テキサス大学サウスウェスタンメディカルセンターの研究チームは、成体ほ乳類の脊髄の成熟神経細胞再生の増大に成功した。いつかこの成果を脊髄損傷患者治療の改善に応用できるようになるかも知れない。この研究論文の首席著者で、テキサス大学サウスウェスタンのAssociate Professor of Molecular Biologyを務めるDr. Chun-Li Zhangは、「この研究で脊髄損傷再生治療の基礎ができた。再生過程に関わっている経路の分子レベルと細胞レベルの重要なチェックポイントを突き止めた。脊髄損傷には、これを操作して神経細胞再生を増大させることも考えられる」と述べているが、Cell Reportsに掲載されたこのマウスでの研究は初期の実験段階であり、まだ臨床に応用できる段階ではないと慎重に語っている。この論文の筆頭著者、Dr. Zhang研究室ポスドク研究員のDr. Lei-Lei Wangが行ったいくつものin vivoスクリーニングが今回の発見につながったのだが、論文で、「脊髄損傷は致命傷になることもあり、また重度の障害をもたらすこともある。また、生存者も身体のマヒに悩み、生活の質が下がり、経済的にも精神的にも大きな負担に悩むことが多い」と述べている。2016年10月11日付Cell Reportsのオープンアクセスに掲載されたこの論文は、「The p53 Pathway Controls SOX2-Mediated Reprogramming in the Adult Mouse Spinal Cord (p53経路で、SOX2仲介による成体マウスの脊髄のリプログラミングを制御)」と題されている。

がん患者個人に最適な治療薬の選択は往々にして正確性に欠ける。ある患者に有効な薬剤も他の患者には効かないということもあり、腫瘍初期には有効だった薬剤も後には耐性が生まれることもある。MITとDana-Farber Cancer Instituteの研究チームは、さらに個別化した治療法を編成するため、がんの薬剤感受性の新検査法開発した。 

再発頭頸部がんは非常に治療が難しいとされるがんだが、免疫療法薬剤で患者の生存率を飛躍的に向上させたことから、がん治療の流れを変える医薬として注目されている。ニボルマブ(Nivolumab、商品名:オプジーボ)は、化学療法に反応しなかった頭頸部がん患者を対象に行った第3相臨床試験で初めて生存率を引き延ばすことができた。しかも、従来の治療法に比べて副作用も少なかった。2016年10月9日付New England Journal of Medicineオンライン版に掲載された研究論文で報告されている大規模な国際的治験で、ニボルマブ投与を受けた患者の1年後の生存率が化学療法治療の患者に比べ、2倍以上の高率になった。NEJMのオープン・アクセスで発表されたこの論文は、「Nivolumab for Recurrent Squamous-Cell Carcinoma of the Head and Neck (再発頭頸部がん上皮扁平細胞悪性腫瘍にニボルマブを投与)」と題されている。現在のところ、再発・転移したシスプラチン耐性頭頸部がん患者の生存率を向上させる治療法は他にない。この疾患の患者の期待余命は6か月未満とされている。この試験は、イギリスではロンドンのThe Institute of Cancer ResearchとThe Royal Marsden NHS Foundation Trust所属のProfessor Kevin Harringtonが指導し、世界各国の20の研究機関が参加して行われた。また、研究にはBristol Myers Squibbが出資した。研究に参加した361人の患者のうち、再発または転移性の頭頸部がんの240人はニボルマブの投与を受け、121人は3種のうちの1種の化学療法を受けた。

実質臓器移植を受けた患者は生涯免疫抑制療法を続けなければならない。薬剤療法が不十分なために移植拒絶反応が起きるリスクは、過剰な免疫抑制が原因で感染やがんを引き起こすリスクとのバランスが問題になる。移植レシピエントの予後、特に能動的傷害や拒絶反応の早期発見を監視する非侵襲性診断ツールには膨大なニーズがあるがまだ十分に満たされていない。2016年10月7日付The Journal of Molecular Diagnosticsオンライン版に掲載された研究論文は、血漿中のドナー由来セルフリーDNA (dd-cfDNA) を測定する臨床グレード非侵襲性検査の検証を報告している。これが成功すれば合併症や拒絶反応を減らし、移植レシピエントの予後を改善することもできるようになる。この論文はJournal of Molecular Diagnosticsのオープンアクセス論文として掲載されており、「Validation of a Clinical-Grade Assay to Measure Donor-Derived Cell-Free DNA in Solid Organ Transplant Recipients (実質臓器移植レシピエントのドナー由来セルフリーDNA測定臨床グレード・アッセイの検証)」と題されている。

ケンブリッジ大学(英国)の医療研究評議会(MRC : Medical Research Council)がんユニットの研究者らは、患者予後不良に関連する代謝に関連する遺伝的特徴を同定した。 8161個の組織サンプルを分析した結果、臨床医は将来、患者を治療する最良の方法を決定し、新たな標的治療の開発を支援することができる可能性がある。 がん細胞が増殖し広がるには複雑な代謝変換を受ける。 これにより、がん細胞が増殖するエネルギー需要を満たすことが可能になる。代謝経路の変化を支える遺伝子の理解を深めていくことで、体内に癌が広がる事象をさらに深く知ることができる。 この目的のために、MRCがんユニットのプログラムリーダーであるクリスチャン・フレッツァ博士とエドアード・ガデ(Edoardo Gaude)博士課程学生は、Cancer Genome Atlas(TCGA)で保有されている8,161の腫瘍および非癌性のサンプルから20種類の固形癌タイプにわたる代謝遺伝子の発現を分析した。

膵がん治療薬の試験としてはかなり大きな規模で行われた第3相試験で、gemcitabineと経口抗がん剤のcapecitabineを併用することで毒性を増すことなく生存率を引き上げることができることが示された。現在、gemcitabineは、膵がん摘出手術後の標準的な補助化学療法として世界的に用いられている。 

従来、ハイリスク神経芽細胞腫小児患者の診断後5年以上の生存率は50%未満である。National Cancer Institute (NCI) の研究資金を受けてChildren’s Oncology Groupsコンソーシアムが実施した第3相試験で、標準的な治療に加え、第二の自己幹細胞移植 (ASCT、患者自身の幹細胞を移植) を行うことで治療効果の向上が見られた。3年後、二重移植を受けた患者の無疾患生存率が61.4%だったのに比して単一移植の患者の無疾患生存率は48.4%だった。また、副作用は単一移植も二重移植もほぼ同じだった。6月3日より7日までアメリカ合衆国イリノイ州シカゴ市で開かれた2016 American Society of Clinical Oncology (ASCO) Annual Meetingで発表された5,000件を超えるアブストラクトのうちでも、患者医療に大きな影響を与えると考えられた4件が6月5日 (日曜) の本会議で発表された。研究論文筆頭著者で、ワシントン州シアトル市、Seattle Children’s Hospitalの医局員とUniversity of Washington School of MedicineのPediatrics教授を兼任するJulie R. Park, M.D.は、「この研究結果により、北米ではハイリスク神経芽細胞腫小児患者の治療法を変えることになるだろう。この疾患は依然として大勢の幼い命を奪っており、治療法の向上は喫緊の問題である。しかしながら、ハイリスク神経芽細胞腫に対して用いているレジメンは、小児がん患者に用いる医薬としては侵襲性と毒性がもっとも強いレジメンである。そのような理由から、これからの研究は、現行治療法の晩期障害を探ることと、さらに新しい毒性の低い治療法を開発することを重点にしなければならない」と述べている。

65歳以上の健康な双生児を対象に行われた国際的にも重要な研究で、遺伝子が脳の灰白質構造の発達に及ぼす影響を知る重要な手がかりが明らかにされ、人間の脳の遺伝的青写真解明に道を開いた。オーストラリアのUniversity of New South Wales (UNSW) Medicineの研究者を中心とする研究チームは、Older Australian Twins Study (オーストラリアの高齢双生児研究) の対象となった322人のMRIスキャンを分析した。 

カリフォルニア州のスクリプス研究所(The Scripps Research Institute)の研究者が中心になって進めた動物モデルでの新しい研究の結果、強迫性飲酒の衝動を止める方法が見つかるかもしれない。この研究を指導したスクリプス研究所のAssistant Professor、Olivier George, Ph.D.は、「神経回路網を標的にする研究でアルコール依存症を完全に消滅させることができた」と述べている。 

人間の消化器官には兆を数える細菌が棲み着いており、その多くが食物の消化を助けると共に有害な細菌と戦う役目を果たしている。最近の研究でそのような消化器官の細菌が糖尿病、心臓病、がんなどの人間の疾患に対して良いようにも悪いようにも影響していることが突き止められている。これらの細菌について解明を進めてきた研究者は、マイクロバイオームと呼ばれるこのような細菌群を利用して人間の健康改善に役立てることができるのではないかと考え始めている。 そのような将来を予想し、MITの研究チームは大量の善玉細菌を人間の腸に送り込む方法を開発してきた。2016年9月12日付Advanced Materialsオンライン版に掲載された論文はそのような方法について述べており、論文首席著者の一人で、MITのKoch Institute for Integrative Cancer Researchの博士研究員、Ana Jaklenec, Ph.D.は、「マイクロバイオームの理解が進めば、この輸送手段を用い、特定領域を標的にして、特定の細菌種を送り込むことができるようになる」と述べている。この論文は、「Layer-by-Layer Encapsulation of Probiotics for Delivery to the Microbiome (プロバイオティクスの交互積層カプセル化でマイクロバイオームに輸送)」と題されている。

