中分子化合物の阻害対象はプロテインープロテイン相互作用部位であることは今までの話の中で何度か説明してきました。そこで、創薬にはプロテインープロテイン相互作用部位の解明が不可欠になります。プロテインープロテイン相互作用部位はシグナル伝達に関与している場は弱い相互作用であり、また機能に関与している場合は強い相互作用であると考えています。
その相互作用部位の解明には立体構造解析が必要です。しかし、立体構造解析に一般的に用いられるX線解析は、相互作用が弱い場合は結晶になりにくく、また相互作用が強い場合は分子量が大きい過ぎるためどちらかのプロテインの分子量を小さくする必要があり、相互作用部位の解明には不向きです。強い相互作用のプロテインープロテイン相互作用部位の解明には、最近クライオ電子顕微鏡が用いられることが多いようです。ところが中分子創薬の場合、シグナル伝達に関与しているプロテインープロテイン相互作用部位を創薬ターゲットにする場合が多く、その場合は相互作用が弱いので部位の解明にX線解析もクライオ電子顕微鏡も用いることが出来ません。
それでは、弱い相互作用部位の解明に関してどのようにしたら良いか話すことにします。以前に「探索的プロテインープロテイン相互作用の解明」の項目でプロテインの動的ネットワークの解明の際に相互作用部位の解明方法を少し話しましたが、今回は中分子創薬に絞って話します。
シグナル伝達に関与している弱いプロテインープロテイン相互作用部位の解明には、まず相互作用している両方のプロテインのX線解析が必要と考えています。しかし、シグナル伝達に関与しているプロテインの分子量が小さく、立体構造を持ないことが多く、その場合X線解析が不可能になるので、X線解析は薬のターゲットプロテインだけでも良いと考えています。

次に以前に説明したLC/MSを用いたHydrogen/Deuterium Exchange(HDX)法を利用して、ターゲットプロテインのDeuterium交換の結果と、ターゲットプロテインとリガンドプロテインでプロテインープロテイン相互作用をしている試料のDeuterium交換の結果を比較することで、ターゲットプロテインのどの部分にシグナル伝達のリガンドプロテインが付いているか解析します。しかしHDX法の場合はLC/MS実験の処理中にDeuteriumがプロトンに戻ってしまう可能性もあります。そこで、一昨年のASMSで発表されたDeuteriumでなくHydroxyl Radicalを用いてトラップする方法だと化学反応で付くので処理中に外れることがなく正確に測定できると考えられます。この方法の詳細と文献は上記の図に示します。但し、この方法は計時変化と付く位置の強さがわからない欠点もあります。そこで、この2つの方法を併用することでプロテインープロテイン相互作用部位の立体構造の推定がつくと考えられます。
更に、LC/MSを用いたProtein Cross-Linking Coupled法(下記の図参照)を用いるとターゲットプロテインとリガンドプロテインの相互作用をしているアミノ酸の位置をより正確に知ることが出来るので、より詳細なプロテインープロテイン相互作用部位の立体構造が明らかになると考えらます。

HDX法、Hydroxyl Radical法とProtein Cross-Linking Coupled法は、どの方法もX線解析やNMRのように相互作用部位を直接的に観測しているわけでなく、相互作用部位を間接的に見ています。そのため相互作用部位の位置の確認であれば、これらの三つの方法のどれかを一つを用いれば良いと考えられます。しかし、相互作用部位の立体構造の詳細な解析には三つの方法を用い、それらの結果を総合的に判断する必要があると考えています。
以上が中分子化合物の阻害対象のプロテインープロテイン相互作用部位の解析する方法に対する私の考えです。
それでは、次回はプロテインープロテイン相互作用を阻害する中分子化合物のドラッグスクリーニングについて話すことにしましょう。
