脳・脊髄損傷や神経変性疾患の回復を再定義する可能性を持つ画期的な生体材料

英・バース大学とキール大学の研究者らが、神経幹細胞(の成長を促進する新しい複合材料を開発しました。この材料は、中枢神経系(CNS)の損傷や神経変性疾患の新たな治療法としての可能性を秘めています。この革新的な材料はセルロースと圧電セラミック粒子から作られており、持続可能性に優れ、脳や脊髄の損傷を修復する特性を持っています。さらに、アルツハイマー病やパーキンソン病といった神経変性疾患の治療にも応用できる可能性があります。2025年1月6日にCell Reports Physical Sciences誌に発表された論文では、この材料の詳細が解説されています。論文タイトルは、「3D Piezoelectric Cellulose Composites As Advanced Multifunctional Implants for Neural Stem Cell Transplantation」(神経幹細胞移植のための先進的な多機能3D圧電セルロース複合インプラント)」です。

 電気活性を持つ移植用材料が脳・脊髄の細胞再生を促進

バース大学とキール大学の専門家が開発した3D圧電セルロース複合材料は、神経幹細胞(NSCs)を損傷部位に精密に移植できる「足場」として機能し、ニューロンや関連組織の修復・再生を促進することが明らかになりました。 

研究チームは、エンジニア、化学者、神経科学者の専門知識を結集し、運動機能・感覚機能・認知機能の回復を目指す新たな治療法の可能性を探求しています。脳や脊髄の外傷性損傷(TBI・SCI)に加え、アルツハイマー病やパーキンソン病といった神経変性疾患にも応用できる可能性があります。

「この生体材料は、中枢神経系の損傷や神経変性疾患からの回復の概念を再定義する可能性を秘めています。」と、バース大学機械工学科のハミデ・カンバレー博士(Hamideh Khanbareh, PhD)は述べています。

「この技術が実用化されれば、患者が失った重要な機能を取り戻す手助けができるかもしれません。また、医療現場で活用できる新たな治療ツールを開発するための基盤となる可能性もあります。」と、カンバレー博士は続けます。

「医療技術の実用化にはまだ多くの課題がありますが、この高度な持続可能な複合材料が、多機能な特性を備えた新しいバイオマテリアルの分野を開拓することを期待しています」。

 

多機能性材料がもたらす治療の可能性

Cell Reports Physical Sciences誌に掲載された研究によると、本材料はセルロースとカリウムナトリウムニオベート(Potassium Sodium Niobate, KNN)圧電セラミック粒子で構成されています。この材料を用いた「足場」インプラントは、紙のような小さなチューブ状の構造を持ち、患者ごとにカスタマイズ可能です。

この材料の臨床応用における鍵となるのは、その多機能性と持続可能性です。セルロースは植物や藻類の主要な構造成分であり、豊富に存在し環境にも優しい素材です。

本材料は「方向性凍結鋳造」と呼ばれるプロセスを用いて作られており、細胞が脊髄と同様の方向に成長できるよう最適化されています。これにより、外傷によって損傷した組織を修復し、脳からの信号を伝達する電気経路を再生することが可能になります。

さらに、材料の多孔性により、新しい細胞が自然に成長するためのスペースを提供し、体内の三次元構造を模倣することができます。

最も重要なのは、セラミック微粒子が圧電特性を持つことです。つまり、機械的な刺激(体の動きなど)を受けることで電荷を発生させ、神経幹細胞に適切な刺激を与え、成長を促進する役割を果たします。

このように、機械・電気・生物学的特性を兼ね備えた本材料は、神経幹細胞の移植と再生に最適な環境を提供します。

 

患者ごとのカスタマイズ治療への応用

 本材料は、患者のCTスキャンデータを活用して、脳や脊髄の損傷部位に合わせた3Dインプラントを設計することが可能です。これにより、損傷によって生じたギャップを正確に埋める治療が実現できる可能性があります。

 バース大学化学科の博士研究員ウラド・ジャルコフ(Dr. Vlad Jarkov)は、本研究の主導研究者として次のように述べています。

 「神経幹細胞の成長を促進することは、非常に挑戦的な課題です。神経細胞は体内で最も複雑な細胞の一つだからです。私たちは、機械工学、化学、神経科学、材料科学の専門知識を組み合わせ、この課題に取り組みました」

「高度にカスタマイズされた医療技術として、さらなる研究開発が必要ですが、世界中の脳・脊髄損傷患者を救う解決策につながることを期待しています」

 

今後の展望と課題

今後の研究では、以下の課題に取り組む予定です。

 

生体適合性と有効性の検証

材料および凍結鋳造プロセスの最適化

製造スケールアップ(量産化)の検討

医療規制に向けた準備

[News release] [Cell Reports Physical Sciences article]

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