各種の攻撃手段を備えてがん細胞に侵入し、がん細胞を内側から粉砕する独特なナノスケール抗がん剤にさらに新しい攻撃手段が加わった。免疫系を刺激し、HER2陽性乳がん細胞を攻撃させるタンパク質がそれである。ロサンジェルスのCedars-Sinai Medical Center, Department of Neurosurgery, Maxine Dunitz Neurosurgical Institute, Nanomedicine Research Centerの科学者が率いる研究チームが医薬を開発し、人間の乳がん細胞を植え付けたマウスで研究を行った。 

日本の理化学研究所脳科学総合研究センター(理研BSI)の研究チームは、ユビキチン化タンパク質の凝集体を細胞から選択的に分解するメカニズムを発見した。この発見は、同様の凝集体の補足や除去がp62とよばれるタンパク質のリン酸化によって誘起されることを示し、ハンチントン病やアルツハイマー病などの神経変性疾患の治療に、新たな道を開くことを示唆する。細胞の最も重要な活動の一つは、タンパク質の生産である。 

アメリカドクトカゲの唾液が2型糖尿病用の大型新薬のきっかけになるかもしれないと誰が思ったであろうか。さらに、Magician's cone snail(イモガイ科ヤキイモ)、Saw-scaled viper(ノコギリヘビ)、Brazilian lancehead snake(ブラジリアンヒメハブ)、Southeastern pygmy rattlesnake(東部生息の小型ガラガラヘビ)の毒から慢性痛、心臓発作、高血圧、脳卒中の薬が得られるとは誰が思ったであろうか。これらはペプチドベースの新薬として登場可能な資源のごく一部である。 

ルー・ゲーリッグ病として知られている致命的な進行性神経疾患、筋萎縮性側索硬化症(ALS)のいくつかのケースが、新たに発見された特定の遺伝子における遺伝子変異と関連している、と研究者達によって発表された。研究チームはこの遺伝子における変異が神経細胞の構造および成長に影響を及ぼすことを発見し、ALSがどのように細胞を壊し、麻痺につながるのかについての考察を得た。研究結果は2012年7月15日付けのNature誌に掲載された。 

赤ワインや植物に含まれる化学成分であるレスベラトロルが有する健康増進に有効であるメカニズムが、米国NIHの研究チームによって明らかにされた。同チームが実証したのは、レスベラトロルが、老化に関与するタンパク質であるサーチュイン1を直接活性化しないものの、ホスホジエステラーゼ類(PDEs)と呼ばれる一連のタンパク質類を阻害するという事だ。PDEsは細胞のエネルギー授受に関与する酵素であるが、本発見によってレスベラトロルの生化学論議に決着がつき、レスベラトロルを利用した医薬品の開発に道が開けたということだ。この化学物質は、糖尿病や炎症や悪性腫瘍を治療する活性を有しているので、多くの製薬企業が注目してきた。 本研究結果は、2021年2月3日付けセル誌の記事に紹介された。「レスベラトロルは2型糖尿病、アルツハイマー、心疾患などの幅広い疾患に有効です。しかし、レスベラトロルを安全で有効な医薬品として開発する前に、それが細胞内でどのような機序を有しているかを理解する必要がありました。」とNIH国立心肺血液疾患研究所の肥満と老化研究センター長で、本研究を主宰するジェイ・H・チュン博士は語る。レスベラトロルがサーチュイン1を最初の標的とする、と示唆する報告もいくつか出ている。しかしチュン博士の研究チームは、AMPKと呼ばれるタンパク質が、レスベラトロルの活性化に必要である事を実証していたので、その考え方には懐疑的であった。本研究においては、レスベラトロル処理された細胞内の代謝活性が系統的に追跡解析され、薬効の観点からレスベラトロルが最初の標的とするのは、骨格筋に存在するPDE4であることが同定された。

オハイオ大学総合がんセンター・アーサー・G・ジェームスがん病院&リチャード・J・ソロブ研究所(OSUCCC-James)の研究チームが、タモキシフェン耐性乳がん細胞がどのように成長し増殖するのかを突き止めた。更には、タモキシフェン耐性乳がんを標的として治療する新たな治験薬も開発された。最初のドアが閉まってから次のドアが開くように、エストロゲンホルモンが活性化させる経路をタモキシフェンが阻害した後に、ヘッジホグ(Hhg)と呼ばれているシグナル経路が、乳がん細胞の成長を促進するのである。 

Nature誌Scientific Report 2012年8月30日オンライ版に掲載されたのは、ハイエナの群れの種類と、その臭い腺に生息する微生物の集団との間に、明白な相関関係があるという報告であり、主著はミシガン州立大学(MSU)ポスドク研究者であるケビン・セイス博士である。「すべての動物が行動範囲を決めるのに共通する重要な要素は、意思疎通のシステムにあります。そして群れ独自のバクテリア無しでは、十分なコミュニケーションが取れないのです。」と語るのは、MSUの動物学者であるケイ・ホールキャンプ博士と本研究の共著であるセイス博士である。 

サルモネラ菌は胃腸感染症の主要原因のひとつである。サルモネラ菌は、宿主の腸管上皮に存在するフリーの鉄分量に合わせて自らの病原性遺伝子の表現を調整する。バルセロナ自治大学(UAB)の研究者達は、病原体が白苔プロテイン(Fur protein)を介して病原性遺伝子を活性化させることを初めて証明した。この白苔プロテイン周囲の状況に合わせて鉄分量をチェックするセンサーの働きをする。 

メルボルンのサイエンティスト・チームが、免疫システムのなかに新しいタイプの細胞を発見した。新タイプの細胞(白血球の一種)は、感染症の予防において重要な役割を果たすT細胞ファミリーに属する。このグループの発見は、特定のタイプの感染性生物に対する免疫応答を強めることができた。それは最終的に新しい医薬品になる可能性がありうる。それと同時に、アレルギー、ガン、冠動脈疾患等を含む多くの重篤な疾患にとって重要な役割となる。 

UCLAの遺伝子研究チームが共同研究の成果として、幼児の発達を阻害する稀な疾患であるIMAGe症候群に関与する遺伝子変異を同定した。偶然だろうか?同じ遺伝子に生じる変異によって、ベックウィズ・ウィーデマン症候群が発症する。この疾患は細胞の成長のスピードが速すぎて、子供が大きくなり過ぎるというものなのだ。 

フロリダ大学の研究グループが、海洋微生物が生成する有毒物質由来の化合物が大腸がんに効果がある事を実験モデルで確認した。2011年8月31日付のACS Medicinal Chemistry Letters誌オンライン版に掲載された論文では、一般的には致死性を有する海洋性シアノバクテリアの副生成物を、どのようにしてガン細胞にのみ特異的毒性を発揮する物質に変えたのかが報告されている。この化合物を大腸モデルマウスに低量投与した結果、腫瘍の増殖が抑制される事が明らかになった。元の物質の毒性は観察されず、更には比較的高用量を与えても、この化合物は効果的で毒性は観察されなかった。 

帯状疱疹は非常に痛いことで知られているが、ジョージア大学(UGA)とエール大学の研究者達は、帯状疱疹の水疱治療に、従来よりもかなり効力が高い可能性のある物質を発見した。帯状疱疹は、アメリカ国民の最大30%が罹患している疾患であるが、その大部分は高齢者である。しかも特別な治療処置の方法が存在しない。大部分の成人は、子供の頃に水疱瘡に罹った際に熱、痒みを伴う水膨れ、さらに僅かな傷跡などの体験をしているはずである。 

眼の神経細胞が正常に機能するにはビタミンCが必要である。2011年6月29日号のJournal of Neuroscience誌に発表されたこの新たな発見は、ビタミンCが他の脳機能にも必要な要素である可能性を示唆している。この発表をしたのはオレゴン医療大学(OHSU)の研究チームと共同研究グループである。「網膜の細胞は、比較的高用量のビタミンCが無ければ正常に機能しないという事が分かったのです。」と、OHSUのボラム研究所の科学者で今回の研究の共同執筆者、ヘンリーク博士は語る。 更に「網膜は中枢神経系の一部ですから、今回の発見は、ビタミンCが脳の至る所で今まで知られていなかった大事な役割を果たしているかもしれないという事を示唆しています。」と指摘する。

