各種の攻撃手段を備えてがん細胞に侵入し、がん細胞を内側から粉砕する独特なナノスケール抗がん剤にさらに新しい攻撃手段が加わった。免疫系を刺激し、HER2陽性乳がん細胞を攻撃させるタンパク質がそれである。ロサンジェルスのCedars-Sinai Medical Center, Department of Neurosurgery, Maxine Dunitz Neurosurgical Institute, Nanomedicine Research Centerの科学者が率いる研究チームが医薬を開発し、人間の乳がん細胞を植え付けたマウスで研究を行った。
眼の神経細胞が正常に機能するにはビタミンCが必要である。2011年6月29日号のJournal of Neuroscience誌に発表されたこの新たな発見は、ビタミンCが他の脳機能にも必要な要素である可能性を示唆している。この発表をしたのはオレゴン医療大学(OHSU)の研究チームと共同研究グループである。「網膜の細胞は、比較的高用量のビタミンCが無ければ正常に機能しないという事が分かったのです。」と、OHSUのボラム研究所の科学者で今回の研究の共同執筆者、ヘンリーク博士は語る。 更に「網膜は中枢神経系の一部ですから、今回の発見は、ビタミンCが脳の至る所で今まで知られていなかった大事な役割を果たしているかもしれないという事を示唆しています。」と指摘する。
過去最大級のゲノム全体にわたる研究で、5種の主要精神障害がごく一般的な同様の遺伝子的変異にまで遡ることが突き止められた。資金の一部をNational Institutes of Healthが出しているこの研究では、重なり合う部分は統合失調症と双極性障害で最高を示し、双極性障害と抑鬱症、ADHDと抑鬱症で中程度、統合失調症と自閉症では低度という結果が出た。
エモリー大学の研究チームがこの度、治療困難なうつ病に効く可能性のある炎症抑制薬を発見した。本研究は2012年9月3日付けのArchives of General Psychiatry誌にオンライン掲載された。「炎症は、感染や創傷に対する身体の自然な反応です。しかし長期に渡る、または過度の炎症は、脳を含む身体のいたる所にダメージを与えてしまうのです。」と、本研究の責任著者であるエモリー大学医学部精神医学・行動科学教授、 アンドリュー・H・ミラー博士(M.D.)は説明する。先行研究では、高炎症を有するうつ病患者には抗うつ薬や心理療法など、従来の治療の効き目が低いことが示されている。本研究では、炎症をブロックすることが治療困難なうつ病患者全般に効くのか、あるいは炎症値の高いうつ病患者に特定して効くのかを調べるために行われた。
ボストン小児病院(Children's Hospital Boston)の研究者は、ABCB5と呼ばれるバイオマーカーが、結腸直腸ガン領域内のごく一部の細胞にタグを付け、さらに、スタンダードな処置に対して細胞内で抵抗性が高まることを発見した。この結果はABCB5発現細胞の排出が、結腸直腸ガン治療の成功のカギとなることを示唆している。その一方で、ガン幹細胞仮説と呼ばれるガン細胞増殖のエビデンスが増えていることをも示唆された。研究は国際的なチームで進められており、リーダー的存在はボストン小児病院移植研究センター(Transplantation Research Center at Children's Hospital Boston)のDr. Brian J. Wilson氏、Dr. Tobias Schatton氏、Dr. Markus Frank氏であり、VAボストンヘルスケアシステム・ブリガム女性病院(VA Boston Healthcare System and Brigham and Women's Hospital)のDr. Natasha Frank氏や、ドイツのユリウス・マクシミリアン大学ヴュルツブルク(University of Wurzburg)のメンバー等が参加している。研究成果は、ジャーナルがん研究(journal Cancer Research)電子版(2011年6月7日付)に発表された。
ハトは人間の顔や特徴や感情表現を、人間と全く同じような方法で認識することを明らかにする研究がアイオワ大学(UI)の2人の研究者によって実施され、米国の眼科領域の専門誌「Journal of Vision」(2011年3月31日号)に発表された。実験では、特徴の異なる人間の顔の写真や、不機嫌な表情や笑顔のような様々な感情を表している写真をハトに見せた。
西アフリカのエボラ出血熱ウイルス蔓延はこれまでで最大の規模になっているが、このウイルスが免疫系をすり抜けるテクニックは巧みである。しかし、セント・ルイスのWashington University School of Medicineその他の研究機関が参加する研究チームは、エボラ出血熱ウイルスが体の抗ウイルス防衛機能をすり抜ける方法を突き止めており、この疾患の治療法を新たに開発する糸口になることが期待されている。
