イリノイ大学シカゴ校の研究者らは、アルツハイマー病のマウスで新しい神経細胞の生産を増やすと、この動物の記憶障害が回復することを発見した。2022年8月19日にJournal of Experimental Medicine(JEM)に掲載されたこの研究は、新しいニューロンが記憶を保存する神経回路に組み込まれ、その機能を正常に回復できることを示しており、ニューロンの生産を高めることがアルツハイマー病患者の治療戦略として有効である可能性を示唆している。このオープンアクセス論文は「神経新生の増強は、記憶を記憶する神経細胞を回復させる(Augmenting Neurogenesis Rescues Memory Impairments in Alzheimer's Disease by Restoring the Memory-Storing Neurons)」と題されている。
新しい神経細胞は、神経幹細胞から神経新生と呼ばれる過程を経て作られる。これまでの研究で、アルツハイマー病患者とアルツハイマー病に関連する遺伝子変異を持つ実験用マウスの両方で、特に記憶の獲得と回復に重要な海馬と呼ばれる脳の領域で神経新生が損なわれていることが示されている。
イリノイ大学シカゴ校医学部解剖学・細胞生物学教室のオルリー・ラザロフ教授は、「しかし、記憶形成における新しく形成されたニューロンの役割や、神経新生の欠陥がアルツハイマー病に伴う認知障害に寄与しているかどうかは不明だ」と述べている。
ラザロフ教授とその共同研究チームは、遺伝子工学的に神経幹細胞の生存率を高めることにより、アルツハイマー病マウスの神経新生を促進させた新しい研究をJEMで発表した。研究チームは、神経幹細胞の死滅に大きな役割を果たす遺伝子であるBaxを欠失させ、最終的に新しい神経細胞をより多く成熟させることに成功した。このようにして新生ニューロンの産生を増加させると、空間認識と文脈記憶を測定する2種類のテストで、マウスの成績が回復した。
研究チームは、記憶の獲得と回復の際に活性化するニューロンを蛍光標識することにより、健康なマウスの脳では、記憶の保存にかかわる神経回路には、古い成熟したニューロンとともに、新しく形成されたニューロンが多く含まれていることを突き止めた。アルツハイマー病マウスでは、これらの記憶を保存する回路に含まれる新生ニューロンの数が減少していたが、神経新生が増加すると、新生ニューロンの統合が回復した。
さらに、記憶を保存する回路を形成する神経細胞を分析したところ、神経新生を促進すると、記憶形成に重要であることが知られているシナプスの構造である樹状突起スパインの数も増加し、神経細胞の遺伝子発現のパターンが正常に回復することが判明した。
ラザロフ教授らは、アルツハイマー病マウスの脳内でニューロン新生を特異的に不活性化することにより、記憶形成に新生ニューロンが重要であることを確認した。この結果、神経新生を促進する効果が逆転し、マウスの記憶力が改善されなくなった。
ラザロフ教授は、「今回の研究は、海馬のニューロン新生の障害が、記憶形成に利用できる未熟なニューロンを減少させることにより、アルツハイマー病に伴う記憶障害に関与していることを初めて明らかにしたものだ。」「今回の結果を総合すると、神経新生を増強することは、アルツハイマー病患者において治療価値がある可能性が示唆された。」と述べている。
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今回の研究では、神経新生を高めることで、アルツハイマー病マウスの海馬において、記憶の保存や検索に関わる新しく形成される神経細胞(矢印)の数が増加することを明らかにした。
(Credit: © 2022 Mishra et al. Originally published in Journal of Experimental Medicine.)