ダートマウスのガイセル医科大学の研究チームが、直腸がんに関与する遺伝子のオン・オフスイッチを同定した。直腸がんの水先案内人に当たるもので、おそらく新しい治療標的になると考えられる。クオンティタティブ生物医科学研究所長で遺伝子学のThird Century教授であるジェイソン・ムーア博士と、大学院生のリチャード・クーパー・サラリ氏とは、ケース・ウエスタン・リザーブ大学とクリーブランド・クリニックが組織する研究チームの一員である。研究成果はサイエンス誌のオンライン版であるサイエンス・エクスプレス2012年4月12日号に発表された。 

過去最大級のゲノム全体にわたる研究で、5種の主要精神障害がごく一般的な同様の遺伝子的変異にまで遡ることが突き止められた。資金の一部をNational Institutes of Healthが出しているこの研究では、重なり合う部分は統合失調症と双極性障害で最高を示し、双極性障害と抑鬱症、ADHDと抑鬱症で中程度、統合失調症と自閉症では低度という結果が出た。 

エモリー大学の研究チームがこの度、治療困難なうつ病に効く可能性のある炎症抑制薬を発見した。本研究は2012年9月3日付けのArchives of General Psychiatry誌にオンライン掲載された。「炎症は、感染や創傷に対する身体の自然な反応です。しかし長期に渡る、または過度の炎症は、脳を含む身体のいたる所にダメージを与えてしまうのです。」と、本研究の責任著者であるエモリー大学医学部精神医学・行動科学教授、 アンドリュー・H・ミラー博士(M.D.)は説明する。先行研究では、高炎症を有するうつ病患者には抗うつ薬や心理療法など、従来の治療の効き目が低いことが示されている。本研究では、炎症をブロックすることが治療困難なうつ病患者全般に効くのか、あるいは炎症値の高いうつ病患者に特定して効くのかを調べるために行われた。 

2012年のノーベル化学賞は、デューク大学医学センターで39年を続け、ハワードヒューズ医学研究所で治験医師を務めるロバート・J・レフコウィッツM.D.と、1980年代に同博士の研究室でポスドクを務めていた、スタンフォード大学医学部のブライアン・K・コビルカM.D.が共同受賞した。ノーベル化学賞の発表は2012年10月10日に行われた。 

ボストン小児病院(Children's Hospital Boston)の研究者は、ABCB5と呼ばれるバイオマーカーが、結腸直腸ガン領域内のごく一部の細胞にタグを付け、さらに、スタンダードな処置に対して細胞内で抵抗性が高まることを発見した。この結果はABCB5発現細胞の排出が、結腸直腸ガン治療の成功のカギとなることを示唆している。その一方で、ガン幹細胞仮説と呼ばれるガン細胞増殖のエビデンスが増えていることをも示唆された。研究は国際的なチームで進められており、リーダー的存在はボストン小児病院移植研究センター(Transplantation Research Center at Children's Hospital Boston)のDr. Brian J. Wilson氏、Dr. Tobias Schatton氏、Dr. Markus Frank氏であり、VAボストンヘルスケアシステム・ブリガム女性病院(VA Boston Healthcare System and Brigham and Women's Hospital)のDr. Natasha Frank氏や、ドイツのユリウス・マクシミリアン大学ヴュルツブルク(University of Wurzburg)のメンバー等が参加している。研究成果は、ジャーナルがん研究(journal Cancer Research)電子版(2011年6月7日付)に発表された。 

ハトは人間の顔や特徴や感情表現を、人間と全く同じような方法で認識することを明らかにする研究がアイオワ大学(UI)の2人の研究者によって実施され、米国の眼科領域の専門誌「Journal of Vision」(2011年3月31日号)に発表された。実験では、特徴の異なる人間の顔の写真や、不機嫌な表情や笑顔のような様々な感情を表している写真をハトに見せた。 

細胞は、その大切な内容物を保護することにかけては実に優れている。その結果、細胞を壊すことなく、医薬、栄養物、バイオセンサーなどを細胞膜壁を通して内部に届けることはきわめて難しい。その一つが、2008年に発見された効果的な方法で、純金のナノ粒子を特殊なポリマーの薄い層に包むという方法だった。しかし、なぜこの組み合わせがそれほどうまく働くのか、どのようにして細胞膜をくぐり抜けるのかについては誰も確実なことは分かっていなかった。 

遺伝子は私達一人一人の「個性」の創生を司っている。髪の毛の色から特定の病気に対する脆弱性まで、「個性」には様々な側面があるが、一体遺伝子はその生産物であるタンパクの合成を含め、どのようにコントロールしているのだろうか?この度、記憶を司る基礎的なプロセスに関与する新たな生体分子群が発見され、神経変性疾患の治療に新たな方向が示されたと思われる。 

兵庫県神戸市の理化学研究所 発生・再生科学総合研究センターの研究チームは、クローン羊のドリーを生み出したのと同じ技術を用い、正常な寿命を持ち、永久的にクローン化できる健康なマウスを生み出す方法を突き止めた。この研究報告は、2013年3月7日付「Cell Stem Cell」の巻頭を飾っている。若山照彦博士の率いるチームが2005年に始めた実験では、体細胞核移植 (SCNT) と呼ばれるテクニックを用い、オリジナルの「ドナー」マウスから25世代のクローニングを繰り返し、合計581匹のマウスを生み出した。 

DNAシーケンスによって遺伝子の変異を検知することは、がんの診断や治療法の選択に大変有用である。現行のDNAサンプルのテスト法では、とりわけサンガー法とパイロシーケンス法が使用されるが、時折、配列への読み替えが困難であったり出来なかったりする複雑な配列パターンが見受けられる。ジョンズ・ホプキンス大学医学部の研究グループは、そのような複雑な遺伝子変異配列パターンであっても、より正確に同定できるパイロメーカーというフリーソフトを開発した。 

1953年にフランシス・クリックとジェームズ・ワトソンがデオキシリボ核酸 (DNA) の二重らせん構造を発見した事が遺伝子工学の革命をもたらし、生命体を構成する単位をマップ化し、研究し、シーケンス化する始まりとなった。DNAは、世代間を継承される遺伝物質をエンコードしている。DNAにエンコードされた情報が、生命に必須のタンパク質や酵素として作り出されるためには、細胞のリボソームの中にある一本鎖遺伝物質のリボ核酸 (RNA) が仲介として機能しなければならない。RNAは通常一本鎖であるが、一部のRNA塩基配列はDNAのように二重らせん構造を作ることができる。 

西アフリカのエボラ出血熱ウイルス蔓延はこれまでで最大の規模になっているが、このウイルスが免疫系をすり抜けるテクニックは巧みである。しかし、セント・ルイスのWashington University School of Medicineその他の研究機関が参加する研究チームは、エボラ出血熱ウイルスが体の抗ウイルス防衛機能をすり抜ける方法を突き止めており、この疾患の治療法を新たに開発する糸口になることが期待されている。 

Scripps Research Institute (TSRI) の研究チームは、強力な新開発のDNA操作技術をこれまでよりさらに広い範囲にわたって適用する方法を考え出した。TSRI, Department of Chemistry, Molecular Biology Janet and Keith Kellogg II Chairであり、教授も務めるDr. Carlos F. Barbas IIIは、「これは現在の生物学の分野でもっともホットなツールだ。しかも、私たちの研究で、このツールをどんなDNA塩基配列にでも適用できる方法を考え出した」と述べている。 

一般的な脳卒中のリスクを高める遺伝子変異が、2012年2月5日付けのNature Genetics誌に記載された研究で明らかにされた。これは現在までに発見されている脳卒中関連の数少ない遺伝子変異の一つであり、この発見により新たな治療法の可能性が見えてきた。脳卒中は世界中の死亡原因の第2位(全死亡数の1/10に当たる、年間600万人)にあたり、先進国では慢性的障害の主要原因でもある。 

King's College Londonの研究者グループに率いられた国際的な科学者チームが眼球屈折異常や近視を引き起こす遺伝子を新たに24種類同定した。近視は世界中で失明や視覚障害の大きな原因になっており、現在のところ治療法はない。Nature Genetics誌2013年2月10日付オンライで発表された研究論文は、この形質の遺伝的原因を解明しており、より効果的な近視の治療法や予防法を開発する基礎になる可能性がある。 