新研究で、老化とトランスポゾンの動きの関係として唱えられている「老化のトランスポゾン原因説」がさらに強く裏付けられた。トランスポゾンは転移因子とも呼ばれ、老化した細胞中で一部の塩基配列がDNAからはぐれたもので、ゲノムの他の部位に自分自身を転写し、組織の遺伝子構成を撹乱し、生物の寿命を縮める可能性もある。過去の研究から、細胞が老化すると堅く巻きついていたヘテロクロマチンがゆるみ、その中に閉じ込められていたトランスポゾンが染色体の所定の位置から抜け出して新しい位置に移動し、正常な細胞機能を混乱させることが明らかになっている。一方、これまでの研究で、研究動物のカロリー摂取量を制限したり、特定遺伝子を組み換えることで大幅に寿命を伸ばせることが示されており、そのことと関連している可能性がある。2016年8月24日付PNASオンライン版に掲載された新研究論文の主席著者で、ブラウン大学のprofessor of biologyを務めるDr. Stephen Helfandは、「この研究で、真の因果関係の可能性の解明に向けて大きく踏み出した」と述べている。この論文はオープン・アクセス論文として掲載され、「An Accelerated Assay for the Identification of Lifespan-Extending Interventions in Drosophila melanogaster (キイロショウジョウバエの寿命を引き延ばす介入の判定のための加速アッセイ)」と題されている。Dr. Stephen Helfandは、「これまで、連想や示唆は何度も言われており、いずれも十分に根拠のあるものだったが、科学の世界では仮説を裏付けるデータが揃っていなければならない」と述べている。Faculty investigatorのDr. Jason Woodをリーダーとする新研究の成果は、ヘテロクロマチンの弱化、トランスポゾンの発現の増加、老化、寿命など個々の現象を綿密かつ直接的に結びつけるいくつかの実験を経て導き出された。

大規模なゲノム解析で、血液サンプル (液体生検 : liquid biopsy) で検出される遺伝子変化のパターンが、従来の腫瘍組織生検で判定される遺伝子変化のパターンとかなり厳密に一致することが突き止められた。15,000人を超える患者と50種のがん種の血液サンプルを調べたこの研究は、過去有数の規模のがんゲノミクス研究である。 

植物の中には、生き延びる仕組みとして、草食生物を遠ざける毒性物質や抑制物質をつくって身を守るものも多い。また、昆虫の中には進化の過程で宿主植物の防御化合物に適応し、植物の防御機能をかいくぐることに成功したものもたくさんいる。ところが、植物も負けずにその防御系をさらに適応させ、敵に対する防御機能を強化し、昆虫の適応進化に対抗するようになってきた。生物学者はこれを植物と昆虫の間の「進化の軍備競争」と呼んでいる。多種の昆虫が植物害虫であり、「単食性・狭食性」と「広食性」とに分けることができる。広食性昆虫は何種類もの植物を食べることができるが、単食性・狭食性昆虫は単一または少数のごく近い種の植物しか食べることができない。この新研究で分析された蛾の一種、Heliothis subflexaは、そのようなただ一種の宿主植物しか食べない単食性昆虫である。研究チームは、単食性のHeliothis subflexaと広食性のHeliothis virescensという2種の蛾の相対的体重増加、生存率、免疫状態に対するウィタノリドの効果を測定比較した。以前の研究から、単食性の蛾は、非常に近い種ながら広食性の蛾と比べると免疫反応が弱いことが突き止められている。この研究を指導したMax Planck Institute for Chemical EcologyのHanna M. Heidel-Fischer, Ph.D.は、「ウィタノリドには、Heliothis subflexaだけに幼虫の成長や免疫系活動を高めるという効果があるが、近い種のHeliothis virescensにはそのような効果が見られなかったので、私達も驚いた」と述べている。この研究論文は、2016年8月26日付Nature Communicationsオンライン版に掲載され、「Immune Modulation Enables a Specialist Insect to Benefit from Antibacterial Withanolides in Its Host Plant (免疫調節で単食性昆虫が宿主植物の抗菌性ウィタノリドの恩恵を受ける)」の表題でオープン・アクセス論文として収録されている。さらに、Department of Entomologyの研究チームは、ウィタノリドは、単食性蛾を病原菌Bacillus thuringiensis感染性の成長不全から守る効果があったが、広食性蛾には効果がなかった。共同著者のHeiko Vogel. Ph.D.は、「Heliothis subflexaの幼虫は、理論的にPhysalisの実から2つの利益を受けることができる。まず、ウィタノリドの抗菌性と免疫刺激作用だ。次に、Physalisの実は外敵を寄せつけない空間をつくる萼に覆われている」と述べている。 

無作為化第3相臨床試験MA.17Rで、letrozole (商品名Femara) を使ったアロマターゼ阻害薬 (AI) 療法を5年から10年に引き延ばすことで閉経後の早期乳がんに対する治療効果が高まることを突き止めた。以前にtamoxifenを投与されたことがあり、その後5年間のAI療法を受けた乳がん患者は、さらに5年間のletrozole投与を受けることで、プラセボ投与患者に比べて再発率を34%引き下げることができた。 

ハーバード大学とマサチューセッツ工科大学が共同で運営する研究施設Broad Institute of MIT and Harvard、マサチューセッツ工科大学、アメリカ国立衛生研究所、ラトガース大学ニューブランズウィック校、そしてロシアのスコルコボ科学工科大学の研究者グループは、DNAの代わりにRNAを標的とする新しいCRISPRシステムの特徴を明らかにした。この新しいアプローチにより、パワフルな細胞操作技術が実現する可能性がある。DNA編集は細胞のゲノムを永久的に変更してしまうのに対して、CRISPRベースのRNAを標的とする手法は、調節自由な一時的変更が可能であり、かつ従来のRNA干渉法に比べて特異性と機能性が高いという特長がある。Broad Institute of MITとMcGovern Institute for Brain ResearchのFeng Zhang, Ph.D.、同僚研究者で共同著者でもあるNIHのEugene Koonin, Ph.D.と、同僚研究者のラトガース大学ニューブランズウィック校とスコルコボ科学工科大学のKonstantin Severinov, Ph.D.は、RNAを標的として分解する能力のあるRNA誘導型酵素、C2c2を同定し、その機能的特徴を明らかにした。

毎年、スイスでは5,700人の女性が新しく乳がんと診断され、また1,400人近い女性がこの疾患で亡くなっている。浸潤性がきわめて強い乳がんでは、細胞の表面に受容体HER2が過剰に存在しているタイプが多い。これが細胞の無制限な増殖につながっている。これまで乳がんの治療にはTrastuzumabやpertuzumabなど、HER2受容体を認識する抗体が何年も用いられてきた。 

デューク大学の研究チームと同僚研究者が、痛みの治療で焦点になっていた2つの標的を同時にブロックする有望な新しいクラスの低分子薬剤を発見した。この概念実証実験は、皮膚の刺激感やかゆみ、頭痛、顎痛、膵臓や結腸を原因とする腹痛などの症状を緩和する新薬の開発に結びつく可能性がある。2016年6月1日付Scientific Reportsオンライン版に掲載されたオープンアクセスのこの研究論文は、「Small Molecule Dual-Inhibitors of TRPV4 and TRPA1 for Attenuation of Inflammation and Pain (TRPV4とTRPA1の低分子二重阻害剤で炎症と痛みを緩和)」と題されている。Institute of Medicineの報告によると、アメリカでは1億人以上の人が慢性的な痛みに悩んでおり、新しい医薬を是非とも必要としている。デューク大学医学部の神経学、麻酔学、神経生物学教授を務めるWolfgang Liedtke, M.D., Ph.D.は、頭痛、顔面痛その他の感覚障害患者の治療にあたっており、「非常に有望な話の第一章ともいうべきこの展開をうれしく思う。この化合物を人間や動物の臨床治療に使えるようにしたい」と述べている。

イスラエルのBen-Gurion University of the Negev (BGU) 所属の研究者らが2年をかけて行った無作為化比較試験の結果によれば、2型糖尿病患者が、毎晩グラス1杯の赤ワインを摂取することでコレステロールと心臓の健康管理を増進できる可能性が示され、またワインは赤白とも、個々人のアルコール代謝率を示す遺伝子プロフィール次第で糖コントロールを改善できるかもしれない。糖尿病患者のアルコールの影響を調べた初めての試みとなるこの長期的な研究の成果は、2015年10月13日付Annals of Internal Medicineオンライン版に掲載された。この研究では適量のアルコール摂取が糖尿病患者に与える効果と安全性を評価し、ワインのタイプで異なる結果が出るかどうかも判定することが目的だった。この研究論文は、「Effects of Initiating Moderate Alcohol Intake on Cardiometabolic Risk in Adults With Type 2 Diabetes: A 2-Year Randomized, Controlled Trial (2型糖尿病成人患者の心血管代謝リスクに対する適量のアルコール摂取の効果: 2年にわたる無作為化比較試験)」と題されている。糖尿病患者は、健康な人口と比べると、循環器系疾患にかかりやすく、また、「善玉」コレステロール量も低い。膨大な数の観察研究が行われてきたが、適量のアルコール摂取を臨床的に勧めていいかどうかはまだ議論の分かれるところであり、特に糖尿病患者の場合には反対も大きい。それというのも、根拠に基づく医療にとって至上の理想とされる長期的な無作為化比較試験が欠けているからである。

