MicroRNA-148aは狼瘡など自己免疫疾患の治療標的として有望

MicroRNA-148aは狼瘡など自己免疫疾患の治療標的として有望

The Scripps Research Institute (TSRI) の研究チームは、B細胞免疫寛容の主要調節因子と見られるmiR-148aというmicroRNAは、活動が高揚すると全身性エリテマトーデス (SLE、狼瘡とも) など自己免疫疾患の原因になる可能性があることを突き止めた。miR-148aという小さなノンコーディング分子の活動高揚で、自己応答型の免疫B細胞が血流中に入り込み、自身の身体の組織を攻撃するようになることを発見したのである。



この研究論文は、2016年2月22日付Nature Immunologyオンライン版に掲載され、「The microRNA miR-148a Functions As a Critical Regulator of B Cell Tolerance And Autoimmunity (B細胞寛容と自己免疫性の重要な調節因子として機能するmiR-148a)」と題されている。論文第一著者のAlicia Gonzalez-Martinは、その発見に興奮しており、「B細胞寛容の調節に関連して初めて名前が浮かんできたmiRNAだ」と述べている。

また、TSRIのDavid Nemazee教授とともに研究を進めた共同筆頭著者、TSRIのChangchun Xiao准教授は、「これは将来の治療法の標的として有望だ。これがただの副作用ではなく、明確な因果関係を持っていることを突き止めた」と述べている。


B細胞と呼ばれる免疫細胞は骨髄内で成長し、それぞれがランダムな組み換え過程で特定の受容体を獲得し、それによって個別B細胞が、それぞれ異なるウイルスや細菌などの侵入者と戦えるようになる。Dr. Xiaoは、この組み換え過程を、兵士一人ずつに小銃や銃剣など異なる武器を与える作業にたとえている。しかし、B細胞の中にはウイルスや細菌だけでなく、自分の身体の組織を攻撃する自己応答型も現れるため、身体には、そういう自己応答型B細胞を除去するためのB細胞寛容性というチェックポイントがある。このプロセスは、アポトーシスというプログラムされた細胞死に頼っているのだが、自己免疫疾患の場合にはこの働きがおかしくなるようである。Dr. Xiaoは、「何らかの理由で自己応答型B細胞を除去しきれないようだ」と述べている。

この新研究は、Dr. Nemazee研究室の研究チームがマウス・モデルの遺伝子組み換えでB細胞がすべて自己応答型という免疫寛容性を作ったところから始まっている。この組み換えで、細胞はすべて自然の自己寛容プロセスによって自分を除去し続け、最終的にB細胞を持たない身体になった。ところが、マウスが老化するにつれて、いくつかの自己応答型B細胞が血流に入り込むという奇妙な現象に気づいた。この現象は自己免疫疾患患者の細胞の挙動と関わりがあると思われるもので、寛容を阻害し、疾患を起こさせる調節障害の遺伝子を探す手がかりになる。研究チームは、1000種類を超えるmiRNAの一部は、自己応答型B細胞の生存や死滅を調節する遺伝子発現に影響を与えているのではないかとの仮説を立てた。しかし、影響を与えているのがどのmiRNAであるかを正確に突き止めることは困難だった。Gonzalez-Martinは、「私達には、果たしてB細胞寛容を調節しているmiRNAがあるのかどうかさえ確かではなかったから、この研究にはリスクが伴っていた」と述べている。

可能性のあるmiRNAを突き止めるため、研究チームは「わな」を仕掛けた。まず、ウイルスを刺激して、血球や血小板をつくる幹細胞である造血幹細胞中で特定miRNAを発現させることで自己応答型B細胞を生成させ、次に、Nemazee研究室のマウス・モデルの骨髄にこのB細胞を植え付けた。やがて、一部の自己応答型B細胞が脾臓に入り込んだ。その後、その脾臓から、発現miRNAを分離し、分析することで問題のmiRNAを割り出し、miR-148aというmiRNAの発現の高揚がB細胞の血流に入り込む原因になっていることを突き止めた。miR-148aがアポトーシスを司る3種の遺伝子を抑制していたのである。アポトーシスが起きなければ自己応答型の突然変異B細胞は除去されない。

狼瘡のマウス・モデルのmiR-148aを過剰発現させたところ、狼瘡の進行が、正常なmiR-148a発現のマウス・モデルよりも速くなった。興味深いことに、人間の場合でもmiR-148aが過剰発現している狼瘡患者は多い。Dr. Nemazeeは、「このことから、治療によって調節する経路が見つかる可能性が生まれた」と述べている。今後は、身体内でのmiR-148aの他の機能を調べ、miR-148aの動きを抑制しても悪い副作用が出ないことを確認する作業が残っている。

この研究論文の著者として、Dr. Xiao、Dr. Nemazee、Gonzalez-Martinの他、Yale UniversityのBrian D. AdamsとJun Lu、スペインのマドリッド所在のNational Biotechnology CenterのMaria Salvador-BernaldezとJesus M. Salvador、TSRIのMaoyi LaiとJovan Shepherdが名を連ねている。

写真:
写真は、左より、David Nemazee教授、Changchun Xiao准教授、Alicia Gonzalez-Martin研究員。全員TSRI所属。

原著へのリンクは英語版をご覧ください
MicroRNA-148a Is Critical Regulator of B-Cell Tolerance & Autoimmunity; First miRNA Implicated in B-Cell Tolerance; May Be Target for Treatment of Autoimmune Diseases Such As Lupus

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Edited by Michael D. O'Neill

Michael D. O'Neill

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