中分子有機化合物の創薬への新たな利用法

中分子有機化合物の創薬への新たな利用法

サイエンス出版部 発行書籍

今回は中分子化合物をPPI阻害剤として利用する以外の、新たな利用法に関して少し説明します。以前の「プロテイン相互作用を阻害する中分子創薬が最近話題」のところで、「最近では中分子サイクリックペプタイドがPPI阻害剤の開発への利用だけでなく、低分子創薬への応用や、抗体薬やドラッグデリバリーにも利用できるのではないかとも考えられています。」と書きました。

 

更に、前回天然物の中分子化合物にサイクリックペプタイドやペプチドミメティック化合物多く含まれていることを説明している際に、動植物はそれらの中分子化合物の多くを生理活性物質として分子の立体構造変えながら利用していることを思い出しました。特にセファロスポリンなどのサイクリックペプタイドの一部分は体内動態の研究で、血液中では水酸基などの水溶性残基を分子の外に出して水溶性になり、目的のプロテインと相互作用する際には水溶性残基を分子の内側に入れて脂溶性を高めることが明らかになっています。この様な体内動態を示す中分子化合物は抗体薬やドラッグデリバリーにも利用できると考えられます。

中分子化合物の抗体薬やドラッグデリバリーの応用は、最近盛んにおこなわれるようになり、20015年から2017年に掛けて既に報告があります。

初めに中分子化合物を用いたドラッグデリバリーですがペプチドドリーム社が2017年の合成誌(K.Masuya, et.al.,J.Synth.Chem.,Jpn.75.1171)に報告しています。それによるとサイクリックペプタイドなどの中分子化合物は抗体と同じ様に目的の疾患細胞に集積する性能を持つ化合物が存在し、このような性能を持つ中分子化合物を利用することでAntibody-Drug Conjugate(ADC)と同様のドラッグデリバリーが可能となると言っています。これをペプチドドリーム社はPeptide-Drug Conjugate(PDC)と名付けています。PDCはADCと比較して、合成的にConjugateが作り易く、更に生成コストも安く出来ると言うことです。

著者: 中山 登
中山 登
このセクションは、(株)Spectro Decypher 取締役&CTO(元・中外製薬株式会社研究本部化学部分析グループ長)中山 登 氏による創薬研究コラムです。
長年、創薬研究に携わってこられた中山氏が、創薬研究の潮流についての雑感や、創薬研究者が直面している課題の解決法などを体験談を踏まえて語っていただきます。
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【中山 登 氏 ご略歴】
昭和48年3月 立命館大学理工学部卒業
昭和48年5月~
昭和56年4月 電気通信大学材料科学科、コロンビア大学化学部研究員
昭和56年6月 日本ロシュ株式会社研究所 入社
平成8年4月 日本ロシュ株式会社研究所天然物化学部、機器分析グループ長
平成16年10月 中外製薬株式会社研究本部化学部分析グループ長
平成21年4月 中外製薬株式会社 定年 シニア職
平成26年4月 中外製薬株式会社 退職
平成26年5月~現在 株式会社バイオシス・テクノロジーズ 取締役&チィーフ・テクニカル・オフサー(CTO)
平成27年4月~平成31年3月 聖マリアンナ医科大学分子病態情報研究講座講師
平成31年1月~現在 株式会社Spectro Decypher 取締役&チィーフ・テクニカル・オフサー(CTO)