UCLAの5人の研究者チームが、研究プロジェクトに対してNIHの助成金を受けた。この研究プロジェクトは、脳の神経回路の情報処理、エンコード、保存、読み出しの仕組みに対する理解を深めることになると考えられる。向こう3か年で230万ドルの資金が与えられるこの研究は、動物生体の神経回路網を傷つけることなく、その活動を記録する手法を開発することを目的としている。 

胎児のRh血液型、D抗原 (RHD)、性別、遺伝性障害を判定することのできる簡単で正確で低リスクの血液検査開発研究が2015年11月号Clinical Chemistryに掲載された。この論文は、「Fetal Sex and RHD Genotyping with Digital PCR Demonstrates Greater Sensitivity than Real-time PCR (デジタルPCRの胎児性別、RHD遺伝子判定でリアルタイムのPCRを超える感度を証明)」と題されている。この研究は、イギリスのPlymouth Hospitals NHS TrustとPlymouth Universityの共同で行われた。NHS(National Health Service)が認めている従来の羊水穿刺は、針を用いる上にわずかながらも流産のリスク(1%)があるのに対して、このDNA検査は、コストが非常に低く、非侵襲的な検査である。新開発のこの検査は、血友病、デュシェンヌ型筋ジストロフィーなどX連鎖劣性遺伝性疾患のリスクのある母体や新生児溶血性疾患のリスクのある母体を対象に実施することができる。また、女性が妊娠初期に初めて一般開業医や助産婦の診察を受けた時の採血を使えるため、何度も予約を取る必要もなく、時間や設備を有効に使うことができる。

University of Southern CaliforniaとSangamo BioSciencesの研究チームの協同作業のおかげで、造血幹細胞前駆細胞 (HSPCs) のジンク・フィンガー・ヌクレアーゼ・ベースの遺伝子編集技術がさらに前進した。研究論文で、共同第一著者のUSC所属Colin M. Exline, Ph.D.とSangamo BioSciences所属Jianbin Wang, Ph.D.は、造血幹細胞・前駆細胞の遺伝子を効率的に編集する新しい手法を発表している。2015年11月9日付Nature Biotechnologyオンライン版に掲載されたこの研究論文は、「Homology-Driven Genome Editing in Hematopoietic Stem and Progenitor Cells Using ZFN mRNA and AAV6 Donors (ZFN mRNA and AAV6ドナーを用いた造血幹細胞・前駆細胞 (HSPCs)のホモロジー・タイプのゲノム編集)」と題されている。論文の共同責任著者でUSCにおいてMolecular Microbiology and Immunology、 Pediatrics, Biochemistry and Molecular BiologyおよびStem Cell Biology and Regenerative Medicineの教授を務めるPaula Cannon, Ph.D.は、「HSPCsを用いた遺伝子療法は、HIVその他の血液系、免疫系疾患の治療に大きな可能性を持っている。また、ゲノム編集テクニックによって、疾患を引き起こす、遺伝子の誤植、つまり、遺伝子の突然変異を修復するなどきわめて精密な改変が可能になっている」と述べている。

イギリスのバブラハム研究所とマンチェスター大学の研究者の共同研究で、ゲノムの物理的接続をマップ化し、ゲノム中の自己免疫疾患に関わる部分の解明が前進。研究チームは、Capture Hi-Cと名付けられた、見かけ上かけ離れた位置の遺伝子の発現を調節するノンコーディング配列を判定する新しいテクニックを用いて、遺伝子配列の変化の生体的影響や疾患リスク増加などの理解に新しい手がかりを与えている。この新研究は、2015年11月30日付Nature Communicationsオンライン版オープン・アクセス論文として掲載され「Capture Hi-C Reveals Novel Candidate Genes and Complex Long-Range Interactions with Related Autoimmune Risk Loci (Capture Hi-Cが明かす新発見の候補遺伝子と関連自己免疫リスク遺伝子座との間の複雑な長距離相互作用)」と題されている。

MRgFUS (MRガイド下集束超音波)による熱アブレーションは、線維腫やがんの非侵襲的治療法である。University of California, Davis (UC-Davis) の新しい研究は、このテクニックをナノ粒子を用いた化学療法と併用することでマウスのがんを根絶できることを示した。MRgFUSは、超音波ビームで組織を熱して破壊する手法を磁気共鳴映像法 (MRI) と組み合わせ、MRIによってビームを誘導し、同時に治療の効果をモニターすることができる。さらに、この治療法では、がん周辺部の正常組織や重要な構造に損害を与えないよう、また微小がん組織転移部分だけを破壊するよう、その効果を絞り込むことができる。The Journal of Clinical Investigationオンライン版に掲載されたオープン・アクセス論文で、UC-DavisのDistinguished Professor of Biomedical Engineeringを務めるKatherine W. Ferrara, Ph.D. (写真) と同僚研究者は、がん周辺部の組織を熱破壊せず、がんだけを完全に破壊する治療法について報告している。

University of Texas Southwestern Medical Center (UT Southwestern) の研究者を中心とする研究コンソーシアムは、精神病の診断と治療に役立てられる包括的なバイオマーカーの組み合わせを経験的に証明した。従来、精神病診断の基本は臨床観察で、患者を統合失調症、分裂情動、双極性障害などに分類することだった。しかし、Bipolar-Schizophrenia Network on Intermediate Phenotypes (B-SNIP、中間表現型の双極性障害・統合失調症ネットワーク) と名付けられたこの新しい研究で、神経生物学的に独特な3種のバイオタイプを突き止めた。この3種は従来の臨床所見と必ずしも一致しない。アメリカ国民の推定6%が統合失調症、分裂情動、双極性障害を患っている。言い替えれば1,900万人のアメリカ国民がこれらの障害に悩んでいるということになる。この研究コンソーシアムを率いたUT SouthwesternのChair of Psychiatry and Professor of Psychiatryを務めるCarol Tamminga, M.D.は、「ある意味で、この研究はこれまでの精神病診断の基礎を完全に解体し、再考したといえる。

健康的な食事と運動が、がんの予防と管理に重要であることはかなり研究され、論文も出ているが、その正確な機序についてはまだ明らかになっていない。しかし、Yale Cancer Centerの研究チームは、テロメア (写真で赤の部分) と呼ばれる染色体の小さな保護端にその謎を解く可能性を突き止めた。 

ある種の感染症は免疫系から逃れる機能を持っているため、治療が特に難しい。その一つに、ツェツェバエに媒介される原虫、ブルース・トリパノソーマを病原体とするアフリカ睡眠病があり、治療せずに放置すると死に至る。このトリパノソーマ原虫は、ツェツェバエから哺乳動物に入り込み、やがて脳などの主要器官に侵入、睡眠サイクルを妨げるなどの症状を引き起こす。このトリパノソーマはその生活段階で様々な形態を取ることが知られており、ハエの体内にいる時はプロサイクリンというタンパク質に覆われている。ところが、いったん哺乳動物の血流に入ると、この原虫は表面を糖タンパク質の層で覆い、この糖タンパク質層を常に変化させることで特定糖タンパク質を抗原と認識する免疫系の攻撃を逃れる。New York CityのRockefeller UniversityにあるNina Papavasiliou, Ph.D.と、ノーベル賞受賞者、Günter Blobel's (M.D., Ph.D.) の研究室のポスドク研究員、Dr. Danae SchulzとDr. Erik Deblerの新しい研究で、哺乳動物の血流中のトリパノソーマを操り、ツェツェバエ体内での形態に固定することで、侵入してきた異物として人体の免疫系が攻撃しやすくする方法を発見した。

イギリスのサザンプトンとオランダの生殖医療研究者は、体外受精 (IVF) 治療が成功するかどうかを予想できる子宮内膜の特定遺伝子パターンを突き止めた。この研究の共同筆頭著者で、サウサンプトン大学のChair in Obstetrics and Gynecologyを務めるNick Macklon教授は、なぜ一部の女性がIVFで繰り返し失敗するのかということを不妊治療医が理解する助けになるのではないかと述べている。また、体外受精治療を受ける前に女性が妊娠できる確率を判定したり、繰り返し失敗した場合にさらに治療を続けるべきかどうかを判断する手がかりとなるテストの開発にもつながると述べている。サザンプトン市のPrincess Anne Hospital内にある、NIHR Southampton Biomedical Research Centreの一機関、Complete Fertility Centre SouthamptonのMedical Directorを務めるProfessir Macklonは、「これまで、IVFで何度良質な胚の移植を受けても妊娠に成功しない女性が多くの場合、子宮内膜が失敗の原因かも知れないということがはっきりしなかった。今回の研究で、IVFで何度も失敗している女性では内膜の細胞に異常な遺伝子発現が見られ、特定遺伝子パターンが見られる場合、必ずIVF失敗になっていることが突き止められた。IVFの失敗を理解する上で重要な発見だ」と述べている。

