成人の脳腫瘍で最も一般的で致命的なタイプの膠芽腫(グリオブラストーマ)に対する効果的な治療法の開発は遅々として進まないが、アリゾナ州のTranslational Genomics Research Institute (TGen) の研究者の率いる研究グループが「効果的な阻害物質」を発見した。
2017年1月17日付の学術誌「Oncotarget」オンライン版に掲載されたTGen率いる研究チームの論文によると、ある種の化学的なカスケード反応で膠芽腫細胞が正常な脳組織に侵入し、化学療法に対しても放射線療法に対しても耐性を持つようになるが、研究室の実験で、アウリントリカルボン酸 (ATA) がこのカスケード反応を阻止することが示された。
この論文は、「Identification of Aurintricarboxylic Acid As a Selective Inhibitor of the TWEAK-Fn14 Signaling Pathway in Glioblastoma Cells (膠芽腫細胞中のTWEAK-Fn14シグナル経路の選択的阻害物質アウリントリカルボン酸の判定)」と題されている。この論文の筆頭著者で、TGen, Cancer and Cell Biology Divisionの准教授を務めるDr. Harshil Dhruvは、「この研究成果は、多形性膠芽腫 (GBM) の効果的な長期治療法を探す私たちの努力に対して明るい見通しを与えてくれた」と述べている。
膠芽腫の初期治療としては、腫瘍の外科的切除、放射線療法やtemozolomide (TMZ) を用いた化学療法が行われている。しかし、膠芽腫は周辺脳組織に浸潤するという厄介な傾向があり、腫瘍細胞を全て外科的に取り除くことは難しい。加えて、浸潤性膠芽腫はTMZへの耐性も示し、最終的に、それもほとんどの場合1年以内にがんが再発し、がん死に至る。最近は治療法にも進展があったとはいえ、膠芽腫患者の生存期間中央値はわずか15か月にとどまっており、過去30年、生存率統計に大きな改善が見られない。アメリカでは毎年16,000人以上の人が脳・神経系のがんで亡くなっている。
この研究の共著者で、TGen Deputy DirectorのDr. Michael Berensは、「もっと効果的な膠芽腫治療法を見つけなければならないのだが、膠芽腫の進行を促し、致命的な疾患にしてしまう細胞経路を遮断するATAの機能を突き止めた今、膠芽腫患者にも本当の希望が訪れるのではないか」と述べている。TGenが主導して行った過去の研究で、TWEAKやFn14の分子の結合によって膠芽腫細胞が刺激され、健康な脳組織に移動、浸潤し、そこで生き残る機序が突き止められている。今回発表された論文では、ATAが、TWEAK-Fn14細胞経路の抑制物質であることが示されている。ATAのこの抑制作用によって、がんが化学療法や放射線療法に対する耐性を失う。ここで重要なのは、TWEAK-Fn14信号伝達を抑制する能力を持つアクティブな化合物のスクリーニングでATAの作用が発見されたということである。
ATAは、GBM治療の新医薬開発の出発点として申し分ない。研究論文の首席著者兼責任著者を務めたDr. Nhan Tranは、「これらのデータから、ATAを足場として、これに改造を加え、GBMの浸潤性を抑える有効な医薬の開発や、GBMの化学療法薬剤の効力を増強するようにその特性を改善することもできる」と述べている。St. Joseph's Hospital and Medical Center、Mayo Clinic、University of Maryland School of Medicineもこの研究に協力した。また、この研究には、The Ben & Catherine Ivy Foundationからの資金とNational Institutes of Health (NIH) からの研究助成金が与えられた。アリゾナ州のBen & Catherine Ivy Foundation設立者で、現在、会長を務めるCatherine (Bracken) Ivyは、「TGenの研究は、膠芽腫治療法の飛躍的な改善に向けて一歩一歩歩みを進めている。私たちの目標は、患者の寿命を伸ばし、究極的には膠芽腫の治療法を見つけることにある」と述べている。この研究では、ATAに対する細胞の弱点を示す手がかりを探し、次にATAの化学構造を利用して、これを改造し、GBM治療を改善する医薬の開発に導くことを将来の研究方向として述べている。
原著へのリンクは英語版をご覧ください
TGen Identifies Compound with Potential Utility in Treatment of Glioblastoma



