臨床現場と医薬品開発との間の大きな谷をどうするか?


サイエンス出版部 発行書籍

前回述べたように現症診断にまだ多くを頼っている臨床の現場と、ゲノムから解析されたバイオメカニズムを用いターゲットを予想して科学的に開発された医薬品の間に、まだまだ大きな谷があって、そこを科学的に結びつけることがまだ十分でないためにその谷を埋めることが出来ないのが現状ではないでしょうか。   そのためには何が必要なのでしょうか?私は臨床の現場で起きている現症を分子レベルで解明することが非常に重要になっていると考えています。そのためには臨床試料を用いた臨床プロテオーム解析やメタポローム解析手法と最新の分析技術、更に最近のIT技術を応用したAIやマシンランニングの手法を総合的に活用して臨床現場で起きている現症を科学的に解明していくことが必要であると思うのです。 そこで、この点をはじめに臨床試料を用いた臨床プロテオーム解析から詳しく説明することにします。 その代表例としてアストラゼネカ社が上皮成長因子受容体(EGFR)チロシンキナーゼ阻害剤イレッサ(非小細胞肺癌治療薬)を合成・開発した際に、現在一緒に仕事をしている聖マリアンナ医科大学特任教授の西村先生たちは、臨床試料を用いるタンパク質発現・定量解析技術としての質量分析に基づく探索的プロテオミックス解析(MS-based discovery proteomics)手法を用いて、EGFRに変異がある人では受容体の形がイレッサと結合しやすい形になっているので、薬の効果が高まることを解明しました。 また、日本人などの東アジア人にEGFRの変異が多く認められる事を報告し、そのことがイレッサの医薬申請に大きく寄与しました。更に、臨床の現場でもEGFR(上皮成長因子受容体)遺伝子変異検査を行い、がん細胞を調べEGFR遺伝子に変異が起きている場合には、イレッサを投与するようになっています。 このように、疾患を起こしている機能分子はタン

著者: 中山 登
中山 登
このセクションは、(株)Spectro Decypher 取締役&CTO(元・中外製薬株式会社研究本部化学部分析グループ長)中山 登 氏による創薬研究コラムです。
長年、創薬研究に携わってこられた中山氏が、創薬研究の潮流についての雑感や、創薬研究者が直面している課題の解決法などを体験談を踏まえて語っていただきます。
全文を読むにはログインしてください。(登録無料)
中山氏へのご意見やご質問は各記事ページ下のコメント欄から投稿できます。
【中山 登 氏 ご略歴】
昭和48年3月 立命館大学理工学部卒業
昭和48年5月~
昭和56年4月 電気通信大学材料科学科、コロンビア大学化学部研究員
昭和56年6月 日本ロシュ株式会社研究所 入社
平成8年4月 日本ロシュ株式会社研究所天然物化学部、機器分析グループ長
平成16年10月 中外製薬株式会社研究本部化学部分析グループ長
平成21年4月 中外製薬株式会社 定年 シニア職
平成26年4月 中外製薬株式会社 退職
平成26年5月~現在 株式会社バイオシス・テクノロジーズ 取締役&チィーフ・テクニカル・オフサー(CTO)
平成27年4月~平成31年3月 聖マリアンナ医科大学分子病態情報研究講座講師
平成31年1月~現在 株式会社Spectro Decypher 取締役&チィーフ・テクニカル・オフサー(CTO)