University of California (UC), San Diego (UCSD) の生物学者と生物医学者の研究チームは、細菌が抗生物質に感受性を持つかどうかを2,3時間で判定する新しい検査法を開発した。これは大きな前進というべきで、薬剤耐性化を遅らせ、さらに、医師にとっては、一刻を争う致命的な細菌感染症の細菌に合わせた治療を迅速に判断することができる。 

California Inatitute of Technologyの研究チームは、「アルギニン・バソプレシン」と呼ばれるホルモンは、これまで動物の一夫一妻的生殖行動や同種個体に対する攻撃性などと関係があるとされていたが、ヒトの場合には危険な状況で協力関係を強化する作用があると述べている。2016年2月8日付のPNASオンライン版に掲載されたこの研究成果は、集団が有益な目的に向けて協力するように用いることができる可能性を示している。この論文は「Vasopressin Increases Human Risky Cooperative Behavior (バソプレシンがヒトのリスキーな協力行動を強化)」と題されている。齧歯類での研究で、アルギニン・バソプレシン (AVP) というホルモンは、オスメスのつがいの一夫一妻的結びつきや親としての行動を強化するが、オスでは攻撃性を強めることが突き止められている。この論文の共同著者でCal TechのRobert Kirby Professor of Behavioral Economicsを務めるColin Camerer, Ph.D.は、「一夫一妻制のマイナス面として、AVPで興奮したオスは、侵入者に対してより攻撃的になる傾向が見られる」と述べている。しかし、この新しい研究では、Dr. Camererと研究チームは、「AVPは人間の社会的絆にも役割を果たしており、互いに協力するという人間の性質もそれで説明できるのではないか」という仮説を試した。

免疫療法をがんや感染症治療のために広く臨床的に用いる試みは近年になって大きく進んでいる。たとえば、T細胞移入療法の臨床試験はかなり有望な成果を挙げている。ワシントンDCで開かれたAmerican Association for the Advancement of Science (AAAS、米国科学振興協会) の2016年年次総会では、Technical University of Munich (TUM) のDirk Busch教授、San Raffaele Scientific InstituteのChiara Bonini教授、Fred Hutchinson Cancer Research CenterとUniversity of Washingtonに所属するStanley Riddell教授という斯界の国際的権威3人が、最近のこの分野の進展状況を報告した。T細胞免疫は、健康に対する疾患の危険を判断し、これに対応するよう進化してきており、同じ疾患の再発を防ぐために生涯にわたって免疫を記憶している。ところが、慢性疾患では、反応性の高いT細胞がしばしば不活動になったり、消失することさえある。最近の研究の進歩により、保護機能的なT細胞の免疫応答を復活させることで慢性感染症だけでなく、がんさえ治療できるという考えがかなりリアリティを持ち始めている。

糖尿病患者の場合、膵臓でインスリンを産生するβ細胞と呼ばれる細胞が喪失するか、機能不全に陥っている。長年、研究者は、このβ細胞を補充する方法を探し求めてきた。2016年2月18日付Cell Stem Cell誌オンライン版に掲載された研究論文で、ある研究チームが、胃下部の組織がβ細胞としてリプログラムできる可能性がもっとも高いことを突き止めたと報告している。このオープンアクセス論文は、「Reprogrammed Stomach Tissue As a Renewable Source of Functional Beta-Cells for Blood Glucose Regulation (血糖調節のためのβ細胞再生源としてリプログラムした胃組織)」と題されている。同研究チームは、マウスからこの組織のサンプルを採取して、「ミニ器官」として培養した上でマウスに戻すとインスリンの分泌を始めた。それだけでなく、「ミニ器官」幹細胞は、インスリン産生細胞を補充し続け、組織の再生能力を維持することができた。リプログラミングでインスリン分泌能力を持たせるのに適した体内組織を見つけるため、研究チームは、マウスの遺伝子組み換えを行い、他のタイプの細胞をβ細胞に変えることのできる3種の遺伝子を発現するようにした。

The Scripps Research Institute (TSRI) の研究チームは、B細胞免疫寛容の主要調節因子と見られるmiR-148aというmicroRNAは、活動が高揚すると全身性エリテマトーデス (SLE、狼瘡とも) など自己免疫疾患の原因になる可能性があることを突き止めた。miR-148aという小さなノンコーディング分子の活動高揚で、自己応答型の免疫B細胞が血流中に入り込み、自身の身体の組織を攻撃するようになることを発見したのである。この研究論文は、2016年2月22日付Nature Immunologyオンライン版に掲載され、「The microRNA miR-148a Functions As a Critical Regulator of B Cell Tolerance And Autoimmunity (B細胞寛容と自己免疫性の重要な調節因子として機能するmiR-148a)」と題されている。論文第一著者のAlicia Gonzalez-Martinは、その発見に興奮しており、「B細胞寛容の調節に関連して初めて名前が浮かんできたmiRNAだ」と述べている。また、TSRIのDavid Nemazee教授とともに研究を進めた共同筆頭著者、TSRIのChangchun Xiao准教授は、「これは将来の治療法の標的として有望だ。これがただの副作用ではなく、明確な因果関係を持っていることを突き止めた」と述べている。

Stanfordのバイオエンジニアと医師の新研究で、受精1時間後という初期段階で卵の硬さを測定するだけで、現行の方法より正確に胚の生存率を予測できることを突き止めた。この手法で、体外受精 ( IVF ) での単一胚移植の成功率を大幅に向上させ、ひいては母子の予後を改善することができる。現行のIVF胚選別は比較的定性的な作業である。まず卵を受精させ、5日または6日後、胚が60個から100個の細胞の胚盤胞段階に達すれば、胚のモルホロジーと細胞分裂速度を評価する。その後、もっとも卵割の速い、もっとも形のいい胚を選び出し、移植に用いる。胚盤胞からいくつかの細胞を採取し、遺伝子検査にかけることでさらに成功率を高めることができるが、このような侵襲的な仕方は、サンプルが最終的には胎盤になる細胞であっても、胚にストレスを与えることになる。どちらの場合にも確実な結果は見込めず、失敗率が約70%になることから、医師は母体の子宮に複数の胚を移植し、どれか一つが着床すればと期待することになる。しかし、これが厄介な問題を引き起こすことがある。

アルツハイマー患者を治療する薬剤の開発研究は、過去何十年かにわたり、世界中で熱心に行われてきた。診断に関しては大幅な進歩があり、この疾患をますます早く、また正確に見つけることができるようになったが、選ぶ薬剤となるとまだ限られている。脳にタンパク質が蓄積するのがアルツハイマーの特徴であり、慢性的に進行する脳細胞壊死に関わっているとされている。現在では、この疾患も、認知症徴候が現れるより前の最初期段階で発見できるようになってきた。このタンパク質の塊は、βセクレターゼとγセクレターゼという2つの酵素がアミロイド前駆体タンパク質 (APP) を三つの部分に切断してできる、βアミロイド・ペプチド (Aβ) という有害なタンパク質の破片が主要部分を占めている。もしβセクレターゼ、またはγセクレターゼが遮断されると、それ以上の有害Aβペプチドの生成も阻害される。そのため、生物医学的な研究は、医療的突破口としてこの2種の酵素を重点に進められてきた。しかし、これまでのところ、γセクレターゼを遮断する化学物質を用いた臨床研究の結果はそれほど芳しくない。問題は、この酵素が細胞の他の重要なプロセスにも関わっているということである。この酵素を阻害すると、消化管出血や皮膚がんなど激しい副作用を引き起こす結果になるのである。そこで、研究者は長年βセクレターゼにも注目して研究を進めてきた。

米国のある59歳の心臓病患者は、危険なほどコレステロール値が高く、しかもスタチン系薬剤ではほとんどコレステロール値を下げることができなかったが、UT Southwestern Medical Centerの研究グループの研究作業から生まれた新しい作用機序の薬剤のおかげで今では正常に近いコレステロール値に下がっている。昨年夏、PCSK9阻害薬と呼ばれるクラスの2種の薬剤が、コレステロール値の極端に高い患者向けの医薬として米食品医薬局 (FDA) の認可を受けた。UT SouthwesternでPreventive Cardiology ProgramのDirectorとInternal Medicineの准教授を務めるDr. Amit Khera (写真右) は、「リスクのもっとも高い典型的な症状の患者の治療を考えれば、この薬剤クラスがどれほど重要か理解できる」と述べている。ダラスでFrank’s Wrecker Serviceを経営し、6人の孫を持つFrank Brown氏 (写真左) は家族性高コレステロール血症を患っている。これはコレステロール、特に「悪玉コレステロール」の低比重リポタンパク質 (LDL) の高コレステロール値を引き起こす遺伝性疾患である。高LDLコレステロール値は、心疾患と強い関連がある。ブラウン氏は心臓発作を二度経験しており、コレステロール値を下げるために複数の薬剤投与を用いたかなり強力な治療を受けてきたが、値は頑固なほど下がる様子がなかった。

空腹感と満腹感の分子レベルの機序は代謝障害や肥満の問題を理解する上できわめて重要な手がかりになるが、研究者もまだ十分に解明できていない。しかし、Rockefeller Universityの新研究で、摂食を調節するシステムの重要な部分が明らかにされた。 