一連の新しい造影剤により、腫瘍が悪性化する前の初期段階で「見る」ことが可能になるかもしれない。この化合物は酵素シクロオキシゲナーゼ−2(COX-2)のインヒビターに由来し、PETイメージングにも適用できるので、癌の検出、診断、および治療のための広範な用途の可能性を有する。バンダービルト大学の研究者達は、2011年10月号のCancer Prevention Research誌にこの新しい造影剤の説明を載せている。「これはCOX-2をターゲットとするPETイメージングで唯一、炎症や癌への適用が、動物モデルで実証された物なのです。」と、バンダービルト・ケミカルバイオロジー研究所の所長であり、今回の化合物開発チームのリーダーであるローレンス・マーネット博士は言う。 

長年、研究者はインシュリン産生膵ベータ細胞を再活性化することで糖尿病を治療する方法を探してきたが、ほとんど成果が得られていない。しかし、類似したアルファ細胞をベータ細胞に「リプログラミング」することで、いつか、2型糖尿病に対して、現在の治療法を補完する方向の新しい治療法が可能になるかも知れない。ヒトとマウスの細胞使って、細胞核内の染色質 (クロマチン) と呼ばれる物質を変化させる化学物質で処理するとアルファ細胞中でベータ細胞遺伝子が発現したという研究論文が、「Journal of Clinical Investigation」の2013年2月22日付オンライン版に掲載されている。 

自閉症スペクトラム障害(ASD)の原因となりうる環境因子が発見された。父親は母親に比べて4倍、障害を持つ子供に自然突然変異を伝達する可能性が高いのである。また、このような遺伝的変化は父の年齢の増加と共に増えていく。本研究はこれまでに証明されてきた父の年齢と自閉症リスクの関連性を説明するのに役立つであろう。このような遺伝子中のタンパク質コード領域におけるシーケンス変化は、ASDにおいて重要な役割をもつ。 

マサチューセッツ総合病院(MGH)のハーバード幹細胞研究所が発見したのは、嚢胞性線維症(CF)を治療する医薬品開発の道が、近い将来開けると思われる方法である。嚢胞性線維症は毎年1000人が発症し、500人の尊い生命を奪う疾患である。患者の皮膚の細胞から起こして、人工多能性幹細胞(iPS細胞)を初めて作成し、これをヒト疾患特異的な機能性肺外皮へと導出する事に成功したのは、ジャヤライ・ラヤゴパル医師とその研究チームである。 

発見困難な染色体異常を検知する新しい方法を用いて、自閉症と関連付けられている33の遺伝子が同定された。内、22は初めて発見されたものである。さらにこれらの遺伝子の内複数は、統合失調症などの精神疾患患者において変化すると見られている。このような疾患の症状は思春期や成人期に出る事が多いのである。本研究は複数の研究チームによって行われ、研究結果は2012年4月19日付けのCell誌にオンライン掲載された。 

泥棒が銀行の金庫に進入すると、センサーが作動してアラームが鳴る。細胞は、侵入者のために独自の早期警戒システムを有している。フランス・グルノーブルのヨーロッパ分子生物学研究室(EMBL)の科学者達は、特定のタンパク質がウィルスの侵入を検出した際にアラームを鳴らす方法を発見した。2011年10月14日付のCell誌に掲載された今回の研究は、自然免疫反応についての理解を深めるのに重要な役割を果たし、インフルエンザや狂犬病、肝炎など多様なウィルスに対する細胞の迅速な対応方法の解明に寄与するであろう。 

Virginia Commonwealth University (VCU) Massey Cancer Centerの科学者チームによれば、これまでと違った新しいアプローチの免疫療法が臨床前の研究室段階で、転移性がんワクチンのように作用する見通しがつかめた。最近行われたその研究によると、療法は転移性がんの治療に適していると同時に既存のがん治療と並行して用いることができ、新しく転移した腫瘍の進行を防ぎ、特定の免疫系細胞を「訓練」してがんの再発に備えさせることができる。 

細胞膜の規則正しい構造がどのようにできるのかということについて、新しい仮説が注目されている。ドイツ連邦ポツダム市にあるMax Planck Institute of Colloids and Interfacesの科学者チームが、糖脂質と呼ばれる糖と脂質の複合体が、細胞膜においてどのようにしてそれ自体でラフト、つまり非常に規則的な微小な領域を持った構造物を形成することができるのかという謎を説明する仮説を提出している。植物や動物の細胞膜表面の糖脂質配列は様々な細胞プロセスを制御しているが、このプロセスにエラーが発生すると、発作性夜間ヘモグロビン尿症 (PNH) や牛海綿状脳症 (BSE) などの疾患が起きる。 

加齢とともに身体的な影響が顕著になってくる。皮膚にはしわが増え、身体的な力を出すことが難しくなってくる。同時に眼につかない変化も進んでおり、たとえば、脳も加齢するにつれてそれまでとは異なる現象が進行し、それが加齢関連脳障害を引き起こす可能性もある。学術論文誌「Nature Neuroscience」の2013年4月7日付オンライン版に掲載された研究論文で、Cold Spring Harbor Laboratory (CSHL) のJoshua Dubnau 准教授と研究チームは、ショウジョウバエが加齢するにつれて、脳内のトランスポゾン、別名 「ジャンピング遺伝子」 の数が増え、また活動も盛んになることを突き止めた。トランスポゾンは、1940年代のCSHLで、後にノーベル賞を受賞することになるBarbara McClintock教授がトウモロコシを対象に研究していた時に発見した物質で、トランスポゾンは一般的にはDNA塩基配列の反復であり、動物や植物のDNAの中に自分自身を挿入する能力がある。「ジャンピング遺伝子」という別名は、このトランスポゾンが活性化されると元の位置から離れてゲノムの他の位置に入り込む、つまり移動できるという性質に由来する。また、移動するとそこで異なる遺伝子機能を発揮するか、あるいは生殖細胞系の場合には特にあてはまることだが、致命的な破壊的結果になる可能性もあると推測されている。ショウジョウバエの寿命は日数で数えることになっており、平均寿命は40日から50日程度である。このショウジョウバエを観察すれば、加齢、記憶などの脳機能の遺伝的現象を調べることができる。Dr. Dubnauのチームの研究で、Ago2 (アーゴノート2) と呼ばれるタンパク質の活動を阻害すると長期記憶も阻害されるという現象が観察され、それがDr. Dubnauの興味をひいた。その現象は臭いに対するパブロフ反射を用いて試験、確認している。Dr. Dubnauは、「これはショウジョウバエの体内で神経変性的な欠陥が起きると、それが加齢とともにさらに顕著になっていくということではないか」と述べている。Ago2は、ショウジョウバエの体内でトランスポゾンの活動に対する防御に関わっていることが知られており、Dr. Dubnauや、Dr. Wanhe Li、Dr. Lisa Prazakら同僚研究者は、その働きを究明するためにはトランスポゾンの存在を確認することが重要だと考えた。トランスポゾンは、正常な脳の発達の間は活性化しているが、その後間もなく休眠状態に入る。そのことから、トランスポゾンが成長に何らかの役割を果たしていることが推測される。Dr. Dubnauの研究チームはトランスポゾンを調べている際に、正常なショウジョウバエの21日目頃に脳細胞あるいはニューロン内のトランスポゾン量が急に増えることを突き止めた。また、その量は加齢とともに着実に増え続けることが明らかになった。このようなトランスポゾンは、特に「ジプシー」と呼ばれるタイプも含めて、非常に活動的でゲノム内のあちこちの位置を飛び回るのだった。しかもショウジョウバエのAgo2の発現をブロックすると、もっと早くからトランスポゾンが増え始めるのだった。しかも、Ago2の働きを止めた若いショウジョウバエのトランスポゾン量はもっと日齢の過ぎた正常なショウジョウバエのトランスポゾン量と同等で、しかも、日ごとにその量が増え続けていった。トランスポゾン量が増加するにつれて、もっと日齢の過ぎた正常なショウジョウバエに起きる長期記憶の欠損が現れ、同時に寿命もはるかに短くなっていた。Dr. Dubnauの報告書は、「基本的にAgo2の機能を停止したショウジョウバエは20日を過ぎる頃には長期記憶をすっかりなくしており、正常なハエの場合には同じ日齢でも長期記憶は正常だった」と述べている。Dubnau研究室が、以前にCSHLのMolly Hammell准教授との協力で行った研究の論文で、トランスポゾンと、ALS (筋萎縮性側索硬化症、あるいはルー・ゲーリッグ病) やFTLD (前頭側頭葉変性症) など厳しい神経変性疾患との関連が確定されている。その場合も、共通するのはTDP-43というタンパクで、これがトランスポゾンの活動を制御することが示されている。Dr. Dubnauは、以前の研究論文と今回の論文に基づいて、加齢に伴う神経変性や一部の神経変性疾患などに見られる病理は「トランスポゾンの嵐」が原因ではないかとしている。ただし、Dr. Dubnauのこれまでの研究でも、トランスポゾンが加齢による脳欠陥の原因なのかあるいは逆に脳欠陥の結果なのかという疑問には答えていない。Dr. Dubnauは、「次のステップは、ショウジョウバエを遺伝子操作することでトランスポゾンを活性化し、トランスポゾンが神経変性の直接の原因なのかどうかを調べることだ」と述べている。この研究には、CSHLの他、Stony Brook University、University of Zurich、Sorbonne大学が参加している。■原著へのリンクは英語版をご覧ください:“Jumping Genes” May Contribute to Aging-Related Brain Defects

