アルツハイマー、ハンチントン、パーキンソン、この3人の人名は、いずれも脳のニューロンを損壊させ、その部位全体を萎縮させた上に死に至らしめる病気の名前として永久に記憶されることになる。この3つの病気だけでなく、神経変性疾患と呼ばれる病気のほとんどが、有毒タンパク質の蓄積で最終的にニューロンが死滅すると関連して捉えられている。

 

しかし、Gladstone Institutesの研究者チームが、この種の病気の進行は有毒物質の蓄積が原因なのではなく、個々のニューロンが毒素を排出できなくなるところに原因があることを突き止めた。さらに、同チームは、ニューロンの毒素を排出する能力を増強し、それによって、疾患の致命的な影響から脳を守る治療ターゲットを突き止めている。
2013年7月21日付オンライン版「Nature Chemical Biology」に掲載された記事で、Gladstone研究室の同研究チームの一人で研究員のSteve Finkbeiner, M.D., Ph.D.は、新しく開発された技術で初めて、個々のニューロンが有毒なタンパク質の蓄積に対処する様子を見ることができたと述べている。グループは研究対象をハンチントン病のモデルに絞り、脳内の異なるタイプのニューロンがそれぞれ毒素の蓄積に異なる反応を示し、うまく対応できるニューロンもあればできないニューロンもあることを観察した。
その成果は、ハンチントン病によってある部位のニューロンは死滅し、他の部位のニューロンは生き延びるということが起きるのはなぜかという問題にヒントを与えてくれている。

GladstoneのTaube-Koret Center for Neurodegenerative Disease Researchの長を務めるDr. Finkbeinerは、「ハンチントン病は、遺伝性の致命的な疾患で、筋肉協調、認識力、人格などを衰えさせるが、脳内に毒性を有する突然変異型ハンチンチン・タンパク質が蓄積することを特徴としている」と述べている。Dr. Finkbeinerは、Gladstone Instituteと提携関係にあるUniversity of California, San Franciscoの神経学と生理学の教授も務めており、「長年、研究者にとって謎だったのは、突然変異ハンチンチン・タンパク質の蓄積が細胞の変性や死滅を引き起こす仕組みだが、昔の技術では、この過程を細胞レベルで見ることも、まして観察することも現実に不可能だった。
私たちの研究では光学パルス・ラベリング、OPLという手法を用いた。この手法により、突然変異したハンチンチンが時間をかけてニューロンからニューロンへと少しずつ脳を損壊させていく様子を観察することができた」と語っている。

研究チームは、マウスのハンチントン病モデルから抽出したニューロンを対象に、OPL法を用い、異なるタイプのニューロンがそれぞれ突然変異型ハンチンチンを排出する速さと効率を観察した。その結果、早く毒素を排出できるニューロン細胞ほど長生きし、逆に長生きするニューロン細胞ほど毒素の排出も速いことが観察された。

しかし、研究チームにとって驚異だったのは、ニューロンのタイプによって、突然変異型ハンチンチンを排出する能力にはっきりとした違いがあるということだった。筋肉運動に障害を引き起こすハンチントン病は主として脳の線条体と呼ばれる部分を冒すが、この部分のニューロンが特にハンチンチンに対して弱かった。一方、皮質や小脳など他の部分のニューロンはそれほど弱くなかった。
さらに突然変異型ハンチンチンを含んだ線条体ニューロンの追跡調査を行ったところ、脳の他の部分のニューロンよりも死滅しやすいことが突き止められた。

細胞はいずれも過剰なタンパク質を排出するため、主に2つのプロセスを行っている。一つはユビキチン・プロテアソーム系 (UPS)、もう一つは自食作用である。この2つのプロセスはまったく異なるメカニズムだが、その目的は同じで、いずれも過剰なタンパク質を食べて分解し、効果的に排出し、正常な細胞活動に干渉させないようにしている。
研究チームは、特に線条体のニューロンが自食作用の崩壊に弱いということも発見したが、その問題を避ける方法も見つけた。研究チームは、ニューロン中のNrf2と呼ばれるタンパク質の活動を促進することで自食作用を人工的に加速させたのである。


この研究の筆頭著者で、元Gladstone博士研究員のAndrey Tsvetkov, Ph.D.は、「ハンチントン病に弱いニューロン中のNrf2生産を促進する医薬の開発ができればニューロンの寿命を延ばすことができ、この疾患の最悪の症状を抑えることができる。重要なのは、この研究の結果から、脳そのものも、ハンチントンのような疾患に対する抵抗のメカニズムを進化させる能力を持っていることが実証されたことだ。たとえば、突然変異型ハンチンチン・タンパク質は生まれた時から体にできているにもかかわらず、40歳か50歳になるまでハンチントンの症状が現れてこないということも、脳が疾患の効果を抑えている能力を持っている証拠だ」と語っている。

Dr. Finkbeinerは、「この研究の成果は、ハンチントンなどの疾患を引き起こすメカニズムを明らかにしただけでなく、疾患を引き起こすタンパク質だけに注目し、個々の細胞の反応について考えないのでは一面的に過ぎないということを思い出させてくれている。ハンチントンのような複雑な疾患を真に理解するためには脳が自然に防衛機能を進化させてきたこともよく考えなければならない。この研究が示すように、全く新しい治療方法が可能になるかも知れない」と語っている。

Gladstoneでは、Montserrat Arrasate, Ph.D.、Sami Barmada, M.D., Ph.D.、Punita Sharma, Ph.D.もこの研究に参加していた。また、研究は、National Institute of Neurological Disease and Stroke、the National Institute on Aging、the Huntington's Disease Society of America、the Taube-Koret Center for Neurodegenerative Disease、the Hereditary Disease Foundation、the Hilblom Foundation、the California Institute for Regenerative Medicine、the National Center for Research Resources、James E. Bashawの家族などの支援を受けて行われた。

■原著へのリンクは英語版をご覧ください:Scientists ID Potential Target to Reduce Deadly Protein Buildup in Huntington’s Disease

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