細胞タイプ別エピジェネティック時計が生物学的年齢を測定—老化研究の新たなブレイクスルー
2024年12月29日に、Aging(MEDLINE/PubMedでは「Aging (Albany NY)」、Web of Scienceでは「Aging-US」)のVolume 16, Issue 22の表紙を飾る優先研究論文(Priority Research Paper)が発表されました。論文タイトルは、「Cell-Type Specific Epigenetic Clocks to Quantify Biological Age at Cell-Type Resolution」(細胞タイプ別エピジェネティック時計による生物学的年齢の測定)」です。本研究は、中国科学院(Chinese Academy of Sciences)およびオーストラリア・モナシュ大学(Monash University, Melbourne, Australia)の研究チームによって行われました。彼らは、個々の細胞タイプの老化を測定する新しい手法を開発し、アルツハイマー病や肝疾患などの病態解明に役立つ可能性を示しました。このツールにより、より正確な健康評価が可能となり、標的を絞った治療法の開発につながると期待されています。
生物学的年齢の測定とエピジェネティック時計の進化
生物学的年齢とは、個人の実年齢とは異なり、体の老化度合いを示す指標です。これまでの研究では、DNAメチル化のパターンに基づく「エピジェネティック時計(Epigenetic Clocks)」が、生物学的年齢の推定に用いられてきました。しかし、従来の方法は、特定の組織全体の細胞をまとめて分析するため、組織を構成する異なる細胞タイプごとの老化プロセスを詳細に把握することが困難でした。
この課題に対応するため、フイゲ・トン(Huige Tong)、シャオロン・グオ(Xiaolong Guo)、マクスー・ジャック(Macsue Jacques)、チー・ルオ(Qi Luo)、ニル・アイノン(Nir Eynon)、アンドリュー・E・テシェンドルフ(Andrew E. Teschendorff)らの研究チームは、ヒトの脳および肝臓組織から採取したDNAサンプルを分析し、新たな解析手法を開発しました。
高度なコンピューターモデルを活用して、健康な人と疾患を持つ人のDNAメチル化の変化を解析することで、特定の細胞タイプごとの生物学的老化を測定することが可能になりました。この手法により、アルツハイマー病や肝疾患などの病態における老化の影響をより正確に理解することができるようになりました。
アルツハイマー病と肝疾患における細胞タイプ別の老化パターン
本研究では、アルツハイマー病(AD)患者の脳において、特定の脳細胞(ニューロンやグリア細胞)が加速的に老化していることが明らかになりました。
「ニューロンおよびグリア細胞に特異的なエピジェネティック時計は、アルツハイマー病において生物学的年齢の加速を示しており、特に側頭葉のグリア細胞でその影響が最も顕著でした」と研究チームは述べています。
また、脂肪肝や肥満といった肝疾患では、肝細胞のエピジェネティック時計が加速的な老化を示し、従来の方法よりも精度の高い病態検出が可能であることが確認されました。
この新しいアプローチは、組織全体の細胞構成の変化と個々の細胞の老化プロセスを区別することができるため、加齢がどの細胞タイプに最も影響を及ぼすのかを明確にし、疾患の発症メカニズムの解明につながります。
老化研究の新たな展望—標的治療への応用
本研究の成果は、加齢に伴う疾患の予防、診断、治療の精度向上に大きく貢献する可能性を示しています。
「細胞タイプごとの老化プロセスを詳細に把握することは、老化研究の精度を高める上で極めて重要です。これにより、加齢の影響を受けやすい細胞を特定し、標的を絞った治療法の開発が可能になります。」と研究チームは結論づけています。
この新たなエピジェネティック時計技術は、アルツハイマー病や肝疾患だけでなく、他の加齢関連疾患にも応用される可能性があり、今後の研究や臨床応用に向けたさらなる発展が期待されます。