ガレクチン-3として知られているタンパク質によって、心不全のリスクが高い人を識別することが可能であることが、国立衛生研究所に所属する国立心肺血液研究所(NHLBI)の研究で判明した。本研究は、1948年に開始し、心臓病の危険因子についての研究で中心的な役割を担うNHLBIのフラミンガム心臓研究基金のグラントによって実施されたものである。本研究は2012年8月29日付けのJournal of the American College of Cardiology誌にオンライン掲載され、さらに2012年10月2日付けの同誌にも出版される。 

遺伝における分子的基盤となる染色体は、1882年にウォルター・フレミング博士に発見されて以来130年、謎に包まれたものである。今回、キュリー研究所のエジス・ハード博士(Ph.D.)およびマサチューセッツ大学医学学校(UMMS)のジョブ・デッカー博士(Ph.D.)率いる研究チームが行った研究は、染色体における新しい層を発見した。本研究は2012年4月11日付けのNature誌に掲載された。 

英国がん研究所と世界の共同研究機関の発表によれば、がんの遺伝子的特徴を基にして、乳がんの種類を10通りに再分類し、画期的な乳がんの診断と治療につながる可能性が明らかになった。医師が乳がん患者の遺伝子サブタイプに拠って、その余命をより正確に予測し、個々の患者に応じたテーラーメイド治療を行なう事が、出来るようになる日も近い。この研究成果は2012年4月18日付けのネイチャー誌オンライン版に掲載されたが、乳がん研究では世界最大規模の遺伝子研究が成され、何十年にも及ぶ研究が実を結んだものである。 

ヒトゲノムプロジェクトによって、DNAに含まれる30億対にも上る、ヒトの遺伝子をコードする塩基対のシーケンスがほぼ完了したが、それらがどのように働くのかは未だ謎が多い。ようやく現在、世界32ラボ440人の研究者による弛まぬ努力の結果、より詳しい動力学的な様相が判明してきた事により、ヒトゲノムが実際にどのように働いているのかの全体像が見えてきたのだ。 

バルセロナ自治大学(UAB; Universitat Autònoma de Barcelona)の研究者が、多発性硬化症のモデル動物ではバイアグラ®で症状が劇的に軽減することを発見した。Acta Neuropathologicaに発表されたこの研究成果には、処置8日後に実験に供したモデル動物の50%でほとんど完全に回復したことを示した。研究者達いわく、本医薬品に対して十分な耐性があり、しかも一部の多発性硬化症患者において性的機能不全症の治療に使用した経験があれば、すぐに患者に臨床試験を行えるであろうと考えている。 

膵臓がんの原因となる複雑な潜在的突然変異の過程を突き止める大規模な研究が、100人を超える膵臓がん患者を対象にして実施され、2012年10月24日付Nature誌に発表された。この研究は、国際がんゲノムコンソーシアム (ICGC) に参加しているオーストラリアの研究者の初論文であり、ICGCは、がんタイプ50種のそれぞれの遺伝的要因を突き止めるために、世界のトップクラスの科学者が協力して研究することを目的としている。膵臓がんは主要がんタイプの中でももっとも死亡率が高く、しかも、過去40年間に生存率がほとんど向上していないがんはこの膵臓がんを含めてごくわずかしかない。 

新しい研究で、肺組織の分節化が正しく行われるために1個の小さなRNAが重要な役割を担っていることが突き止められた。この研究はニワトリの胚で行われ、この小さなRNAが、筋肉や脊椎になる組織分節形成のタイミングを決める周期的遺伝子活動を規則正しく調節していると判定された。つまり、この活動に加わっている遺伝子は各組織分節形成の動きに対応する拍動的パターンでオン・オフされていたのだ。 

JDRFからグラントを受けたオレゴン保健科学大学(OHSU)とレガシー・ヘルス(オレゴン州の病院連合)の研究チームが、液状グルカゴン製剤が標準的な糖尿病ポンプで使用できる事を明らかにした。インシュリン治療を受けている1型糖尿病(T1D)患者の低血糖症を予防するために、この製剤はグルカゴンの幅広い利用の道を広げるものだ。 

ニューヨーク・ワイルコーネル医科大学の研究員二人がマウスの網膜の神経コードを解読し、その情報を元に盲目のマウスの視力を回復する新たな人工器具を開発した。研究者達はまた、サルの網膜――ヒトの網膜と基本的に同一である――のコードも解読し事を明らかにし、それにより盲目者用の器具も開発し、テストする予定である。 

1998年に東南アジアの豚や養豚農家の間で感染し大流行したニパウィルスに対するワクチンが、サルによる前臨床テストまで開発が進んでいる。この開発は、同じワクチンで猫をニパウィルスから、そして馬やフェレットを近種のヘンドラウィルスから守る事が出来る事を発見した研究チームによって進められている。 

ドイツ・ライプチヒにあるマックスプランク進化人類学研究所のスヴァンテ・ペーボ博士に率られる研究チームが、デニソバ人のゲノム変異の解析を行い、それが極めて低いことを明らかにした。これは即ち、デニソバ人が今ではアジア全体に広く分布しているにしても、昔はそれほど人口が多くなかった事を示唆している。更には、ゲノムの総目録から明らかなのは、遺伝子の変異は古代の祖先の時代ではなく現代人の世代に見受けられる事である。これらの変異の状況から推察されることは、それが脳機能や神経システムの発達に関係しているのではないかという事である。 

Massachusetts General Hospital (MGH) の研究チームががん診断のために開発した手持ちサイズの診断装置が、ヒト型結核菌 (TB) その他の主要感染細菌による感染の即時診断に利用されるようになった。「Nature Communications」と「Nature Nanotechnology」の2誌に掲載された2件の研究論文は、マイクロ流体技術と核磁気共鳴法 (NMR) を組み合わせた携帯装置は、このような重大な感染を診断するだけでなく、耐性菌株の存在まで判定することができると述べている。 

アフリカ東部の砂漠地域に生息するハダカデバネズミは興味深い身体的特徴を有しており、それによって厳しい自然環境の中を長年に渡り生き抜いてきた。皮膚に痛覚を持たず新陳代謝率が低い為、酸素供給量が少ない地下で生息する事が出来る。英国ノーウイックのリバプール大学とゲノム解析センター(TGAC) の科学者グループが最初にハダカデバネズミの遺伝子情報を解析し、長寿と老化疾患へ耐性を有する理由を検討した。 

ヘビースモーカーが肺がんに罹らない一方で、何故一度も煙草を吸わない人間が肺がんに罹るのだろうか?これは何十年も研究者たちを悩ませてきた課題だが、この度、セントルイスのワシントン大学医学部の研究で明らかになったのは、肺がんの感受性を決定する重要な免疫細胞があるという事だ。マウス実験により、腫瘍細胞を探し出して駆逐するナチュラルキラー細胞が、遺伝子の多様性を有しており、マウスに肺がんを発生させるか否かのカギとなっている事が実証された。この研究結果はCancer Research誌の2012年9月1日号に掲載された。 

ヒトおよび他の哺乳類における胚発生時には、精子と卵子のエピジェネティックマークと呼ばれるDNAの化学修復がきれいに拭き取られる。これらはその後、受精を待つために予備として置いておかれるのだ。このシナリオは顕花植物では全く異なる。胚細胞など胚生期後にしか現れず、数年後になることもある。 

