カリフォルニア大学サンフランシスコ校、ペンシルバニア大学、ミシガン大学が共同で行った研究によると、外傷性脳損傷(TBI:Traumatic Brain Injury)後24時間以内に行われる血液検査によって、どの患者が死亡し、どの患者が重度の障害を負いながら生存する可能性が高いか予測できることが報告された。この検査結果は数分以内に得られるため、迅速な外科的手術の必要性を確認したり、深刻な損傷を受けた場合に家族との会話の指針になる可能性がある。2つのタンパク質バイオマーカーを検出するこの検査は、軽度のTBI患者がCTスキャンを受けるべきかを判断するために使用することが、2018年に食品医薬品局によって承認された。これらのバイオマーカーであるGFAPとUCH-L1の高値は、死亡や重傷と相関していると、著者らは研究論文で述べている。
2022年8月10日にThe Lancet Neurologyに発表されたこの論文は「米国TRACK-TBIコホートにおける外傷性脳障害後の機能回復を予測するための受傷日血漿GFAPおよびUCH-L1濃度の予後価値:観察的コホート研究(Prognostic Value of Day-of-Injury Plasma GFAP and UCH-L1 Concentrations for Predicting Functional Recovery After Traumatic Brain Injury in Patients from the US TRACK-TBI Cohort: An Observational Cohort Study)」と題されている。
本研究の共同研究者であるUCSFのジェフリー・マンリー医学博士(脳神経外科教授兼副学長)は、これらの血液検査は「診断と予後の両方が可能」であり、また、管理が容易で迅速、かつ安価であると述べている。
本研究では、UCSFが主導する脳損傷研究イニシアチブであるTRACK-TBIの研究者が、ポータブル血液分析装置Abbott i-STAT AlinityとARCHITECTアッセイを用いて、TBI患者1696名の受傷当日の血液検査を調査した。これらの血液検査の結果は、TBI後の転帰を等級分けし障害のレベルを定量化するGlasgow Outcome Scale Extendedを用いて、患者の6カ月評価時に比較された。これらの転帰は、死亡(レベル1)から、場合によっては軽度の障害を伴うが通常の生活を再開できる完全回復(レベル8)までの範囲であった。
5人に1人が死亡または重度障害を負った
患者の約3分の2は男性で、平均年齢は39歳であった。主に交通事故や転倒による傷害で、18のレベル1外傷センターで評価を受けていた。受傷後6ヶ月の時点で、7%の患者は死亡し、14%の患者は植物状態から日常的なサポートを必要とする重度の障害までのレベル2から4の怪我で「好ましくない結果」であった。研究者らは、受傷当日の血液検査は6ヵ月後の死亡を予測する確率が高く、GFAPで87%、UCH-L1で89%、同じ時点の重度の障害を予測する確率が高く、GFAPとUCH-L1ともに86%であることを見いだした。しかし、不完全回復と完全回復の予測精度は、それぞれ62%と61%と、有意に低かった。
TRACK-TBIの研究責任者であり、UCSF Weill Institute for Neurosciencesのメンバーであるマンリー博士は、「このツールによって、臨床医は救命処置の開始や継続をより積極的に判断するようになると考えている」「現代の外傷治療は、かつては生存不可能な傷害と考えられていたものであっても、良好な結果をもたらすことができる」と述べている。
また、この血液検査は、大けがの場合に家族との話し合いの指針となり、「集団死傷者の状況下では、トリアージと資源配分に重要な役割を果たすかもしれない」と述べている。
本研究は、「受傷後6ヶ月の神経学的回復を予測するために、受傷当日に迅速に取得できる血液検査の精度について初めて報告したものだ」「過去にも予後に関する研究はあったが、限られた数の患者を対象としていたため、不正確な推定値になる可能性がある」と、筆頭著者であるミシガン大学救急医学准教授 フレデリック・コーリー医学博士は述べている。
血液検査の精度を高める予後予測モデル
研究者らは、2つの血液検査を一緒に行い、年齢、運動スコア、瞳孔反応性、CT特性などの変数を調べる予後モデルと組み合わせた場合に、転帰予測の精度が高まるかどうかを確かめようとした。その結果、重症および中等度のTBI患者では、死亡と重度の障害の予測精度がそれぞれ94%と89%に向上することがわかった。しかし、軽度のTBI患者では、完全回復と不完全回復を予測する確率は69%にしか上がらなかった。
CTおよびMRIで検出された構造的脳損傷は、軽度TBIにおける中等度および軽度の障害のリスクの独立した予測因子として報告されている、と共同研究者のペンシルバニア大学ペレルマン医学部神経学教授でペンシルバニア長老医療センター外傷性脳損傷臨床研究センター所長のラモン・ディアス・アラスティア医学博士は指摘する。
「GFAPやUCH-L1、CTスキャンによって測定される構造的脳損傷は、中等度や重度のTBIの予後不良を決定する上で優位な役割を果たすかもしれないが、軽度TBI後の予後不良に関連する損傷のメカニズムはまだ十分に理解されていない」とディアス・アラスティア博士は述べ、これらの知見を再現するには、さらなる研究が必要であることに言及した。
TBIは異質な疾患であり、TRACK-TBI研究のような「豊富で多様なデータセット」を必要とする」「TRACK-TBIの目的の一つは、TBI患者のより良い予後予測ツールを開発することであり、これにより回復軌道を予測し、治療オプションに情報を提供することができる」と、この研究に資金提供した国立神経疾患・脳卒中研究所の神経科学部門プログラムディレクターであるニシニ・ウモ博士は述べている。
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このCTスキャンは重篤な脳損傷を示す。簡単な血液検査で、患者が死亡するか、重い障害を負って生き延びるかをより正確に予測することができる。(画像提供:UCSF)
この論文は、UCSFのサイエンスライターであるスザンヌ・リー氏のニュースリリースから引用している。



