カロリー制限がエピジェネティックドリフトを遅らせ、寿命を延ばす可能性が示された

1世紀近く前、特定動物でカロリー摂取を抑えると寿命が飛躍的に伸びることが突き止められたが、それ以後、数々の研究の積み重ねにもかかわらず、その原因は詳しく解明されていない。Temple University (LKSOM), Lewis Katz School of Medicineの研究グループが難関を乗り越え、解明に向けて一歩を進めた。
2017年9月14日付Nature Communicationsオンライン版に掲載された新研究で、加齢と共にエピゲノムの変化する速度が種全体の寿命と関係があり、カロリー摂取制限でこの変化速度を抑えられることが突き止められ、長寿と関わっている可能性を示しているのである。
この研究論文は、「Caloric Restriction Delays Age-Related Methylation Drift (カロリー制限で加齢に伴うメチル化ドリフトを遅らせる)」と題されている。LKSOM のFels Institute for Cancer ResearcのDirectorで、この新研究で主任研究員を務めたJean-Pierre Issa, MDは、「私達の研究で、加齢によるゲノム内のDNAメチル化の得失似独特のパターンを持つエピジェネティックドリフトがヒトよりサルで、またサルよりマウスでより速く進むことが明らかになった」と述べている。
この研究結果で、マウスが平均で2,3年しか生きないのに、アカゲザルは約25年、ヒトは70年から80年生きることも説明がつく。
DNAメチル化のような化学修飾が哺乳動物の遺伝子を制御しており、遺伝子が起動される時のための目印の役目を果たしており、この現象はエピジェネティックと呼ばれている。Dr. Issaは、「メチル化のパターンは加齢に従って着実にドリフト(漂流)していき、ゲノムの一部ではメチル化が増すのに対して他の部分でメチル化が減ることがある」と述べている。以前の研究で、このような変化は加齢とともに起きることが示されていたが、その変化が寿命と関係しているのかどうかは明らかではなかった。
Dr. Issaの研究チームは、マウス、サル、ヒトという3つの種の異なる年齢の個体から採取した血液のDNAのメチル化パターンを初めて調べ、この発見につながった。マウスは2,3か月から3歳近い年齢、サルは1歳未満から30歳まで、ヒトは零歳から86歳までの範囲だった。ヒトの零歳児は血液採取の代わりに臍帯血を用いた。
加齢に伴うDNAメチル化の偏差をディープ・シーケンシング技術で解析し、その結果、メチル化が起きるゲノムの部位は年長の個体と若い個体では逆転しており、年長個体でメチル化が進むのは若い個体で非メチル化されている部位だという明白な違いがあった。
その後の分析では、遺伝子発現の著しい損失が、加齢とともにますますメチル化されたゲノム領域で観察されたが、メチル化がより少なくなった領域は、遺伝子発現の増加を示した。 年齢に関連したメチル化の変化によって影響を受ける遺伝子のサブセットの調査は、メチル化ドリフトと寿命との間に逆の関係を示した。 言い換えれば、エピジェネティックな変化の量が増え、より迅速に起こる - 種の寿命が短くなる。
「私たちの次の問題は、エピジェネティックドリフトが寿命を延ばすために変更できるかどうかであった」とIssa博士は言う。動物の寿命を延ばすことが知られている最強の要因の1つは、必須栄養素の摂取を維持しながら、食事中のカロリーを減らすカロリー制限です。その影響を調べるために、研究者らは、若いマウスでは40%のカロリー摂取量を、中年のサルでは30%のカロリー摂取量を削減した。両方の種において、エピジェネティックドリフトの有意な減少が観察され、カロリー制限食餌上の老齢動物における加齢に関連するメチル化の変化は、幼若動物に匹敵した。
最新の知見により、Issa博士らはカロリー制限が動物の生存をどのように延長するかを説明する新しいメカニズム(エピジェネティックドリフトの遅延)を提案することができます。 「カロリー制限が寿命に及ぼす影が最近の研究では、エピジェネティックドリフトの量が多いほど癌を含む加齢性疾患のリスクが高まることが示唆されている。
健康研究において重要な意味を持っています。
「私たちの研究室は、エピジェネティックなドリフトを病気のリスクを改変する方法として改変する考えを最初に提案しました」とDr. Issaは言います。
しかし、なぜエピジェネティックなドリフトが一部の人々で速く起こり、他のものでは遅いのかはまだ不明である。
Issa博士のチームは、メチル化のドリフトに影響を及ぼす追加要因をすぐに特定したいと考えています。 このような要因は、年齢関連疾患の予防に大きな影響を及ぼすドリフトを遅らせるために潜在的に変更される可能性がある。
響は数十年前から知られていましたが、現代の定量的技術のおかげで、寿命が延びるにつれてエピジェネティックドリフトの著しい減速を初めて示すことができました。
この新しい研究に貢献した他の研究者には、前川真司、田原智光、ジャスティン・リー、ジョゼフ・マジョ、ジャロスラフ・ジリネク、フェルス・インスティチュート・リサーチ・アンド・分子生物学研究所、ルイス・カッツ医学部、テンプル大学、 Texas、MDアンダーソンがんセンター、ヒューストン、テキサス大学、Epigenetics and Molecular Carcinogenesis部、Yue Lu; テキサス大学MDアンダーソンがんの生物統計学および計算生物学科、Shoudan Liang; Wisconsin National Primate Research Center、Wisconsin、Madison、Wisconsinの細胞および再生生物学科のRicki J. Colmanとなっております。
原著へのリンクは英語版をご覧ください。
Caloric Restriction Slows Epigenetic Drift and Slower Epigenetic Drift May Be Mechanism Underlying Extended Lifespan