朝、目覚まし時計のけたたましい音が無くても目が覚める事について、不思議に思ったことはあるだろうか?ソーク生物学研究所の研究者達が、この疑問を解決するカギとなる生物時計の新しい構成要素を同定した。この要素とは、生物時計を静止状態からスタートする役目を果たす遺伝子である。体内時計は、体が起きるための合図である重要な生理機能を誘導し、毎朝早くから私たちの代謝を高めている。この新しい遺伝子の発見と、この遺伝子が生物時計をスタートさせるメカニズムを解明することによって、不眠や老化、また、癌や糖尿病などの慢性疾患の遺伝的基盤を説明することが可能になるであろう。 

プリンストン大学の研究チームが、酵母菌において、抗うつ剤ゾロフトに依拠する自己分解反応を確認した事により、抗うつ剤の作用機序のみならず、うつ病は神経伝達物質のセロトニンのみが関与しているのではないのではないかという、これまで長く続いてきた研究者間の議論に、決着が付きそうな様相を呈してきた。2012年4月18日付けPLoS ONE誌のオンライン版に発表された論文によると、プリンストン大学ルイス・シグラー総合ゲノム研究所の研究員であり分子生物学の講師であるエタン・パールステイン博士の研究チームが、抗うつ剤のセルトラリン(商品名ゾロフト)は、パン酵母菌の細胞内膜に蓄積する事を、報告している。 

変異がん遺伝子の発現によって、主要な代謝パスウエイの「送電線」が継続的に確保されなければ、進行性膵臓がんは増殖を続けられないことを、ダナ・ファーバーがん研究所の研究チームが明らかにした。 2012年4月27日付けのセル誌に発表された論文によれば、この代謝パスウエイを標的にすれば、致死性の高い膵臓がんの新たな治療法の開発に繋がるという。マウスのKrasがん遺伝子を操作し発現を止めた場合、膵臓がんは即座に縮小し、腫瘍が目視できないくらい小さくなったケースも見受けられた。 

肺ガンの最も一般的な形成とその致命的な転移を促進する単一の遺伝子が、フロリダ州メイヨークリニック研究チームのマウスモデルによって発見された。マトリックスメタロ-10(MMP-10)と呼ばれるこの遺伝子は、他形態のガンも促進していると研究チームは考える。2012年4月24日付けのPLoS ONE誌に掲載された本研究は、MMP-10が癌幹細胞によって分泌され、生命維持のために使用される増殖因子であることを示している。 

複雑な神経ネットワークパターンは、ほんの一握りの重要な遺伝子によってプログラミングされている。この早期脳神経ネットワーク発生における特徴を発見したのは、ソーク研究所の研究チームである。2012年2月3日付けのセル誌に記載された本研究は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経疾患のための新しい治療法の開発、および特定のガンへの新たな研究戦略の提示となるであろう。 

ベルリン・ビュッヒにあるマックス・デルブルーク分子医学センター(MDC)のイギリスチームが、世界で最も希少な哺乳類の部類に入るアフリカハダカデバネズミ(Heterocephalus glaber)が、どうして酸に曝露しても痛みを感じないかを解明した。アフリカハダカデバネズミは暗い穴倉に密集して生息し、そこでは住環境中の二酸化炭素濃度が、大変高い。体組織中では、二酸化炭素は酸に変換され、それが痛覚神経を継続的に刺激する。 

新薬候補の一つであるJ147が、アルツハイマー病による精神的な衰退を止める最初の薬になるかもしれない。2011年12月14日付けでPLoS ONE誌に掲載されたこの研究では、J147をアルツハイマー病のマウスに投与した所、記憶力が改善され、疾患に由来する脳損傷を防止した。この新薬はソーク生物学研究所の研究チームによって開発され、近い将来人間の治療に使用されるだろう。「J147は正常のマウスとアルツハイマー病のマウス両方の記憶力を改善し、脳をシナプス結合の損失から守ることが出来るのです。」と、ソーク細胞生物学研究所所長であり、今回の新薬を開発したチームのデイビッド・シューベルト博士は語る。 

中国の内蒙古と深川にある、内蒙古農芸大学(IMAU)と内蒙古民族大学(IMUN)と世界最大のゲノムセンターである北京ゲノムセンター(BGI)とが共同で、モンゴリアンの全ゲノムの配列解析を完了した事を発表した。このゲノム研究は、アフリカから発祥してアジアへ広がったモンゴリアンとその子孫の進化と民族移動の解明に大きく寄与し、ヒトの遺伝性疾患の研究の為の重要な基盤となる。 

ハイデルベルク大学病院の研究者が、マウスモデルを使用して初めて、糖代謝が異常を来す重度の先天性疾患の治療に成功した。クリスチャン・ケルナー教授率いるチームは、雌マウスが交尾前および妊娠中に飲料水と共にマンノースを与えられた場合、その子孫は先天性疾患の遺伝的変異を持っていたとしても、正常に発達することを証明した。ケルナー教授は、児童医学センターのグループリーダーでもある。 

肺癌研究に関する国際学会の公式月刊誌「The Journal of Thoracic Oncology」(2011年4月号)の中で、ダイズ中の物質が肺癌細胞を死滅させる放射線の能力を高めることがわかった。とウェイン州立大学によって発表された。ウェイン州立大学の医学部Dr. Gilda Hillman准教授(Karmanos癌研究所)は次のように語った「私たちは肺癌の放射線治療能力を向上させるためにダイズイソフラボンと呼ばれる天然のダイズの非毒性物質について研究している。 これらが癌細胞に対する放射線の効果を高めて正常な肺細胞を放射線傷害から保護する。」彼はこの研究チームを導いたが、さらに続けて述べている「癌細胞には細胞自身を防御するメカニズムを活性化して生き残ろうとする機能が備わっている。しかし天然のダイズイソフラボンは、癌細胞の生き残る機能を阻害して放射線治療の効果を高める。」

マサチューセッツ総合病院(MGH)の研究グループは、血管の形成を阻害する全く新しい種類の血管新生薬を世界で初めて発見した。PNAS誌の2011年6月27日Early Editionに掲載された報告には、その活性成分をどうやって南米の樹木から抽出し、動物モデルにおいて血管の正常な形成と創傷の治癒と腫瘍の成長がどのように阻害されるかという新規的な機序が紹介されている。 

お酒に含まれるアルコールであるエタノールは、僅かな量であれば、Cエレガンスとして知られている小さな虫−この虫は老化の研究で実験モデルとして頻繁に使用される−の寿命が、2倍に延びる事を、UCLAの生化学研究チームが発表した。但し、それを科学的に説明するのは、どうやら難しそうだ。この研究結果は2012年1月18日付けのPLoS ONE誌のオンライン版に発表されたが、「この結果はショッキングであり、私達を悩ませています。」とUCLAの化学科と生化学科の教授であり、本論文の上席著者でもあるスティーブ・クラーク博士は話す。アルコールの摂取は人においては一般的に害をなし、Cエレガンスも多量のアルコールを摂取すれば神経系を損傷し死に至る事は、他の研究で明らかになっていると、クラーク博士は話す。「私達は非常に少量のエタノールを投与しました。そうするとCエレガンスには効用があるのです。」と付け加えるクラーク博士は、老化の研究に関する生化学の専門家である。Cエレガンスは卵から成虫まで僅か数日で成長し、世界中どこでも土壌中に生息し、バクテリアを食餌としている。クラーク博士の研究チームのパオラ・カストロ、シルピ・カーレ博士、ブライアン・ヤング博士等は、生後数時間のまだ幼生であるCエレガンスを、何千匹も研究してきた。この虫の寿命は凡そ15日で、何も食べなくても10日から12日間は生きる。「しかし、私達の研究では、微量のエタノールを与えると、20日から40日に寿命が延びます。」とクラーク博士は話す。研究チームが最初にやろうとした事は、コレステロールがCエレガンスに与える影響を観察することであった。「コレステロールは人間にとって必須の成分です。細胞膜には欠かせません。但し、血流には悪影響を与えます。」とクラーク博士は説明する。Cエレガンスにコレステロールを与えたところ、寿命が延びたため、明らかにコレステロールの影響であると当初は考えられた。コレステロールはエタノールに1000倍濃度に溶解されていたが、エタノールはよく使われる溶媒である。「それは溶媒に過ぎないのですが、その溶媒こそ、寿命を延ばす作用がある事が判ったのです。コレステロールは何の関係もありませんでした。エタノールは1000倍希釈で作用するだけでなく、20,000倍希釈でも活性を持って至る事が判りました。ほんの僅かな量であれば適当に調合しても、その効き目に変わりはありません。」と同博士は言う。