心臓が不調を来すと、身体がその状態を治そうとあらゆる手立てを講ずる。ところが時として、そのような補償メカニズムがむしろ益よりも害をもたらす結果になることがある。副腎ホルモンのアルドステロンでもそういうことが起きる。アルドステロンが心臓をさらに活発に動かそうと刺激する結果、心筋に与えるダメージがなおさら大きくなってしまうのである。最近、Temple University, Lewis Katz School of Medicine (LKSOM) の研究で、このプロセスを抑制する手段に一歩近づいた。この研究チームは、Gタンパク質共役受容体キナーゼ (GRKs) と呼ばれるシグナル分子がアルドステロンによる心臓障害に介在しているという思いがけないメカニズムを発見した。そのことにより、治療の前進に道を開いたといえる。

UCLAの研究チームは、液状サンプルに浮遊している細胞をその微妙な生化学的違いによって選別整理するセルソーティング方法を新しく開発した。この新しいセルソーティング技術は、現行のセルソーティング技術よりも迅速正確に細胞を選別し、単純かつ迅速な細胞分析自動化を可能にすると同時に、治療に用いる細胞と治療に用いない「汚染」細胞とを簡単に分離できるようにもなる。セルソーティング技術は、ライフサイエンス研究、診断、産業的な工程など幅広い分野で用いられている。たとえば、組織や培養器から前駆細胞や幹細胞を分離するのに用いられており、一旦分離した細胞は組織損傷の治癒やがん細胞攻撃のために患者の体内に戻す治療にあてられる。UCLAでは開発された磁気ラチェッティング・システムは、わずかに異なる細胞も分別し、治療に適した細胞のみをより分けることができる。

がんのもっとも一般的な治療法として放射線療法と化学療法がある。しかし、このどちらも副作用があり、健康な組織まで傷める。そればかりか、がんが体中に広がっている場合にはその効果も限られている。 

サン・アントニオのCancer Therapy & Research Center (CTRC) の研究グループは研究論文を発表し、正常な乳房組織におけるBRCA1遺伝子、通称「アンジェリーナジョリー遺伝子」の機能、およびその機能の欠失によって乳がん発症に至る機序をさらに深く解明している。米国国立がん研究所指定の総合がんセンターの一つ、CTRCは、テキサス大学サン・アントニオ校医学部の一部であり、サン・アントニオにおけるテキサス大学健康科学センター、医学部付属臨床診療機関である。BRCA1は、各細胞の遺伝的青写真を保管するDNAの損傷を修復することでがんを抑制する機能が知られている。このDNAの損傷は、加齢や環境的な影響によって起きる。

2016年4月19日付Human Reproduction誌オンライン版に掲載された研究論文によると、BRCA1遺伝子変異と、卵巣卵残存量を示すホルモン・レベルの低下との関連が突き止められた。同誌は世界をリードする生殖医療学術誌の一つとして知られている。この論文はオープンアクセス論文として掲載されており、「Anti-Mullerian Hormone Serum Concentrations of Women with Germline BRCA1 or BRCA2 Mutations (生殖細胞系列BRCA1またはBRCA2変異を持つ女性の血清中の抗ミューラー管ホルモン濃度)」と題されている。国際的な研究グループは、遺伝子変異を持った女性のBRCA1、BRCA2遺伝子変異と抗ミューラー管ホルモン (AMH) レベルを調べた初の大規模研究で、BRCA1変異を持つ女性は、BRCA1変異を持たない女性に比べるとAMHの濃度が平均25%低いことを発見した。BRCA2変異についてはそのような関係は見られなかった。

ロッテルダムで開かれた2016年 国際細胞外小胞学会 (ISEV) の全体会議では、講演者として予定されていた世界的に著名なウイルス学者のRobert Gallo, MDが、感染症で入院先のアメリカの病院から800人を超える参加者を前にビデオ録画で講演するという一幕があった。Dr. Galloは、ISEVの第二全体会議「最高峰から学ぶ:ウイルス対EV」において、もう一人の世界的なウイルス学者、Leonid Margolis, PhDとともに演壇に立つ予定だった。同じ全体会議には、University of Nebraska Medical Centerの教授、Shilpa Buch, PhDも講演した。Dr. Galloの科学的業績は数多く、また著名である。博士は、AIDSの病原体をHIVと突き止めた重要な研究を主導した上にHIV感染を判定する簡単な血液検査も開発した。この難病に対する戦いを前進させた功績は大きい。1980年から1990年にかけての時期、Dr. Galloの研究論文は引用回数が世界最多だったし、博士は、また、Lasker Awardを2度与えられた数少ない学者の一人でもある。それほど優れた業績を持つ科学者がISEV 2016年総会の参加者の前で講演することを望んだという事実一つをとっても、EV研究が重要性を持つようになったことが示されている。事実、Dr. Galloは、その発言の中で、EVについて、「新しい期待の持てる分野だ」、あるいは、「医学全体にインパクトを与える新しいコミュニケーションの方法だ」と語っている。さらに、博士は、彼自身のヒト・レトロウイルスに関する重要な研究について簡単に触れ、その研究が、レトロウイルスに似たところの多いEVを調べ、特徴付ける研究の指針になるかも知れないと考えたと語っている。

2016年5月4日、国際細胞外小胞学会 (ISEV) は、ロッテルダムにおいて、第5回年次総会 (ISEV 2016) を開き、全体会議ではがん研究分野の権威者2人がプレゼンテーションを行った。ハンブルク大学 エッペンドルフ メディカル センター, 腫瘍生物学教室の教授であり、Directorを務めるKlaus Pantel, MD, PhDが、「Liquid Biopsy in Cancer (がんの液体生検)」のテーマで語り、また、ニューヨーク市のワイルコーネル大学医学部で教授を務めるDavid Lyden (写真), MD, PhDは、「The Systemic Effects of Exosome-Mediated Metastasis (エキソソームが媒介する転移の全身的な影響)」のテーマで語った。2人の講演は、800人近い参加者が会場をぎっしりと埋めた。

University College London (UCL) が中心になって行った国際的な研究で白髪化の遺伝子が初めて突き止められ、この現象が単に環境的なものではなく、遺伝的な因子も持っていることが明らかになった。2016年3月付Nature Communicationsに掲載されたこの研究は、ラテン・アメリカ全体にわたって様々な民族の祖先を持つ6,000人強の人口を分析し、髪の色、白髪化、濃さ、直毛や縮毛の形状に関わる新しい遺伝子を探した。この研究論文は、「A Genome-Wide Association Scan in Admixed Latin Americans Identifies Loci Influencing Facial and Scalp Hair Features (民族混合ラテン・アメリカ人のゲノムワイド関連スキャンで顔の毛と頭髪の特徴を決める遺伝子座判明する)」と題されている。筆頭著者を務めたUCL Cell & Developmental BiologyのDr. Kaustubh Adhikariは、「禿頭化や髪色に関わっている遺伝子はすでにいくつか見つかっているが、人間の髪の形状や濃さに関わる遺伝子や白髪化に関わる遺伝子が発見されたのは初めてだ。これも、多様な民族のるつぼを分析したために可能になったことであり、これほどの規模での分析は過去にはなかったことだ。この研究の成果から人間の外見に対する遺伝子の影響について知見が深まれば、法医学の分野でも化粧品の分野でも様々な適用が考えられる」と述べている。また、法医学的なDNA技術の開発で個々人の遺伝子構成に基づいて視覚的なプロフィールを構築することができるようになるかも知れない。この分野の研究は、これまでヨーロッパ系住民のサンプルを用いてきた。しかし、この新しい研究成果をラテン・アメリカ、東アジアで法医学的な復顔法に役立てることができるかも知れない。

ミシガン大学(U-M)がこの度、連邦政府資金による細胞研究プロジェクトにおいて、細胞作製を司る団体として登録された。これはU-Mが導出した第二世代幹細胞株を対象とする。UM11-1PGDとして知られるこの細胞株は、提供された5日齢のroughly the size of the period at the end of this sentence胚から得た30個の細胞クラスターから導出された。 

ハダカデバネズミ (Heterocephalus gaber) の長寿とがんに対する抵抗力はよく知られているが、メクラデバネズミ (Spalax属) も、地中の酸素の乏しい環境に棲息しており、長寿でがんに対する抵抗力がある。新しい研究でSpalaxのがん抵抗力が実証され、さらに低酸素環境に適応したことが長寿とがん抵抗力を獲得する上で役立ったのではないかという仮説を立てている。 

University of California (UC), San Diegoの生物学者グループが未知の細胞メカニズムを発見した。このメカニズムにより、人間や動物はその発育過程で神経細胞の質を自動的にチェックし、適正に働くよう監視しているという。研究グループは、2013年9月4日付「Neuron」掲載の研究論文で、線虫Caenorhabditis elegansを使った研究により、ニューロンの「品質検査」システムを発見したと報告している。 

海洋藍藻は微細な海洋植物で、日光と二酸化炭素を使って酸素と有機炭素をつくり出し、生物地球化学的循環と栄養塩循環の原動力になっている。藍藻は、酸素を他の生物に供給するだけでなく、藍藻そのものが他の生物の栄養分になる海洋食物連鎖の底辺を形成している。MITの研究チームは、この微小な細胞群が非常に大きな役割を果たしていることを発見した。 

幸せな結婚と不幸な結婚を決めるのは何か - University of California (UC) BerkeleyとNorthwestern Universityの研究チームは、DNAに大きな決め手があることを突き止めた。遺伝、感情、結婚満足度の関係を調べたおそらく初めての研究の報告によれば、セロトニン調節にかかわる遺伝子で感情のあり方が人間関係にどれほど影響するかが決まるとしている。研究自体はUC Berkeleyで行われた。 

