DNAを"切らない"エピゲノム編集ツール「NovaIscB」登場。より安全な治療へ

遺伝子を「編集」するのではなく、その音量を「調節」するだけ。そんな、より安全で新しい遺伝子治療の時代が近づいています。従来の遺伝子編集技術が持つ課題を克服する可能性を秘めた、画期的なツールが開発されました。MITとハーバード大学のブロード研究所、そしてハーバード大学医学大学院遺伝学部門の研究者たちが、次世代の遺伝子制御システム「NovaIscB」を発表しました。この研究は、遺伝子編集分野の第一人者であるフェン・チャン博士(Feng Zhang, PhD)のリーダーシップのもとで行われ、2025年5月7日付の『Nature Biotechnology』誌にオープンアクセス論文として掲載されました。 論文のタイトルは「Evolution-Guided Protein Design of IscB for Persistent Epigenome Editing in Vivo(生体内での持続的なエピゲノム編集のためのIscBの進化誘導型タンパク質設計)」です。 NovaIscBは、トランスポゼースやCRISPR関連酵素の祖先にあたるIscBという天然の細菌タンパク質から、進化的デザイン技術を用いて改良されたコンパクトなRNA誘導型ツールです。このツールの最大の特徴は、DNA二本鎖切断を引き起こすことなく、効率的かつ持続的にエピジェネティックな遺伝子サイレンシング(発現抑制)を可能にすることです。 DNAを切断して遺伝子機能を破壊または修正する従来のゲノム編集技術とは対照的に、NovaIscBはDNA配列そのものを変更せずに遺伝子の発現を調節します。これにより、ゲノムの不安定性やオフターゲット効果のリスクを低減し、より安全で制御しやすく、潜在的には可逆的なアプローチを提供します。このブレークスルーは、長期的な生体内応用(in vivo)に適した遺伝子制御ツールを創出す
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Edited by Michael D. O'Neill
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