若年期の男性に発症し、家系に遺伝する前立腺がんの遺伝因子について、20年来研究されてきたが、遂にこの疾患リスクが非常に高くなる、珍しい遺伝性の遺伝子変異が発見された。この発見は、ジョン・ホプキンス大学医学部とミシガン大学(U-M)ヘルス・システム研究所の研究チームによって、2012年1月12日付けのニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン誌に発表された。発表によると、この変異を有する男性は、前立腺がんを発症するリスクが変異の無い男性に比べて10倍から20倍も高いと考えられる。前立腺がんの症例全体から見れば、この遺伝子変異のケースは一部に過ぎないが、健康診断項目に追加するか早期スクリーニングを実施することにより、この変異に依拠する高いリスクグループを発見できるメリットがある。 

なぜ細胞は老化するのか。これは生物学における謎の一つであるが、今回ソーク生物学研究所の研究チームが、脳内で起こる老化プロセスの謎を解明する脳細胞の構成要素の弱点を発見したと報告した。研究チームが発見したのは、ELLPs (Extremely Long-Lived Proteins) と呼ばれる非常に長命なタンパク質で、これはニューロンの核の表面で見られる。ほとんどのタンパク質の寿命が合計2日以下なのに対し、ラットの脳内で発見されたELLPsはラットとほぼ同じ年齢であることが分かった。本研究は2012年2月2日付けのサイエンス誌に記載され、これほど長命なタンパク質を含む必須細胞内マシーンが発見されたのは今回が初めてである。本研究は、タンパク質が置換されることなく生涯にわたって持続するものであることを示唆している。ELLPsは核表面の輸送チャンネルを構成している。このチャンネルは出入りする物質をコントロールするゲートのようなものである。ELLPsが時間とともに消耗しなければ、このタンパク質が長命であることはメリットである。しかし、ELLPsは他のタンパク質と異なり、異常な化学修飾や損傷を受けた際に、新しいものに入れかわることはない。そのためELLPsが損傷を受けると、毒素から細胞核を保護するための三次元輸送チャンネルの能力を弱める場合があると、本研究を率いたソーク大学分子細胞生物学研究所教授、マーチン・ヘッツァー博士は推測する。結果、これらの有害物質は細胞のDNA、そして遺伝子活性を変化させ、細胞老化を引き起こすことが示唆されている。エリソン医学基金およびグレン医学研究基金から資金提供されているヘッツァー博士の研究チームは、NPCと呼ばれるこの輸送チャンネルの老化における役割を研究している、世界で唯一のグループである。DNA損傷を起こす有害物質が核内に侵入出来ることは、哺乳類のNPCの弱点である。以前の研究で、遺伝子発現の変化が老化現象の起因であることは解明されていたが、ヘッツァー研究チームがこの弱点を発見するまで、化学業界において遺伝子変化がどのように起きるのかを説明する確たる要素は存在していなかったのである。「老化の 基本的機能の定義は、心臓や脳などさまざまな臓器における機能的能力の低下です。この低下は臓器の構成細胞内のホメオスタシス、または内部安定性の劣化により起こります。最近行われたいくつかの研究は、タンパク質のホメオスタシスの崩壊と細胞の機能低下と関連づけています。」と、ヘッツァー博士は語る。ヘッツァー博士と研究チームが発表した本研究結果は、ニューロンの機能低下が時間とともに劣化するELLPsに由来する可能性を示唆している。「ニューロン以外の細胞の多くは、タンパク質のターンオーバーの過程で障害のある部分を新しいコピーと交換し、タンパク質の機能低下を阻止します。我々の研究結果は、核膜孔の劣化が老化現象の一部で、遺伝子発現プログラムなどの核機能の低下に繋がるのではないか、と示唆しています。」と、ヘッツァー博士は説明を続ける。本研究は、アルツハイマー病およびパーキンソン病などの神経性疾患の分子原因の理解に役立つかもしれない。ヘッツァー博士と研究チームは以前行った研究で、年をとったラットのニューロン核内に、細胞質から起源したと考えられる大きなフィラメントを発見した。このようなフィラメントはパーキンソン病など様々な神経性疾患と関連しているが、置き違えられた分子が疾患の原因なのか結果なのかは未だ定かではない。また以前の研究で、年をとった健康なラットのニューロンNPCにおける老化関連の機能低下も記録している。ラットおよびマウスはヒトの生物学を研究するのに適した実験モデルである。ヘッツァー博士の研究チームはソーク研究所の研究員およびスクリップス研究所化学生理学教授、ジョン•イェイツ•?氏を含む。3年前、NPCが老化および特定の神経性疾患の発症に関連しているのか否かの研究を始める時、ヘッツァー博士は化学業界の一部のメンバーからそのような大胆な研究は物理的にも金銭的にも行うのが難しいと忠告を受けていた。しかしヘッツァー博士の決心は固く、研究は開始された。基金無しでは本研究の結果までたどり着くことは出来なかっただろう、とヘッツァー博士は語る。[BioQuick News: Extremely Long-Lived Proteins May Provide Insight into Cell Aging">

世界最大の遺伝子研究所である中国BGI研究所が、ネイチャー・バイオテクノロジー誌2012年2月12日付けオンライン版で、ヒトセルラインのRNAシーケンスデータを精査し、RNAが広範に修正をかけている事を実証した。そしてこの重要な転写後の修正イベントを同定するには、大変高度な解析方法が必要となることも明らかにした。RNAの修正については良く知られているが、詳細はまだ不明である。 

ヒト生物学を構成する原則が過去2500万年もの間、実質的に無変化のまま存在している。と、判明した場合、それはこれからも変わらないと自信をもって言えるだろう。ホワイトヘッド研究所の科学者たちが行った最新のヒトY染色体進化論の研究結果は、Y染色体が無くなる事はないと証明している。「Y染色体消滅論」の支持者たちは、Y染色体が将来絶滅するであろうと予測している。 

リー症候群では乳児は健康体で生まれたかのように見えるが、時間の経過と共に悪化していく運動や呼吸障害を発症し、ほとんどの場合3歳で死に至る。これは、細胞内のミトコンドリアが、脳が発達していくために必要なエネルギーの需要についていけないからである。この度、この病気の原因である遺伝子の欠陥が見つかったと、Cell Press出版のCell Metabolism誌9月号に発表された。今回の研究結果は、二人のリー症候群患者の、ミトコンドリアで活性化しているタンパク質をコードする約1000の遺伝子の一部を配列決定して得たものである。 

プルツワルスキー馬として知られる絶滅危惧種のウマが、研究者たちが予測していた以上に家畜ウマとの系統的関係がかなり離れている事が、ペンシルバニア州立大学生物学部のカタリーナ・マコバ博士率いる研究チームにより報告された。4血統のプルツワルスキー馬について、母から子に排他的に遺伝するゲノム情報部分−ミトコンドリアDNA−に特化して、家畜ウマ(学名Equus caballus)のDNA情報との比較検討が成された。 

RTS, Sマラリア・ワクチン候補の大規模臨床第III相試験結果が2012年11月9日付New England Journal of Medicineオンライン版に掲載された。この結果報告によれば、RTS, Sマラリア・ワクチン候補がアフリカの乳幼児をマラリアから守ることができるとしている。対照ワクチンによる免疫を受けた乳幼児 (生後6週間から12週間で第1回の接種) と比較した場合、RTS, Sワクチンを接種した乳幼児では、臨床マラリア、重症マラリアの双方で3分の1ほど発症率が低く、また注射に対する副反応もほぼ同じ比率で発生した。また、この試験では、RTS, Sワクチン候補は、安全性と忍容性プロファイルも許容範囲だった。 

ミシガン大学の神経科医ジョセフ・コリー医学博士は、自分のクリニックで毎週のように、患者の神経組織が病気や傷害のために死滅あるいは消失するのを見てきた。コリー博士は、神経組織を破壊する病気や傷害が患者に痛みや身体能力の低下など様々な影響を与えるのを見てきて、治療も現在よりもっと効果的な方法がないものか、あるいはできれば神経組織そのものを再生することができないかと考えてきた。 