Houston Methodist Research Instituteの研究チームは、初段階の研究で血清バイオマーカー中の乳がん細胞検出に成功し、将来的には血液検査で乳がんの早期発見が可能になるだろうと発表した。同研究チームは血液検査による乳がん早期発見法の開発を行っている。 

従来の人間や動物の記憶保存の行動学的研究では、記憶保存をその時間的尺度によって明確に異なる2つの段階で分類している。一つはせいぜい分単位の短期的記憶で、一度の経験で生まれる。もう一つは何日も続く長期的記憶で、通常は繰り返し訓練しなければ形成されない。 

絶滅危惧種である中央アメリカの川ガメ(Dermatemys mawii) の保全に関わるスミソニアン研究所の科学者チームは、この川ガメの遺伝子研究に焦点を当ててきたが、この度、驚くべき結果を得た。メキシコ南部、ベリーズ、グアテマラに至る生息地の15地点・238匹の野生の個体から採取した小組織をサンプルとし、遺伝子構造の「驚くべき欠損」が明らかになり、Conservation Genetics誌オンライン版2011年5月17日付けに発表された。 

スミソニアンの科学者のグループは両生類に急速に伝染するツボカビ病がパナマのDarien地域近傍まで広がってきた事を確認した。この地域はツボカビ病が発生していない唯一の亜熱帯山岳地域であった。この事は絶滅の危機に瀕する20種類のカエルを救済する目的でパナマとアメリカの9つの機関によって結成されたパナマ両生類救済と保全プロジェクトにとって頭の痛いニュースである。ツボカビ病は世界中で両生類の生息数の急速な減少や絶滅を引き起こしてきた。 

NIHのEpigenome Roadmap Projectに参加していた大規模な研究機関合同研究チームが、2013年5月9日付「Cell」オンライン版で、ヒトの胚の発達初期に遺伝子がオン・オフされる仕組みを発表した。Ludwig Institute for Cancer Research のDr. Bing Ren、The Salk Institute for Biological Studies のDr. Joseph Ecker、Morgridge Institute for ResearchのDr. James Thomsonらが指導するこの研究チームは、これまで知られていなかった遺伝子の現象が胚の発生だけでなく、がんの発生にも重要なカギを握っていると述べている。 

UCLAとオーストラリアの生命科学者チームは、「脳の主要な学習中枢が損傷を受けると、複雑な新しい神経回路が現れ、損傷で失われた機能を補償する。この新しい代替回路創出に関わる脳の領域を突き止めた。この領域はしばしば損傷領域とはかけ離れた位置に現れる」と発表している。Dr. Michael FanselowとMoriel Zelikowsky氏が、シドニーのGarvan Institute of Medical Researchの神経科学研究プログラム・グループ・リーダーのDr. Bryce Visselと共同で行った研究の論文が、2013年5月15日付PNASオンライン版に掲載された。 

人間はまだカメから学ぶことがあるかも知れない。また、初めてカメのゲノム塩基配列を解析した科学者達は、カメの長寿の秘密や何か月も呼吸しないで生きられる能力に、人間に応用できる何らかの知識が得られるのではないかと考えている。このゲノム塩基配列解析を担当した研究チームは、「カメが酸素欠乏状態から心臓や脳を守るために持っている自然なメカニズムを解明すれば、将来、人間の心臓マヒや卒中の治療法改善の手がかりになるかも知れない」と述べている。 

最近の研究で、タイセイヨウサケと伝染性サケ貧血 (ISA) ウイルスとの間の相互作用がインフルエンザ様疾病、ISAの発症と伝染につながる仕組みが明らかにされている。この新発見は、2013年4月10日付のプレスリリースで発表されており、インフルエンザ研究一般にも応用できる可能性がある。ISAは1984年にノルウェーで初めて見つかり、今でも養殖水産業にとって深刻な脅威になっているが、養殖タイセイヨウサケの疾病としては、国際獣疫事務局に登録されている唯一の疾病である。 

がん死の90%は原発病変から体の他の部分に広がったがんが原因になっている。これを転移と呼んでおり、転移するがん細胞は周辺の細胞から離れ、組織を構成している足場からも離れて単一で移動しなければならない。MITのがん生物学研究チームは、この組織構造の細胞外基質と呼ばれるタンパク質ががん細胞の脱出を助けていることを突き止めた。 

University of Pennsylvania, Perelman School of Medicineの生理学教授を務めるRoberto Dominguez, Ph.D.は、「細胞の運動性は生命の基本原理であり、細胞はすべて運動能力がある」と述べている。運動性とはあくまでも細胞空間的な尺度であるが、傷の治癒、血液凝固、胎児の成長、神経結合、免疫反応その他様々な機能にとって必要な機能である。 

北カロライナ州チャペル・ヒル所在University of North Carolina (UNC) の研究者は、協力機関の科学者チームとの共同研究で初めてヒトの腸組織から成体幹細胞の分離に成功した。成体幹細胞の分離成功により、ヒトの幹細胞生物学上のメカニズムを正しく突き止めようと望んでいる科学者にとって待ち焦がれていた試料が手に入るようになる。そればかりか、炎症性腸疾患治療法や、腸の損傷を引き起こすことの多い化学療法や放射線療法の副作用緩和にも新しい方向からの取り組みが可能になる。 

これまで、急激に進行する血液のがん、B細胞急性リンパ性白血病 (ALL) にかかった成人には限られた治療法しかなかった。当初の化学療法の後で病気がぶり返すか、再発するのが通常だった。しばしばその段階で患者はそれ以上の化学療法を拒むようになるが、幹細胞移植も、通常疾患が緩解した場合にのみ有効であるため、このような患者には効果が期待できない。 

ある進行性膀胱がん患者が第I相試験でeverolimusとpazopanibとの抗がん薬の組み合わせに対して14か月にわたり完全な反応を示した。患者の腫瘍ゲノム・プロファイリング結果から2つの変異がこの特異な反応の原因となっていると考えられている。2014年3月13日付American Association for Cancer Research (AACR) 論文誌「Cancer Discovery」オンライン版にこの研究の論文が掲載されている。 

Johns Hopkins Children’s Center、University of Mississippi Medical Center、University of Massachusetts Medical Schoolの研究者チームが、「HIV感染乳幼児における、初の『機能的完治』症例」を発表した。研究者たちは、「この成果は、児童のHIV感染を根絶する手段を見つける手がかりになるかも知れない」と述べている。同症例の研究論文は、2013年3月3日、アメリカ合衆国ジョージア州アトランタ市で開かれた「第20回Conference on Retroviruses and Opportunistic Infections (CROI)」で発表された。 

典型的糖尿病自己抗体を持つようになる児童の腸内細菌の相互作用は、健康な児童のそれとは異なっている。児童の体内で血中の抗体が検出可能な水準まで発達するずっと前にこのような違いができているという事実は、微生物叢のDNA、いわゆるマイクロバイオームが宿主の自己免疫過程に関わっているのではないかという説を裏付けるものである。Helmholtz Zentrum Munchenの研究チームの論文が、専門家向け論文誌「Diabetes」2014年3月7日付オンライン版に掲載されている。 

中国で少なくとも9人が鳥インフルエンザで死亡しており、その患者から採取したサンプルの遺伝子解析の結果は、ウイルスが進化してヒト細胞に適応するようになったことを示しており、世界的なインフルエンザ大流行が起きる危険性が心配されている。国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センターの田代眞人博士、University of Wisconsin-Madisonと東京大学の河岡義裕博士が指揮するグループの共同研究論文が論文雑誌「Eurosurveillance」の2013年4月11日付に掲載された。 

卵細胞、精細胞などの生殖細胞は結合して幹細胞を形成し、この幹細胞は成長してどのような組織細胞にでもなることができる。ところで、生殖細胞はどのように発生するのだろうか? 人間は自分がつくり出す生殖細胞をすべて備えて生まれてくる。しかし、植物は少し事情が違う。植物は、まず成熟した成体細胞をつくり、その後に一部を卵細胞や精細胞にリプログラムする。 

過去のペトリ皿での実験から、がん細胞は三歩と直進できない酔っ払いのように体内をゆっくり、漫然と移動するものと考えられてきた。このパターンは「ランダム・ウォーク (酔歩)」と呼ばれ、2次元的な実験容器の中を移動する細胞には当てはまるかもしれないが、Johns Hopkins Universityの研究チームは、3次元的な体内を移動するがん細胞については「ランダム・ウォーク」モデルがあてはまらないという事実を発見した。 

University of North Carolina (UNC) School of Medicineの研究チームは、人体の健康の維持や疾患に重要な役割を果たしている特定の細胞レベルの回路について、これまでよりさらに深く探ることのできる生化学的な技術を新しく開発した。この技術は、Klaus Hahn, Ph.D.の研究室で開発され、2014年3月9日付Nature Chemical Biologyオンライン版で発表され、キナーゼと呼ばれるタンパク質が活性化し、細胞の移動など特定の細胞の挙動を引き起こす機序を研究する重要なツールになるとしている。 

