パーキンソン病におけるプレシジョンメディシンの未来:腫瘍学的アプローチの必要性
パーキンソン病の定義、研究、および治療への転換的アプローチが発表された。これを概説している2つの文献はNature Reviews Neurology and Movement Disorders誌にオンライン掲載されている。共にシンシナティ大学(UC)Gardner Neuroscience Instituteの研究者が共同執筆者として携わっている。パーキンソン病を単一の実体として治療するのではなく、特定の症状または分子的特徴に基づいて、患者の異なる「ノードまたはクラスター」への治療を目的とするべきだと、この国際研究グループは主張する。
「私たちが何をすべきかを問い直す時が来ているのです。医科学は、パーキンソン病の進行を遅らせることを目標とし、その治療研究に230億ドルの世界的投資をしてきました。そして行われた17ものⅢ臨床試験は、残念ながらほとんど成果を上げていません。こんなにも結果が出ないのは、単一疾患・単一目的のアプローチで治療法を確立しようとしているからではないでしょうか。」と、本研究の筆頭著者であるAlberto Espay医師は説明する。Espay博士はUC医科大学の神経学准教授であり、James J. and Joan A. Gardner Family Center for Parkinson's Disease and Movement Disordersのディレクターも務める。
パーキンソン病は単一の疾患ではなく、遺伝的および分子的な観点から考えるといくつかの病気の集まりである、とEspay博士らは考える。彼らは、パーキンソン病をドーパミンニューロン変性を主な原因とする単一障害として見ることは、大多数の患者が抱える震えや不安定な歩行などといった症状に対する治療法の開発に有用であったことを認めている。同時に、この見解は、パーキンソン病の進行を遅らせ、修正または治癒するのに有効な療法をいまだ提供出来ていない。有望とみられる分子療法については大規模な臨床試験も行われているが、これはパーキンソン病という診断を共有する患者全体で試験されており、最も有益であろう特定の疾患亜型までは突き詰められていない、というのが理由の一つであるとEspay博士は述べる。そこで研究者らが提唱するのが「プレシジョン・メディシン(精密医療)」アプローチである。これは生物システムの複雑な相互作用に焦点を当てた学際的な研究であるシステム生物学に根ざしたものである。
「システム生物学の観点から病気を見ることで、我々の患者は遺伝的、生物学的および分子的異常に基づいたサブタイプに分けることができます。そのため、治療法に対する反応も異なってくることでしょう。」とEspay博士は言う。
神経科医であれば、パーキンソン病患者の多種多様性を観察してきたことであろう。病気が急速に進行する者もいれば、遅く進行する者もいる。比較的早期に認知症を発症する者もあれば、認知症を発症しない者もいる。
試験ではさらに、αシヌクレインというタンパク質が脳、結腸、心臓、皮膚そして嗅球に様々な程度で沈着することも明らかになった。このたんぱく質沈着がパーキンソン病患者の共通点であると考えられてきたのだが、もしかするとこれは一連の生物学的異常の副産物であり、治療の目的とするのは最良ではない可能性がある。 「これを追求していけば、今まで隠れていたものが見えるかもしれません。」とEspay博士は言う。
理想的なバイオマーカーのセットを目指して
Espay博士らは、分野全体で理想的なバイオマーカーのセットを開発することに努めなければいけないと言う。Parkinson's Progression Markers Initiative (PPMI)のMichael J. Fox Foundationより4500万ドルの投資がされているのだ。シンシナティの33ヵ所のPPMI研究のサイトリーダーであるEspay博士は、基礎的な疾患プロセスを特定するバイオマーカーを研究者が発見するのに役立つと期待している。
理想的なアプローチとしては、高齢者集団における「生物学的アセスメント」から始めることである、とEspay博士らは述べる。アセスメントは脳スキャンや遺伝的プロファイルなどを含む健康・不健康な個人の生物学的測定値を経時的に記録する。そして異常シグナルが発見された場合には、それが出現する人々のグループまで追跡される。そうすることで、特定の疾患亜型の作成を促すための「偏りのないバイオマーカー」が開発できる。
「バイオマーカーを患者の観察可能な臨床的特徴や表現型とつなげることで確認する。これは現在用いられているプロセスとは逆のものなのです。」そしてその昔、「癌の治癒」を求めて研究していた時と似ている、とEspay博士は言う。
研究者が「癌の治癒」を求めた時です。がん研究者は、焦点の定まらない研究から遂にがんの複雑さを理解するまでに何十年もかけた。癌の分子プロファイルを調べることで、独自の突然変異または脆弱性を標的とすることを学んだのだ。そうしていくうちに、プレシジョン・メディシンの時代に導かれた - 病気の亜型と薬物のマッチングである。
「未来の神経学者は、現在の腫瘍学者のようになるでしょう。パーキンソン病の診断は、バイオマーカープロファイリングが疾患亜型を特定し、適用する疾患改変治療法を提供できるようになって初めて完了するのです。」とEspay博士は説明する。
Espay博士は共同研究者であるGardner Centerの研究コーディネーターのHilary Perez博士とともにUCのバイオマーカー開発をリードする。これは北アメリカ・パーキンソンセンターで最大規模のネットワークを誇るParkinson Study Groupとの共同研究である。
原著へのリンクは英語版をご覧ください
Researchers Help Map Future of Precision Medicine in Parkinson’s Disease; Argue for Oncology-Like Approach of Matching Drugs to Disease Subtypes
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