今回から中分子創薬の詳細について話すことにします。内容としては先ず多くの創薬研究者が思う、「中分子有機化合物は本当に医薬品になるのだろうか?」との疑問に対する話から始めて、創薬に応用可能な中分子のライブラリー、更に中分子が最も有効と考えられるプロテインープロテイン相互作用阻害剤における相互作用部位の解析手法、最後に総合的な創薬開発が期待される中分子創薬と今後の展望について話を進めたいと思います。 

随分、長い間ご無沙汰しておりすみませんでした。昨年に中分子創薬が話題になっているので詳しく説明しますと言いました。しかし、最近の日本の創薬企業はここの研究よりも各社の創薬研究の方向性をどの様にするかが最大のテーマになっていて、中分子創薬がこれから伸びますと話しても各社余り乗り気になってくれません。 

最近、プロテインープロテイン相互作用を阻害する中分子創薬が話題になっていますが、小職のところにも中分子創薬のセミナーをしてくださいとの依頼がありました。そこで、先日「中分子医薬品の基礎/最新動向を踏まえた創薬・開発の留意点」という題名でセミナーをしたところです。 

実際には遺伝子の変異やプロテインなどの分子の構成や感度のパターンの違いにより様々なタイプの患者がいることが最近わかってきています。そこで、病気に合った遺伝子診断やプロテイン診断などの科学的な診断を臨床現場に取り入れ、各疾患の状態に則して患者を層別し、層別データを元に個々の患者に最適な医薬品を提供することが個別化医療なので、現在市販されている全て医薬品を、動的バイオマーカーから解析された遺伝子やプロテインなどの診断マーカーを詳細に解析して患者を層別することで、現在市販されている全ての医薬品から患者にあった薬を的確に選ぶ必要があることを前回話しました。 

今回は最近盛んになっている抗体や免疫製剤における診断マーカーの重要性について話したいと思います。例えば夢の抗がん剤と言われた癌免疫治療薬のオブジーボでも、効果のある患者は2~3割であるが、診断マーカーが無いために7割強の効かない患者にも使用していて、健康保険財政を圧迫しています。更に、抗体薬で乳がんの特効薬と言われたハーセプチンも、診断マーカーはHAR2タンパクに陽性のチェックで陽性の場合に使用することになっていますが、陽性の患者の3割強は効かないことが報告されています。

 久しぶりですが、皆様良いお年をお迎え頂けたでしょうか?  今回は個別化医療と創薬に焦点を絞って話したいと思います。 

前回の最後で、次回は低分子・中分子創薬の今までの考えを変えるかも知れないAntibody-drug conjugate(ADC)製剤に関して説明しますと言って、その後中断して失礼いたしました。 低分子・中分子創薬の場合、ターゲットプロテインを用いた阻害物質のバインデングスクリーニングだと脂溶性の高い化合物が多く見つかり、殆どが体内動態の悪い化合物が多いと以前にお話ししました。 

どの様な薬でも人体では異物と判断し、必ず体外に排除する代謝機能が働きます。また抗体などの高分子化合物や免疫製剤などは体内防御機構が働き、抗原抗体反応や自己免疫疾患のような拒絶反応を引き起こした場合、異物と認識されて化合物は一切薬にすることが出来ません。この代謝機能と防御機構には個人差があります。 

ターゲットバリデーションより見つけられた創薬標的プロテインを用いて創薬リード化合物の探索(Screening)を行います。その場合低分子医薬か、抗体医薬か、プロテイン-プロテインインターラクション(PPI)を阻害するようなサイクリックペプタイドのような中分子医薬か、更に最近話題になっている免疫阻害剤のどのリード化合物を探索するかは、その標的プロテインの機能から判断する必要があります。 

疾患の動的ネットワークのプロテインープロテイン相互作用のシステム、すなわち、それぞれの疾患における臨床バイオマーカーの解明し、更にゲノムの情報や臨床検査に用いられている項目の値などを取り入れ、IT技術を用い総合的に判断することで、その疾患の患者さんの層別が出来ると考えています。 

標的疾患の臨床試料から抽出される「動的ネットワーク」を構成するタンパク質群に対する薬剤などのキネティックスが解析されれば、一気に疾患メカニズムと治療標的、候補薬剤の同定に迫ることが可能となります。 

東京大学生産技術研究所の会原幸一先生らは臨床バイオマーカーで正常(健康)状態と異常(疾病)状態の違いを定量的に示すことができるため、癌、心臓病、糖尿病などの診断において広く使われていますが、従来の静的バイオマーカーは、正常状態と疾病の早期状態や病態悪化の初期状態の違いをはっきり識別することが困難(なため)で、疾病の早期診断や病態悪化の予兆検出をするには有効ではないため、正常状態と病態の臨界状態、病態初期状態あるいは病態悪化の動的状態遷移過程をはっきり識別することが出来る動的ネットワークバイオマーカー(DNB:Dynamical Network Biomarker)を提案しています。 

前回述べたように現症診断にまだ多くを頼っている臨床の現場と、ゲノムから解析されたバイオメカニズムを用いターゲットを予想して科学的に開発された医薬品の間に、まだまだ大きな谷があって、そこを科学的に結びつけることがまだ十分でないためにその谷を埋めることが出来ないのが現状ではないでしょうか。 

それでは、本題の「創薬よ何処へ」に入りましょう。そこで初めは創薬研究現状と個別化医療などについて少し考えてみたいと思います。 近年創薬の分野は、以前から行われてきた低分子医薬、1990年後半から盛んに開発が行われ2000年初頭に製品化された抗体医薬、更にプロテイン-プロテインインターラクション(PPI)を阻害するようなサイクリックペプタイドのような中分子医薬や、ロシュ・ジェネンテックの抗がん剤のKadcylaのような抗体を用いた低分子医薬のドラッグデリバリーシステムであるAntibody-drug conjugate(ADC)分野、また最近話題になっている日本で小野製薬が発売した抗がん剤のオブジーボの様な免疫阻害剤の分野などと多種多様になり、そこから出てくる医薬候補品も多彩になっています。 

日本ロシュから鎌倉研究所に日本電子の質量分析装置のD-300が納入されるのでその日から出社して欲しいと連絡があり、昭和56年6月にD-300と一緒に入社することになりました。ただ、念願だったFABイオン化をD-300にどうしても付けたい思い、当時日本電子の営業担当だった栗原氏(現日本電子社長)にD-300に一番小さい電子顕微鏡の電子ガンを付けて欲しいとお願いしたら、栗原氏から「中山さん、それはFABイオン化をしたいのでしょうか?今日本電子の応用研究室で開発をしているので、2か月後に付けることが出来るので待ってください。」と言われました。 

はじめまして。バイオシス・テクノロジーズの中山登です。 もう中外製薬を退職して2年以上になりますが、未だに「ロシュ・中外の中山さん」とよく言われ、こちらの元の所属の方が皆さん良くご存知のようです。