健康な人が3年以内に軽度の認知障害またはアルツハイマー病を発症するリスクを90%の精度で予測できる血液検査法をGeorgetown University Medical Centerその他の組織の合同研究グループが発見、その有効性も確認した。2014年3月9日付Nature Medicineオンライン版に掲載された論文によると、アルツハイマー病は早めに処置するほど疾患の進行を遅らせたり、あるいは発症そのものを予防するなどの治療の効果が高まるが、この研究成果からアルツハイマー病の効果的な初期治療法を開発できる可能性を述べている。 

ウィスコンシン大学-マディソン校の研究者らはこの大学病院ならびにクリニックにおいて手術中に採取した副鼻洞組織を使って、ヒト・ライノウイルス(HRV)の中でも最近になって発見された新種のウイルスの培養育種を実施した。このHRVは、一般的な風邪において最もポピュラーな原因ウイルスであり、子供のHRV感染症全体の約半分に関与している。研究者は、このウイルスは他のHRVファミリーとは異なった生殖特性があることを発見した。 

2013年11月11日付で発表されたヒトと動物を対象にした研究の新しい報告論文で、経験が遺伝子に影響を与え、その遺伝子が行動や健康状態にも影響することを突き止めている。この研究論文は、Society for Neuroscience2013年次総会でもあり、脳科学と健康に関する世界最大のニュース源でもあるNeuroscience 2013 総会の場での記者会見で発表されたもので、経験が薬物中毒や記憶形成といった脳行動に長期的な変化をもたらす機序に光を当てている。 

日本で新しく開発された診断検査は、メタボローム解析と呼ばれるテクニックを用いており、安全簡単な検査法で早期発見を可能とするため、膵臓がん患者の予後を大きく改善することになるかもしれない。American Association for Cancer Researchの学術誌「Cancer Epidemiology, Biomarkers & Prevention」の2013年3月29日付オンライン版に掲載された研究報告によると、日本の研究者チームは、膵臓がん検診方法として、血清のメタボローム解析の有用性を試験した。 

ウェイル・コーネル医科大の研究チームは、肺再生のスイッチングの探究に大きな前進を得たと発表した。これによって何百万人もの呼吸器系疾患患者の治療に道が開けた。2011年10月28日のCell誌に発表された彼らの報告によると、肺の中で酸素交換が行なわれる 場所であり、非常に多くの小さなブドウの房のような液嚢状の肺胞を、新たに再生する誘因となる生化学的シグナルが明らかにされた。特に、その再生シグナルは、肺の血管内壁を覆う特殊な内皮細胞に起因する。マウスモデルの実験では、片方の肺を失った場合、もう片方の杯の容積が増加し広がる事がよく知られている。 

スウェーデンのランド大学とその共同研究施設の研究者達が、アルツハイマー治療におけるビタミンCの新たな効果を発見した。ビタミンCが、アルツハイマーの脳に蓄積される有害なタンパク質の凝集を分解する事が動物実験で分かったと、Journal of Biological Chemistry誌(2011年8月25日付)に発表された。アルツハイマー患者の脳にはアミロイドプラークと呼ばれる、ミスフォールドしたタンパク質の固まりが存在する。この固まりが脳内で神経細胞死をおこし、その際に最初に影響を受けるのが脳の記憶中枢の細胞である。 「私たちがアルツハイマーのマウスの脳の治療にビタミンCを使用したところ、有害なタンパク質の凝集が分解されました。この結果が出たおかげで、今まで理解されていなかったビタミンCのアミロイドプラークへの影響がわかってきました。」と、ランド大学分子医学科のカトリン・マーニ博士は言う。「さらに興味深いことに、使用されるビタミンCは新鮮なフルーツから採れるものでなくても大丈夫なのです。例えば、私達の研究では、冷蔵庫に一晩置かれていたジュースに含まれるデヒドロアスコルビン酸からも十分なビタミンCが得られます。」今現在、アルツハイマーの治療法は存在していないが、この研究は病気の進行を遅らせて、症状を緩和することが着眼点である。

microRNAの発現様式が、バレット食道が食道腺がんに移行する前がん症状の進行を検出する手がかりになるかも知れないという研究報告が、American Association for Cancer Research発行の学術誌「Cancer Prevention Research」の2013年3月号に掲載されている。テキサス州ヒューストンのUniversity of Texas MD Anderson Cancer Center、Division of Cancer Prevention and Population Sciences、Department of Epidemiologyの科長、Xifeng Wu, M.D.は、「アメリカでは、食道腺がんはかつては全食道がんの5%程度というまれながんだったが、過去30年で6倍と急激に増えており、現在では新しく食道がんと診断される症例の80%以上を占めるようになった。 

生物学のもっとも基礎的なプロセスの一つが「転写」と呼ばれるものだ。この「転写」は、タンパク質合成に必要な数多いプロセスの一つに過ぎないが、このプロセスがなければ生命も存在できない。しかし、転写の仕組みにはまだ未解明の部分が数多く残されている。サンフランシスコのGladstone Institutesの研究チームはこの転写の重要な部分に光を当て始めており、それとともに、細胞が成長発達する上で転写プロセスがどれほど重要か、またこのプロセスが脱線するとどういうことになるかの理解にさらに一歩近づいている。 

新しい研究で、去勢抵抗性前立腺がんの治療結果予想は、循環腫瘍細胞検出法を変更する方が、前立腺特異抗原 (PSA) 量の変化を見るよりも高い確度が得られることを示している。この研究は、2013年10月4日から6日にかけて、チェコ共和国のプラハで開催されたhttp://cem2013.uroweb.org/ EAU 13th Central European Meetingで発表され、賞を受けた。 

ドイツのBonn Universityの研究グループと国際的な共同研究チームが、新しい受容体を発見した。現代人類が持っているこの受容体は危険な侵入物を判定し、免疫反応を発揮するために重要な器官である。この有益な器官の青写真はネアンデルタール人の骨のゲノムからも見つかっており、その起源がうかがわれる。この受容体が初期の人類に風土病に対する免疫を与えた。 

University of California, San Diego (UCSD) School of Medicineの研究チームは、インフルエンザA型ウイルスが保護粘液層を突破し、呼吸器上皮細胞に感染、さらに上皮細胞から出て他の細胞に感染していく機序を初めて明らかにした。Department of Cellular and Molecular Medicineの准教授、Pascal Gagneux, Ph.D.が研究チームを率いたこの研究の論文は、Virology Journalのオンライン・オープン・アクセス版に掲載され、ウイルスの活動をさらに効果的に阻害する新しい医薬なり治療法なりへの方向性が示されており、あるいは一部の型のインフルエンザ感染を完全に予防できるようになる可能性も示している。 

Institut Gustave Roussy、Inserm、Institut Pasteur、INRA (French National Agronomic Research Institute) の研究者が共同で行った研究で、がん化学療法は、腸管微生物とも呼ばれる腸内細菌叢の助けを借りると単独の場合よりも優れた効果を現すという驚くべき結果が出た。実際、化学療法によく用いられている医薬の一つは、その効果が分子レベルで腸内細菌叢の特定の細菌を血流やリンパ節に送り込む能力によっていることが突き止められている。 

2013年9月18日付Journal of Neuroscienceに掲載された研究論文は、初めて、遺伝子NTRK3 (neurotrophic tyrosine kinase receptor type 3、trkCとも呼ばれる) をパニック障害傾向の因子と突き止めた。研究チームは、恐怖記憶の形成に関わる機序を明らかにしており、新薬や認知療法の開発に役立つことが考えられる。パニック障害は不安障害の一種に分類されており、推定では、スペイン国民の100人に5人がこの障害に悩んでいる。 

2014年2月4日 (火)、The National Institutes of Health (NIH) は、「Accelerating Medicines Partnership (AMP)」を発表した。これは、過去1年半をかけて「The Boston Consulting Group (BCG)」のガイダンスに従って編成した新しい形の官民共同研究パートナーシップである。AMPは、難治性疾患の生物学的解明に対して組織的な投資をするという初めての事業で、その構想の当初から業界、研究者、政府がパートナーとして協力して体制つくりにあたってきた。 

ミツバチの性決定の分子スイッチが徐々に環境に適応して進化してきた過程が、200年近く経てようやくアリゾナ州とヨーロッパの研究者によって明らかにされた。性決定の遺伝子的仕組みは1800年代中頃にシレジアの僧侶、Johann Dziersonによって初めて提唱されたが、今回の研究論文の共同著者を務めたArizona State University (ASU) のProvost Robert E. Page Jr. によれば、Dziersonはミツバチのコロニーでオスとメスがつくられる仕組みを理解しようとしたということである。 Dziersonは、女王バチも働きバチもメスであり、餌の質と量の違いによって、機能に違いができてくるということに気づいていた。同時に、オスはどうなるのかという疑問をいだいた。Dziersonは、ミツバチのオスを、染色体を1セットしか持っていない半数体と考えたが、1900年代になって顕微鏡の出現に伴い、その考えが正しいことが確認された。顕微鏡を使って観察した研究者は、雄バチになる卵には精子が侵入しないことに気づいたのである。しかし、この半倍数性性決定システムがどのようにして究極的に分子レベルで進化を遂げることができたのかという疑問は、発生遺伝学の分野で最も重要な疑問のひとつだった。

