進行したメラノーマ患者において、脳転移は癌関連死の最も一般的な原因の一つであり、非常に頻繁に発生する。新しい免疫療法はメラノーマの脳転移を有する一部の患者に有効だが、メラノーマが脳に転移する理由や多くの治療法の奏効率が低いことについては、ほとんど分かっていなかった。このたび、コロンビア大学の研究者らは、メラノーマの脳転移巣内の細胞に関する最も包括的な研究を完了し、新世代の治療法の開発に拍車をかける可能性のある詳細な情報を公表した。
「脳転移は、メラノーマ患者において極めて一般的だが、その基礎となる生物学については、これまで初歩的な理解しか得られていなかった。我々の研究は、これらの腫瘍のゲノム、免疫学、空間構成について新たな洞察を与え、さらなる発見と治療法の探求の基礎となるものだ。」と、本研究を主導したコロンビア大学ヴァージロス内科大学助教授のベンジャミン・イザール医学博士は語っている。
この研究成果は、2022年7月7日、Cell誌のオンライン版に掲載された。この論文は「治療未経験のヒト黒色腫脳転移の生態系の分析(Dissecting the Treatment-Naive Ecosystem of Human Melanoma Brain Metastasis)」と題されている。


革新的な手法で、より深い分析が可能に

メラノーマの脳転移が現在の治療法を回避する理由を解明するために、イザール博士と彼のチームは、凍結脳サンプルの単一細胞遺伝子解析を行う新技術を発明する必要があった。
「このような研究は通常、新鮮な脳サンプルを用いて行われるが、サンプルが不足しているため、分析できる腫瘍の数が大幅に制限される。これに対し、我々は組織バンクに多くのメラノーマの凍結サンプルを保有している。この技術革新により、治療を受けていない患者の組織も分析できるようになり、治療によって変化する前の腫瘍とその微小環境の生物学を見ることができるようになった。」とイザール博士は説明している。

治療標的が明らかに

イザール博士らは、数十人のメラノーマ患者の転移腫瘍を用いて、10万個以上の個々の細胞で発現する遺伝子を解析した。
その結果、メラノーマの脳転移は、他の部位のメラノーマよりも染色体的に不安定であることが判明した。
「染色体不安定性は、大きな染色体断片の永続的な獲得と喪失だ。このプロセスは、細胞をより広がりやすくし、身体の免疫反応をより抑制しやすくするシグナル伝達経路を誘発する」と、イザール研究室の分子博士研究員でこの研究の第一著者の一人のヨハネス・C・メルムス医学博士は語っている。
これらの経路は、重要な治療ターゲットになる可能性がある。「染色体不安定性を抑制するいくつかの実験的薬剤が、間もなく人でテストされる予定だ。我々は、今、脳に転移したメラノーマ患者で、これらの薬剤を評価する根拠を得たのだ。」とメルムス博士は述べた。

免疫システムから隠れる

この研究チームは、メラノーマの脳転移が患者の免疫システムから隠れるために役立つと考えられる、他の2つの特徴も明らかにした。研究チームは、脳転移が腫瘍の微小環境における免疫細胞(特にマクロファージとT細胞)を、癌の増殖を促進するように変化させることを見い出した。そして、その細胞が脳内で神経細胞のような状態をとることを発見した。
「これらの変化は、腫瘍細胞が新しい環境に適応して生き残るのを助けると同時に、生じる免疫反応を回避している可能性がある」と、イザール研究室の計算機博士研究員でこの研究の筆頭著者の一人であるヤナ・ビアマン博士は述べている。

初の空間解析

研究チームは、CTスキャナーが3次元画像を作成するのと同じように、腫瘍の複数のスライスを解析してつなぎ合わせることにより、メラノーマ脳転移の空間的解析を初めて行うことができた。
「代謝経路や免疫経路の観点から、腫瘍間、さらには腫瘍内でも地理的なばらつきがあることが分かった。我々は、空間的変動についてどのように考えるべきか理解し始めたところだが、これが、新規治療に対して腫瘍が完全に反応する可能性を高める鍵となることは明らかだ。」とイザール博士は語っている。

[News release] [Cell abstract]

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