科学者グループは、小児の腎臓に発生するがんの一種、ウィルムス腫瘍の成長に関与するがん幹細胞を分離し、さらに分離したがん幹細胞を使って新しい治療法を試した。将来、この治療法は進行性がより強いタイプのウィルムス腫瘍治療に役立つようになるかも知れない。この研究結果が、2012年12月13日付オンラインのEMBO Molecular Medicineに掲載された。 

同性愛が遺伝的なものであることは知られていたが、なぜどのようにして遺伝するのかが分からなかった。しかし、エピジェネティクスの研究で、エピマークと呼ばれる、遺伝子の発現を制御する一時的遺伝子スイッチが、同性愛の発生に大きく関わっていながらこれまで見過ごされてきたという説が発表された。 

シェフィールド大学とカリフォルニア大学サン・ディエゴ分校の科学者は、合成発泡タイプの素材を用いて自然の細胞外基質(ECM)の生成過程を模倣する研究を進めているが、幹細胞が正しく接着するために必要なランダムな接着性を再現することに成功した。この成果は、世界中の科学者にとって、幹細胞の成長に適した接着性のあるバイオマテリアルを創り出す上で非常に重要な手がかりとなるものだ。 

遺伝性或いは散発性メラノーマは皮膚がんのうちで最も致死性が高いが、この度、それらのリスクを高めると思われる遺伝子が、国際的な研究で同定された。この変異はMITFをコード化する遺伝子に起こる。MITFはメラノーマの生成元となる細胞であるメラノサイト内の、いくつかの重要なタンパク質の産生を誘導する転写因子である。以前の研究では、MITFがメラノーマの癌遺伝子として作用しうることを示唆していたが、現在の研究ではMITFの変異がメラノーマのリスクを高めるメカニズムを識別した。 

乳がんの悪性化の典型であるがん細胞の局所浸潤や転移を抑えるレセプタータンパクが、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究チームにより明らかにされた。Nature Medicine誌2012年9月23日のオンライン版に発表された論文によれば、他臓器にがんが広がる乳がんの転移を抑制する事で知られる、白血球抑制因子レセプター(LIFR)を同定するために、ハイスループットRNAシーケンシング技術が用いられている。「私たちの研究結果によれば、乳がん転移を抑制するLIFRのような、主要な転移抑制因子の発現や機能を回復させる事が有効だと考えられます。」とMDアンダーソン実験放射線オンコロジー学部准教で主著のリ・マー博士は語る。そして、「乳がん死撲滅の障害となっている転移現象に対する、臨床的に証明された予後マーカーや治療薬はまだありません。 

老化やがんを研究する生物医学研究者は、染色体の末端につながって、これを保護するテロメアに強い関心を持っている。カリフォルニア大学(UC)サンタ・クルス校での新研究では、科学者グループが新しいテクニックを用いて、テロメアの構造的・機械的特性を明らかにした。この成果は新しい抗がん剤開発の方向性を示すと考えられる。テロメアは、染色体の末端につながっており、長いDNA繰り返し配列が特徴である。 

コロラド-ボルダー大学バイオフロンティアズ研究所の科学者、トム・チェック博士とレスリー・ラインワンド博士は、Nature誌が2012年10月24日付オンラインで発表した研究論文で、「抗がん薬開発の標的分子は私たちのDNAの末端領域にある」と書いている。2人の科学者の所属するラボの研究者は、特定のアミノ酸パッチを探して共同研究を進めてきた。 

Laser Scissors顕微鏡と最新のシーケンサーを組み合わせて、ドイツ・ルール大学ボーフム(RUB)の研究チームは、真菌の全ゲノムの遺伝子活性を一挙に解析する方法を開発した。これによってミリサイズの生物体の困難であった小細胞の研究に道が開ける。RUB総合&分子植物学部の研究チームは、小サイズで多細胞真菌の発生や成長の研究に、この方法を適用している。この研究成果はオープンアクセス形式のBMS Genomics誌2012年9月27日号に発表された。多細胞生物では、どの細胞にも同様の遺伝子が含まれているが、活性化(発現)している遺伝子はほんの一部である。この遺伝子発現の差異によって細胞の構造や生理学の多様性が生じるのである。 

自閉症を引き起こす遺伝子を突き止めるため、新しいスキームと新しい方法論で取り組んできた研究グループが、いくつかの免疫系関連遺伝経路に撹乱が起きた場合に自閉症スペクトラム障害が起きやすいという証拠を発見した。2012年12月4日付のオープン・アクセス学術誌「PLos ONE」で発表された研究報告は、自閉症に関連するDNA塩基配列変異の分析と自閉症児のいる家族の研究で突き止められたマーカーの分析とを統合することで、自閉症における免疫機能の役割を裏付けている。 

Walter and Eliza Hall 研究所の科学者が、世界で初めて、細胞死を誘導するアポトーシス調節タンパクの分子変化を画像に捉えた。この成果は、細胞死の過程について重要な理解の手がかりになるもので、将来には、病気にかかった細胞の生死を管理する新しい種類の医薬の開発につながるかもしれない。管理された細胞死、アポトーシスは、体内の細胞の数の管理調節に重要な役割を果たしている。 

スーパーのレジ係りが、商品パッケージに付いているバーコードをスキャンして客の買い物を処理するように、研究者は高性能の顕微鏡と独自に作成したバーコードを用いて、膨大な数の細胞の同定や疾患部位のマーカー分子の同定の管理に利用する。しかし、そのバーコードは僅かなパターンしかないので、細胞の研究を行う様な一度に多くの情報のラベリングが必要な場合には、対応できない。 

片側性巨脳症は稀な疾患であるが、通常対称性を保つ脳の形状が異常化し、片側だけが肥大化する。重度の癲癇を持つ子供によく見受けられるが、その原因は判っておらず、且つ治療法は極めて苛烈であり、肥大化した脳の一部や全てを切り取る手術が行なわれる。カルフォルニア大学(UC)サンディエゴ医学校とハワード・ヒューズ医学研究所の研究者らが主宰する、臨床医と科学者で構成されるチームが、ネイチャー・ジェネティクス誌2012年6月24日のオンライン版に、興味深い論文を発表した。 

正常細胞と比べて、ガン細胞は並外れた量のグルコースを欲しがるので、それによる細胞代謝の変化は、好気性解糖とか「ワールブルク効果」として現れる。研究者は、ガン治療の標的にこの効果を利用できないかと着目しており、代謝状態が変化したガン細胞において、生化学的シグナルがどのように現れるのかを解析している。興味深い研究として、UCLAの分子生物学と臨床薬理学教授である、トーマス・グレーバー博士に率いられる研究チームが、これまでと逆のやり方を採用している事だ。 

通常若いミツ蜂が行う巣作りを、年を取ったミツ蜂が引き受ける場合、脳の老化が逆行、つまり若返る事を、アリゾナ州立大学(ASU)の研究チームが明らかにした。人の加齢性認知症についての現在の研究トレンドは新しい治療薬の開発にシフトしているが、今回の発見が示唆するのは、社会活動への参加が加齢性認知症の進展を遅らせたり、治療効果を発揮したりする可能性である。Experimental Gerontology誌2012年5月21日号のオンライン版に発表された報告によれば、ASU生命科学部の准教であるグロ・アムダム博士に率いられる、ASUとノルウェー大学生命科学部の研究チームは、老齢の働き蜂を巣の内部で”社会的”な仕事をさせた場合、脳内の分子構造が変化することを実証した。「以前の研究で、蜂が巣内で蜂の赤ん坊である幼虫の世話をする時は、観察している期間を通して知的能力を維持していました。しかし、養育期間が終了し、巣外へ食料を採取に行き始めると急速に老化するのです。わずか2週間で羽が退化し体毛が抜け、重要な事は、脳の機能−学習機能テストで診断しましたが−が低下するのです。」とアマダム博士は語る。

DNAだけのせいで、私たちの病気に成りやすさや、影響を受けやすくさが決まる訳ではない。昨今の研究によれば、DNAの配列の変化には関連しないようなDNAの変化、つまりエピジェネティクスと呼ばれる変化によっても、配列変化と同じくらいの大きな影響を受ける事が、明らかになってきている。カルフォルニア大学(UC)サンディエゴ医学校・リューマチ・アレルギー・免疫学部の教授であるギャリー・S・ファイアーステイン博士に率いられる研究チームが、通常はガンや胎児発達の分野で研究対象となる、DNAメチル化と呼ばれるメカニズムが、関節リュウマチ(RA)の進行に大きく関与している事を突き止めた。 