米National Institutes of Health (NIH) は、St. Joseph's Hospital and Medical CenterのBarrow Neurological Institute、Phoenix Children's Hospital、Translational Genomics Research Institute (TGen) (写真) の研究計画に対して今後5年間に400万ドルの研究資金を約束した。この研究計画は、脳損傷の程度を示す分子シグナルを見つけ、医療コストの軽減、脳損傷リスクのある患者を判定し、患者の速やかな快復に役立てようという試み。 

2014年1月12日付Nature Methodsオンライン版に掲載されたUniversity of Pennsylvania (Penn) 学際チームの研究論文は、生細胞のmRNAを生体組織の微小環境で周辺の細胞を損傷せずに分離する、この種のものとしては初めてのテクニックを発表している。このテクニックにより、細胞間の化学的接続が個別細胞機能や全体的なタンパク質生成に与える影響を解析することが可能になる。 

科学者が気候変動の影響を予測しているが、一つ、その中で見過ごされているのは、地球が温暖化した時、土壌中の炭素がどうなるのか、またこの炭素の動きを決めている土壌中の微生物はどうなるのかという問題である。オクラホマ州の草地の研究をした科学者チームが、土壌のすぐ上の気温が摂氏2度上昇しただけでも地中の微生物の生態系が大幅に変化することを突き止めた。 

数多くのがんタイプを横断的に調べた記念碑的な研究で、がん細胞変異の世界はこれまで考えられていた以上に膨大であることが示されている。Broad Instituteが中心になって行ったこの研究では、何千人もの患者の腫瘍のゲノムを解析し、新しいがん遺伝子を数多く発見、既知のがん関係遺伝子のリストが25%も拡大された。そればかりでなく、研究の結果、まだ突き止められていない主要遺伝子が数多くあることも推測されている。 

ワシントン州立大学(WSU)の研究により、40個以上もの植物由来の化合物が、ガンの進行を遅らせる遺伝子を活性化することが可能であることが判明した。ガンの転移こそが致命的であるため、今回の発見はとても励みになる、とWSU薬学部教授および学部長のゲリー・メドウズ博士は語る。さらに、食生活の改善、栄養学的アプローチ、そしてこの植物由来化学物質を合わせて、多くの道を開いているように見えると言う。 

タンパク質は、多くの機能を持つ、細胞の分子マシーンのようなものだ。分子材料の運搬、物質の切断やシグナルの伝達など、分子生物学の分野で長年研究対象となっている機能を有している。しかしこの20年新たに別の種類の重要な分子が注目されるようになってきた。それが、マイクロRNAを含む小サイズのRNAであり、現在では、マイクロRNAが細胞機能の制御に重要な役割を演じる事が明らかになっている。 

クリーブランド・クリニックの研究者達は、悪性脳腫瘍である悪性グリオーマの腫瘍成長に癌幹細胞が関与するパスウェイを発見した。7月8日にCell誌に発表された記事によると、現在使用されている治療薬は既にこのパスウェイに作用し腫瘍の成長を遅らせ腫瘍をブロックする効果がある事が動物実験により明らかである。致命的なケースが多い脳腫瘍に対し、新しい治療法の提供が可能となってきた。 

各種の攻撃手段を備えてがん細胞に侵入し、がん細胞を内側から粉砕する独特なナノスケール抗がん剤にさらに新しい攻撃手段が加わった。免疫系を刺激し、HER2陽性乳がん細胞を攻撃させるタンパク質がそれである。ロサンジェルスのCedars-Sinai Medical Center, Department of Neurosurgery, Maxine Dunitz Neurosurgical Institute, Nanomedicine Research Centerの科学者が率いる研究チームが医薬を開発し、人間の乳がん細胞を植え付けたマウスで研究を行った。 

日本の理化学研究所脳科学総合研究センター(理研BSI)の研究チームは、ユビキチン化タンパク質の凝集体を細胞から選択的に分解するメカニズムを発見した。この発見は、同様の凝集体の補足や除去がp62とよばれるタンパク質のリン酸化によって誘起されることを示し、ハンチントン病やアルツハイマー病などの神経変性疾患の治療に、新たな道を開くことを示唆する。細胞の最も重要な活動の一つは、タンパク質の生産である。 

アメリカドクトカゲの唾液が2型糖尿病用の大型新薬のきっかけになるかもしれないと誰が思ったであろうか。さらに、Magician's cone snail(イモガイ科ヤキイモ)、Saw-scaled viper(ノコギリヘビ)、Brazilian lancehead snake(ブラジリアンヒメハブ)、Southeastern pygmy rattlesnake(東部生息の小型ガラガラヘビ)の毒から慢性痛、心臓発作、高血圧、脳卒中の薬が得られるとは誰が思ったであろうか。これらはペプチドベースの新薬として登場可能な資源のごく一部である。 

ルー・ゲーリッグ病として知られている致命的な進行性神経疾患、筋萎縮性側索硬化症(ALS)のいくつかのケースが、新たに発見された特定の遺伝子における遺伝子変異と関連している、と研究者達によって発表された。研究チームはこの遺伝子における変異が神経細胞の構造および成長に影響を及ぼすことを発見し、ALSがどのように細胞を壊し、麻痺につながるのかについての考察を得た。研究結果は2012年7月15日付けのNature誌に掲載された。 

赤ワインや植物に含まれる化学成分であるレスベラトロルが有する健康増進に有効であるメカニズムが、米国NIHの研究チームによって明らかにされた。同チームが実証したのは、レスベラトロルが、老化に関与するタンパク質であるサーチュイン1を直接活性化しないものの、ホスホジエステラーゼ類(PDEs)と呼ばれる一連のタンパク質類を阻害するという事だ。PDEsは細胞のエネルギー授受に関与する酵素であるが、本発見によってレスベラトロルの生化学論議に決着がつき、レスベラトロルを利用した医薬品の開発に道が開けたということだ。この化学物質は、糖尿病や炎症や悪性腫瘍を治療する活性を有しているので、多くの製薬企業が注目してきた。 本研究結果は、2021年2月3日付けセル誌の記事に紹介された。「レスベラトロルは2型糖尿病、アルツハイマー、心疾患などの幅広い疾患に有効です。しかし、レスベラトロルを安全で有効な医薬品として開発する前に、それが細胞内でどのような機序を有しているかを理解する必要がありました。」とNIH国立心肺血液疾患研究所の肥満と老化研究センター長で、本研究を主宰するジェイ・H・チュン博士は語る。レスベラトロルがサーチュイン1を最初の標的とする、と示唆する報告もいくつか出ている。しかしチュン博士の研究チームは、AMPKと呼ばれるタンパク質が、レスベラトロルの活性化に必要である事を実証していたので、その考え方には懐疑的であった。本研究においては、レスベラトロル処理された細胞内の代謝活性が系統的に追跡解析され、薬効の観点からレスベラトロルが最初の標的とするのは、骨格筋に存在するPDE4であることが同定された。

オハイオ大学総合がんセンター・アーサー・G・ジェームスがん病院&リチャード・J・ソロブ研究所(OSUCCC-James)の研究チームが、タモキシフェン耐性乳がん細胞がどのように成長し増殖するのかを突き止めた。更には、タモキシフェン耐性乳がんを標的として治療する新たな治験薬も開発された。最初のドアが閉まってから次のドアが開くように、エストロゲンホルモンが活性化させる経路をタモキシフェンが阻害した後に、ヘッジホグ(Hhg)と呼ばれているシグナル経路が、乳がん細胞の成長を促進するのである。 

Nature誌Scientific Report 2012年8月30日オンライ版に掲載されたのは、ハイエナの群れの種類と、その臭い腺に生息する微生物の集団との間に、明白な相関関係があるという報告であり、主著はミシガン州立大学(MSU)ポスドク研究者であるケビン・セイス博士である。「すべての動物が行動範囲を決めるのに共通する重要な要素は、意思疎通のシステムにあります。そして群れ独自のバクテリア無しでは、十分なコミュニケーションが取れないのです。」と語るのは、MSUの動物学者であるケイ・ホールキャンプ博士と本研究の共著であるセイス博士である。 

サルモネラ菌は胃腸感染症の主要原因のひとつである。サルモネラ菌は、宿主の腸管上皮に存在するフリーの鉄分量に合わせて自らの病原性遺伝子の表現を調整する。バルセロナ自治大学(UAB)の研究者達は、病原体が白苔プロテイン(Fur protein)を介して病原性遺伝子を活性化させることを初めて証明した。この白苔プロテイン周囲の状況に合わせて鉄分量をチェックするセンサーの働きをする。 

メルボルンのサイエンティスト・チームが、免疫システムのなかに新しいタイプの細胞を発見した。新タイプの細胞(白血球の一種)は、感染症の予防において重要な役割を果たすT細胞ファミリーに属する。このグループの発見は、特定のタイプの感染性生物に対する免疫応答を強めることができた。それは最終的に新しい医薬品になる可能性がありうる。それと同時に、アレルギー、ガン、冠動脈疾患等を含む多くの重篤な疾患にとって重要な役割となる。 

UCLAの遺伝子研究チームが共同研究の成果として、幼児の発達を阻害する稀な疾患であるIMAGe症候群に関与する遺伝子変異を同定した。偶然だろうか?同じ遺伝子に生じる変異によって、ベックウィズ・ウィーデマン症候群が発症する。この疾患は細胞の成長のスピードが速すぎて、子供が大きくなり過ぎるというものなのだ。