日本ロシュから鎌倉研究所に日本電子の質量分析装置のD-300が納入されるのでその日から出社して欲しいと連絡があり、昭和56年6月にD-300と一緒に入社することになりました。ただ、念願だったFABイオン化をD-300にどうしても付けたい思い、当時日本電子の営業担当だった栗原氏(現日本電子社長)にD-300に一番小さい電子顕微鏡の電子ガンを付けて欲しいとお願いしたら、栗原氏から「中山さん、それはFABイオン化をしたいのでしょうか?今日本電子の応用研究室で開発をしているので、2か月後に付けることが出来るので待ってください。」と言われました。

 

そして2か月後に待望のFABイオン源をゲットすることができました。
その頃は日本ロシュ鎌倉研究所に分析のグループが無く、天然物や合成化合物の構造決定や薬物の分析は分析の素人が本や文献で勉強しながらやっているような状態でした。
そこで、最初の仕事は分析のグループを立ち上げることでした。

この様な出来立ての分析グループでしたがFABイオン源のおかげで天然物の構造決定では外部にも有名な先進的なグループになり、更に昭和59年ごろ2D-NMRで13C励起しプロトンディテクションで測定するC/H相関2D法(HMQC、HMBC)の文献が発表されました。
そこで昭和60年ごろ300MHz-NMRの導入と同時にHMQC、HMBCの測定を可能にし、東大応用微生物研究所と同時に世界に先駆けてHMQCとHMBC法を天然物の構造決定に応用することが出来ました。
この様に鎌倉研究所の天然物の構造決定の先進性と天然物(微生物やプラント)の豊富さがロシュ本社に認められ、平成元年ごろにロシュのグローバル天然物のスクリーニングセンターを鎌倉研究所に立ち上げることになりました。このスクリーニングセンターでは他社に先駆けてスクリーニングロボットを導入しハイスループット(HT)スクリーニングをおこないました。

この様な中で、平成8年ごろからHTスクリーニングで行うターゲットプロテインを用いたバインデングスクリーニングだと脂溶性の高い化合物が多く見つかり、殆どが体内動態の悪い化合物が多いことに気が付きました。更にその頃発達したX線解析を利用し、バインデング活性を上げると更に脂溶性が高くなりより体内動態は悪化する傾向があり、この問題で悩みだしました。

また、見つかったバインデング化合物はターゲットプロテインを活性化させるスイッチ機能を持つのが殆どで、その頃ファイザー社が発表した「このような機能の化合物は分子量が500以下の低分子化合物が良い」と言うファイザールールが一般的に用いられており、天然物には1000以上の中分子活性化合物が多く、それらは体内動態のよさそうな物も存在していましたが、全て対象化合物から除外していました。 この天然物の中分子化合物に関しては最近の創薬研究で再度見直すことが必要と考えているので、そのことは後の章で詳細を述べることにします。 更にこの頃からコンビナトリアル・ケミストリーによる化合物のロボット合成と大量の低分子化合物のライブラリーがHTスクリーニングに用いられるようになり、それに比べると天然物スクリーニングはスループットが悪いとのことで平成11年に鎌倉研究所のロシュ天然物スクリーニングセンターは閉鎖されることになりました。

このロシュ天然物スクリーニングセンターの閉鎖に伴い私たちの分析グループもダウンサイズをすることになり、その後分析グループをどのような方向にもっていくかを考え直さなければなりませんでした。そこで、HTスクリーニングを行っていたころ、ターゲットプロテインのバインデングスクリーニングで体内動態の悪い脂溶性化合物が多く見つかることがわかっていたし、更に1990年代まで開発を断念した薬物候補品の40%以上が体内動態の悪いことが原因である統計もありました。
これはそのころマウスなどの動物に直接薬物を投与して体内動態を見るのが一般的で、当時発展したMedicinal Chemistryの手法で大量に合成される薬物候補品に対応が出来ないことが最大の問題でありました。
そこで、その頃の鎌倉研究所はプロドラッグの研究も盛んで、直接動物を使わないVitroのAssay系を開発していましたので、このノウハウを利用しHT-ADME AssayとHT-代謝物の構造確認を立ち上げることをグループの方針にし、平成11年からスタートしました。

ロシュではこれをMulti Dimensional Optimization(MDO)と言って、ファイザーと競争する形でロボット化したIn-Vitro ADME Screeningとその微量サンプルを用いLC/MS/MNSで代謝物の構造決定をするシステムを確立しました。その結果このHT-ADME Assayの普及で2000年代には薬物動態で開発を断念する薬物候補品が10%以下となりました。 そして、平成16年10月にロシュと中外製薬がアライアンスを結び、中外製薬がロシュグループに入ることになりました。
しかし、日本では中外製薬で統一され日本ロシュは中外製薬に入ることになり、日本ロシュ鎌倉研究所も中外製薬の研究本部になりました。そこで、HT-ADME Assay、ScreeningやX線など蛋白質構造解析など創薬基礎技術を集約した、創薬基盤技術研究部を平成18年に立ち上げることに関与して、平成20年に中外製薬で創薬研究の一線から退くことになりました。
そこから、中外製薬を退職するまでの間感じていたことは、創薬研究を断念する大きな問題の薬物動態の悪さは解決したが、次は薬物の活性と副作用の動物と人間の種間差が大きな問題となってきており、年々Phase2からPhase3に行く薬物候補品がPhase2までは大幅に増えているが、Phase3に行くものの数は今までと変わらないとの報告があり、これはPhase2から3に行く開発候補品の%が年々悪くなっていることを意味しています。

私たちは人間の薬でなく動物薬を開発してしまっているのでしょうか?私はそうとも限らないと思っています。
それは、最近の創薬ターゲットがより選択的になっている中で、そこから得られた開発品をPhase3に持っていく際に、その開発品にあった患者さんたちを選んでPhase Studyを行う必要性があるのではないかと思うようになりました。この問題を解決するためには、臨床試料を用いた臨床プロテオーム解析することで、疾患バイオマーカーを見つけ、そこから創薬開発を考えて行くことが必要ではないかと考えました。

そこで、平成26年4月に中外製薬を退職すると同時に(株)バイオシス・テクノロジーズに入り、臨床プロテオームから創薬を目的に新しい研究をスタートして現在に至っています。 次回からは、この様な私の経歴を踏まえて私が創薬研究の今後をどのように考えているかを述べながら、皆様のご意見も取り入れて「創薬よ何処へ」をまとめていきたいと思います。

この記事の続きは会員限定です