選択的にβセクレターゼを阻害するアルツハイマー治療薬候補物質の開発に成功
サイエンス出版部 発行書籍
アルツハイマー患者を治療する薬剤の開発研究は、過去何十年かにわたり、世界中で熱心に行われてきた。診断に関しては大幅な進歩があり、この疾患をますます早く、また正確に見つけることができるようになったが、選ぶ薬剤となるとまだ限られている。
脳にタンパク質が蓄積するのがアルツハイマーの特徴であり、慢性的に進行する脳細胞壊死に関わっているとされている。
現在では、この疾患も、認知症徴候が現れるより前の最初期段階で発見できるようになってきた。
このタンパク質の塊は、βセクレターゼとγセクレターゼという2つの酵素がアミロイド前駆体タンパク質 (APP) を三つの部分に切断してできる、βアミロイド・ペプチド (Aβ) という有害なタンパク質の破片が主要部分を占めている。
もしβセクレターゼ、またはγセクレターゼが遮断されると、それ以上の有害Aβペプチドの生成も阻害される。
そのため、生物医学的な研究は、医療的突破口としてこの2種の酵素を重点に進められてきた。
しかし、これまでのところ、γセクレターゼを遮断する化学物質を用いた臨床研究の結果はそれほど芳しくない。問題は、この酵素が細胞の他の重要なプロセスにも関わっているということである。
この酵素を阻害すると、消化管出血や皮膚がんなど激しい副作用を引き起こす結果になるのである。
そこで、研究者は長年βセクレターゼにも注目して研究を進めてきた。
University of Zurich, Institute of Regenerative Medicine, Systems and Cell Biology of NeurodegenerationのLawrence Rajendran教授の率いるチームは、スイス、ドイツ、インドの研究者らとの共同研究でβセクレターゼの他の重要な機能には影響せず、病原性機能だけを遮断する標的物質を開発した。この研究論文は、2016年2月25日付Cell Reports誌オンライン・オープン・アクセス版に掲載され、「Specific Inhibition of β-Secretase Processing of the Alzheimer’s Disease Amyloid Precursor Protein (アルツハイマー・アミロイド前駆体タンパク質のβセクレターゼ・プロセスの選択的阻害)」と表題されている。
数多くの化学物質が開発され、中にはマウス・モデルでAβの量を効果的に減らすというかなり有望なものもあった。しかし、細胞生物学者のRajendran教授によると、このような物質もやはり同じ問題を引き起こすのであり、「現在あるBセクレターゼ阻害物質は、アルツハイマー進行の原因になる酵素の働きを遮断するだけでなく、生理的に重要な細胞の働きも遮断してしまう。そのため、現在、臨床研究で試験されている化学物質も厄介な副作用を引き起こし、失敗に終わる可能性がある」と述べている。この問題を解消するため、研究論文の第一著者でRajendran教授研究室所属のSaoussen Ben Halimaと同僚研究者は、βセクレターゼを選択的に阻害する方法を探して研究を続けた。有用な機能を損なわずに有害な特性だけを遮断する方法を探したのである。実験を重ねていく過程で、βセクレターゼによるアルツハイマー・タンパク質APPの切断は、細胞内の膜で包まれたエンドソームという特別な部分でのみ見られることを突き止めた。その他の重要なタンパク質は細胞の他の部分で処理されていた。研究チームは、異なるタンパク質の処理が細胞内の異なる部分で行われるという事実に着目した。
サマリーで、Rajendran教授は、「研究チームは、Aβペプチドが生成されるエンドソームでのみβセクレターゼを阻害する化学物質の開発に成功した。この阻害物質の選択的な効力は、将来、深刻な副作用を伴わないアルツハイマーの効果的な治療法につながるだろう」と述べている。この研究チームの次の目標は、この薬剤候補をさらに改良し、まずマウスで試験し、最終的にアルツハイマー患者での臨床研究を実現することである。
原著へのリンクは英語版をご覧ください
Newly Developed Substance Inhibits Beta-Secretase Specifically in Endosomes Where Harmful Beta-Amyloid of Alzheimer’s Is Formed
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