IVF受精卵の柔らかさで胚生存率を予測し単一胚移植の成功率を向上

IVF受精卵の柔らかさで胚生存率を予測し単一胚移植の成功率を向上

Stanfordのバイオエンジニアと医師の新研究で、受精1時間後という初期段階で卵の硬さを測定するだけで、現行の方法より正確に胚の生存率を予測できることを突き止めた。この手法で、体外受精 ( IVF ) での単一胚移植の成功率を大幅に向上させ、ひいては母子の予後を改善することができる。


現行のIVF胚選別は比較的定性的な作業である。
まず卵を受精させ、5日または6日後、胚が60個から100個の細胞の胚盤胞段階に達すれば、胚のモルホロジーと細胞分裂速度を評価する。その後、もっとも卵割の速い、もっとも形のいい胚を選び出し、移植に用いる。

胚盤胞からいくつかの細胞を採取し、遺伝子検査にかけることでさらに成功率を高めることができるが、このような侵襲的な仕方は、サンプルが最終的には胎盤になる細胞であっても、胚にストレスを与えることになる。
どちらの場合にも確実な結果は見込めず、失敗率が約70%になることから、医師は母体の子宮に複数の胚を移植し、どれか一つが着床すればと期待することになる。しかし、これが厄介な問題を引き起こすことがある。


2016年2月24日付Nature Communications誌オンライン版に掲載されたこのオープン・アクセス論文は、「Human Oocyte Developmental Potential Is Predicted by Mechanical Properties Within Hours After Fertilization (ヒトの卵母細胞受精後1時間以内の機械的特性でその発達能力を予測する)」と題されている。

StanfordのDr. David Camarillo研究室のバイオエンジニアリング・ドクポス研究生で、筆頭著者を務めたLivia Yanezは、「どの胚の生存が見込めるか分からないため、一度にいくつも移植することから、双生児の率が高まる。また、新生児死亡率のリスクが高まり、母子に合併症を引き起こすことがある。私達の望みは、胚の生存率を確実に計れる機械的な試験法を開発し、医師が胚を一つだけ移植し、リスクを減らしつつ高い成功率が期待できるようになることだった」と述べている。

Stanford's IVF laboratoryのDirector、Dr. Barry Behrが、「一部の卵が他の卵より柔らかいことがある」という経験を話したことから、研究チームは、その柔らかさが、受精卵の発達能力と何らかの関係があるのかどうかを調べることにした。複数のマウスの卵を受精させてから1時間後に小さいピペットでその卵にごくわずかに圧力をかけ、各卵が変形する程度を記録した。さらに、胚を標準的な培養液中に入れ、胚盤胞段階で再度チェックした。この時点で、圧力をかけた時に一定程度の跳ね返す感じがあれば、健康な外見の対称的な胚に成長する可能性が高い。研究チームは、このデータから予測コンピュータ・モデルを構築し、受精卵の柔らかさをテストするだけで、優良な胚盤胞にまで成長するかどうかを90%の精度で予測できるようになった。さらに、テストを受けた胚をマウス母体に移植した。「柔らかさ」テストで高い生存率と判定された胚は、従来の方法で高い生存率と判定された胚に比べ、出産率が50%高いという結果が出た。Bioengineering准教授のDr. Camarilloは、「がんその他の疾患では腫瘍や組織が硬くなるということがあるが、こんなに簡単でささいな機械的テストでこんなにも情報が得られるということには研究者一同が驚いている。受精したその日のうちに胚をちょっと押してみるだけで、その胚の生存率も出産率も予測がつくというのはやはり驚くべきことだ」と述べている。

次いで、ヒトの受精卵についても同じ作業を繰り返し、卵の硬さをテストすることで胚が健康な胚盤胞段階に達するかどうかを90%の精度で予測できた。研究チームは現在患者の体内での胚の生存率試験に進めている段階である。同時に、受精卵を押さえるだけでなぜこれほど有力な情報が得られるのか、その謎の解明にも研究を続けている。ただ、ヒトの胚では、硬すぎたり柔らかすぎたりした場合、DNAの修復や細胞分裂の調整、複写中の染色体の整列などに重要な役割を果たす遺伝子グループの発現不足や誤発現があることを突き止めた。さらに、通常は一つの精子が卵に侵入すると直ちに「受精膜硬化」が起き、他の精子の侵入を防ぐが、その受精膜硬化に関わっている遺伝子の発現が抑制されるケースも発見した。これが、生存率が低いとされた胚が成長できない原因の解明につながる可能性もある。Stanford University Medical CenterのObstetrics and Gynecology教授で、この研究の共同著者でもあるDr. Behrは、「臨床的な見地から言えば、ごく短時間で胚の生存率を示す情報を知ることができれば、その利益は大きい。また、その情報に基づいて、患者のサイクルを操作し、成功率を高めることもできる。非常に将来有望な研究であり、この研究に参加できてうれしく思っている」と述べている。

他にも共同研究者として、Stanford School of MedicineのJinnuo Han、元Stanford School of Medicine所属で現在はMontana State Universityで研究を続けているRenee Reijo Peraらが名を連ねている。

原著へのリンクは英語版をご覧ください“Squishiness” of Fertizilized Egg Can Predict Embryo Viability in In Vitro Fertilization (IVF), Stanford Study Shows; Simple Mechanical Measurement May Vastly Improve Success Rate of Single-Egg IVF

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Edited by Michael D. O'Neill

Michael D. O'Neill

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