Scripps Research Institute (TSRI) の研究チームは、強力な新開発のDNA操作技術をこれまでよりさらに広い範囲にわたって適用する方法を考え出した。TSRI, Department of Chemistry, Molecular Biology Janet and Keith Kellogg II Chairであり、教授も務めるDr. Carlos F. Barbas IIIは、「これは現在の生物学の分野でもっともホットなツールだ。しかも、私たちの研究で、このツールをどんなDNA塩基配列にでも適用できる方法を考え出した」と述べている。
King's College Londonの研究者グループに率いられた国際的な科学者チームが眼球屈折異常や近視を引き起こす遺伝子を新たに24種類同定した。近視は世界中で失明や視覚障害の大きな原因になっており、現在のところ治療法はない。Nature Genetics誌2013年2月10日付オンライで発表された研究論文は、この形質の遺伝的原因を解明しており、より効果的な近視の治療法や予防法を開発する基礎になる可能性がある。
Virginia Commonwealth University (VCU) Massey Cancer Centerの科学者チームによれば、これまでと違った新しいアプローチの免疫療法が臨床前の研究室段階で、転移性がんワクチンのように作用する見通しがつかめた。最近行われたその研究によると、療法は転移性がんの治療に適していると同時に既存のがん治療と並行して用いることができ、新しく転移した腫瘍の進行を防ぎ、特定の免疫系細胞を「訓練」してがんの再発に備えさせることができる。
細胞膜の規則正しい構造がどのようにできるのかということについて、新しい仮説が注目されている。ドイツ連邦ポツダム市にあるMax Planck Institute of Colloids and Interfacesの科学者チームが、糖脂質と呼ばれる糖と脂質の複合体が、細胞膜においてどのようにしてそれ自体でラフト、つまり非常に規則的な微小な領域を持った構造物を形成することができるのかという謎を説明する仮説を提出している。植物や動物の細胞膜表面の糖脂質配列は様々な細胞プロセスを制御しているが、このプロセスにエラーが発生すると、発作性夜間ヘモグロビン尿症 (PNH) や牛海綿状脳症 (BSE) などの疾患が起きる。
ガレクチン-3として知られているタンパク質によって、心不全のリスクが高い人を識別することが可能であることが、国立衛生研究所に所属する国立心肺血液研究所(NHLBI)の研究で判明した。本研究は、1948年に開始し、心臓病の危険因子についての研究で中心的な役割を担うNHLBIのフラミンガム心臓研究基金のグラントによって実施されたものである。本研究は2012年8月29日付けのJournal of the American College of Cardiology誌にオンライン掲載され、さらに2012年10月2日付けの同誌にも出版される。
Walter and Eliza Hall 研究所の科学者が、世界で初めて、細胞死を誘導するアポトーシス調節タンパクの分子変化を画像に捉えた。この成果は、細胞死の過程について重要な理解の手がかりになるもので、将来には、病気にかかった細胞の生死を管理する新しい種類の医薬の開発につながるかもしれない。管理された細胞死、アポトーシスは、体内の細胞の数の管理調節に重要な役割を果たしている。
卵巣ガン再発の際に腫瘍検体を分析する必要がある、ということが2012年2月号のMolecular Cancer Therapeutics誌に掲載された研究で明らかになった。本研究チームは分子プロファイリングと呼ばれる診断技術を使い、原発および再発卵巣腫瘍における分子特性の違いを調べた所、特定のバイオマーカーにおいて著しい違いを発見した。
患者のゲノムをシーケンシングし、疾患の原因を突き止める。このようなルーティンは未だ実施されてはいないが、遺伝学者チームはこれに近づきつつある。2012年2月2日付けのAmerican Journal of Human Genetics誌に掲載されたケース・レポートの研究チームは、血液検査をゲノムの“エグゼクティブ・サマリー”スキャンと組み合わせて行うことにより、重度の代謝性疾患を診断することが可能であると示している。
急性リンパ性白血病(ALL)における最初のセラノスティック薬が開発された。開発したのはケースウェスタンリザーブ大学医学部の研究チームであり、2012年3月5日付けのACS Chemical Biology誌に掲載された。ALLは小児がんの最も一般的なタイプであり、米国で新たに診断される数は毎年約5000人にものぼる。本研究知見は、小児腫瘍学における新たなセラノスティック薬の開発の提示となるであろう。