アメリカモデル生物遺伝学会(MOHB):ワシントンD.C.ガン遺伝学会議で、ポストゲノム時代におけるガン治療薬開発には、パスウエイの理解がより重要であることが確認された。パウウエイとは、細胞内で複数の信号が種々の経路を辿りながら最終的な指示を完了するまでの、順序付けられた一連の機序を指す。モデル生物―ショウジョウバエ、回虫、イーストやゼブラフィッシュなど−はヒトのそれと関連を持つ多くのパスウエイを共有しており、一方で構造が平易なので研究に使い易い。 

スタンフォード大学医学部の研究チームが世界で初めて、母親の血液サンプルから胎児のゲノムを解析する事に成功した。この新規的な試みはNature誌2012年7月4日のオンライン版に発表されたが、これは1ヶ月前にワシントン大学から報告された研究と深く関連している。 

RGS9-2と呼ばれる脳タンパク質が体重を調節する役割を有することを、ロードアイランド大学薬学科准教授のアブラハム・コボー博士が発見した。コボー博士は、パーキンソン病および結合失調症の治療薬の副作用であるジスキネジアとRGS9-2との関係の研究中に、今回の発見に至った。ジスキネジアとは、身体が無意識かつランダムに動いてしまう運動障害である。研究結果は2011年11月23日付けのPLoS ONE誌に掲載された。 

最良の健康状態時と最悪の健康状態時の両極端で患者のDNAを比較することで、耐性および感受性遺伝子を同定することが出来る。このアプローチによって、早期の慢性気道感染症を発症しやすい嚢胞性線維症患者間のDCTN4遺伝子変異が発見された。DCTN4遺伝子はダイナクチンをコードする。このタンパク質は、問題となる微生物を死滅させる為に、分子ベルトコンベアでリソソームと呼ばれる極小の化学タンクに移動する、分子モーターの一部分である。 

中国サイエンスアカデミーのゲノム&発生生物学研究所と、世界最大の遺伝子研究所であるBGIとに率いられる国際研究チームが、野生の塩生植物であるソルトクレス(Thellungiella salsuginea)のゲノムシーケンスと解析に成功した。ソルトクレスのゲノム情報は、適応進化のメカニズム解明と、植物の非生物的ストレスへの耐性の底流を成す遺伝子機能の理解に、新たな道標となるものだ。 

癌性腫瘍における2種類の抑制因子の関係を明らかにする上で初となる、包括的研究が発表された。発表したのはケンタッキー大学(UK)毒物学およびジェームス・グラハム・ブラウン寄付講座教授、ダレット・セント・クレア博士である。本研究結果は発ガンにおける転写機構への理解を深めることとなるであろう。 

どうしてティーンエイジャーの中には、同年代の周りの人間がそうしなくても、喫煙を始めたり、薬物に手を出したてみたりするケースが出てくるのだろうか? 過去最大規模で行なわれたヒトの脳の大規模イメージング研究によって−1,896人の14歳のイメージングも含まれている−これまで判らなかった多くの脳内ネットワークの解明に繋がる知見が得られた。ベルモント大学のロバート・ウェラン博士とヒュー・ギャラバン博士は、海外の研究者達の協力も得て、脳内ネットワークの違いによって、一部のティーネイジャーは特異的に薬物やアルコールに走る高いリスクを抱えている事を実証した。単純に脳の働きが他のティーンエイジャーとは違うことが原因で、極めて簡単に衝動的行動を起こすように働くのである。 

卵巣ガン再発の際に腫瘍検体を分析する必要がある、ということが2012年2月号のMolecular Cancer Therapeutics誌に掲載された研究で明らかになった。本研究チームは分子プロファイリングと呼ばれる診断技術を使い、原発および再発卵巣腫瘍における分子特性の違いを調べた所、特定のバイオマーカーにおいて著しい違いを発見した。 

肌の老化防止のために皮膚に塗ったり、運動選手が疲労回復のために服用されたりするビタミンEの本来の身体に対する機能が最近の研究によって明らかになってきた。ビタミンEは強力な酸化防止剤として多くの食品に使用されており、細胞膜の損傷を修復する作用を助ける機能がある。細胞膜は外部の刺激から細胞を護り、細胞への物質の出入りをスクリーニングする機能を有しているが、このあたりの本来的な機能がジョージア健康科学大学(GHSU)の研究チームによって明らかにされ、2011年12月20日付けのネイチャー・コミュニケーション誌に発表された。食事をしたり、運動したりする日常の活動によって、細胞膜は様々な損傷を被り、ビタミンEがその修復に重要な役目を果す事が最近の研究で解ってきた。もし筋肉細胞が修復されなければ、筋肉は筋ジストロフィーで観察されるのと同じように、衰弱し死滅する。細胞膜の修復が覚束無い事に起因する他の疾病例には糖尿病があり、筋肉の脆弱化が主訴の一つとなっている。「特に意識しなくても、私達は毎日ビタミンEを体の中で使っていますが、それがどのような役割なのかは、よく知られていません。」とGHSUの細胞生物学者で本論文の主筆であるポール・マックネール博士は語る。少なくとも役割の一つは明らかになったのだ。「1世紀前の動物実験ではビタミンE欠乏症が筋肉疾患に関係していることは分かったのですが、それがどのようにして起こるのかは今まで謎のままでした。」と、マックネール博士は言う。細胞膜の修復不足が筋消耗や筋壊死を引き起こすということが、マックネール博士がビタミンEの研究に興味を持った理由である。ビタミンEが修復を助ける方法は複数存在する。一つ目は酸化防止剤として、体内での酸素の使用に由来し、修復作用を阻害する副産物の産生を防ぐ事に役立つ。二つ目は、脂溶性の性質により、細胞膜内に潜り込む事が出来るので、フリーラジカルからの攻撃を防ぐ事が出来る。三つ目は、細胞膜の主要成分であるリン脂質を保持するのに役立つため、損傷部位を修復する機能を促進する。例えば、運動をすると細胞の動力室であるミトコンドリアは通常以上の酸素を燃やす。「この結果として、活性酸素種が生産されるのは避けられません。」と、マックネール博士は説明する。運動の物理的な力が細胞膜を損傷するのである。ビタミンEは酸化物質の攻撃を受けても、細胞膜の損傷を修復しながら状態の維持を行なう。フリーラジカルを生成する過酸化水素を使用して運動時の状態をモデル化したところ、骨格筋細胞の損傷はビタミンEを投与しなければ治癒しないことが明らかになった。

患者のゲノムをシーケンシングし、疾患の原因を突き止める。このようなルーティンは未だ実施されてはいないが、遺伝学者チームはこれに近づきつつある。2012年2月2日付けのAmerican Journal of Human Genetics誌に掲載されたケース・レポートの研究チームは、血液検査をゲノムの“エグゼクティブ・サマリー”スキャンと組み合わせて行うことにより、重度の代謝性疾患を診断することが可能であると示している。 

急性リンパ性白血病(ALL)における最初のセラノスティック薬が開発された。開発したのはケースウェスタンリザーブ大学医学部の研究チームであり、2012年3月5日付けのACS Chemical Biology誌に掲載された。ALLは小児がんの最も一般的なタイプであり、米国で新たに診断される数は毎年約5000人にものぼる。本研究知見は、小児腫瘍学における新たなセラノスティック薬の開発の提示となるであろう。 

生細胞におけるタンパク制御機構の最も重要なメカニズムについて、アメリカ・エネルギー省ローレンス・バークレー国立研究所(バークレー研究所)とカルフォルニア大学(UC)バークレー校とが、新たな研究成果を発表した。プロテアソームとして知られるタンパク質は、除去するようにマーキングされたタンパク質類を、同定し破壊する機能を有している、タンパク制御装置とも言える物質である。研究チームは、そのメカニズムに使用されている「制御因子」に至るまで、詳細な解析を行なった。 

カンジダ・アルビカンスのような日和見感染を起こす菌体が、宿主細胞の免疫応答状態を感知し、それに対応することで、宿主の免疫防護システムから首尾よく逃れていることを明らかにしたのは、ルイジアナ州立大学(LSU)ヘルスサイエンスセンター・ニューオリンズ校の微生物学・免疫学・寄生虫学の准教授であるグレン・パルマー博士だ。同博士はイタリアのペルージャ大学のルイジナ・ロマーリ博士が率いる国際研究チームのメンバーでもあった。