D. O'Neill

Michael D. O'Neill

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