ライム病細菌の遺伝子解析が新たな診断法や治療法の開発を後押し—国際共同研究が示す感染メカニズムの解明。
ライム病を引き起こす細菌の遺伝子解析により、診断法、治療法、さらには予防法の改善が期待されています。世界中から集められたライム病細菌の47種類の株の完全な遺伝情報を解析した結果、感染を引き起こす特定の細菌株を正確に特定できるリソースが構築されました。この研究は、米国ラトガース大学ニュージャージー医科大学のスティーブン・シュツァー教授(Steven Schutzer)ら国際共同研究チームによって行われ、2024年8月15日に学術誌mBioに発表されました。論文タイトルは「Natural Selection and Recombination at Host-Interacting Lipoprotein Loci Drive Genome Diversification of Lyme Disease and Related Bacteria(宿主相互作用リポタンパク質遺伝子座における自然選択と組換えがライム病および関連細菌のゲノム多様化を促進する)」です。
研究の概要と意義
本研究では、ライム病を引き起こす「ボレリア・ブルグドルフェリ感受性広義群」に属する23の既知種全てを含む47株のライム病細菌のゲノムを解析しました。解析された株の多くはこれまで全ゲノムが解明されておらず、特にヒトへの感染が確認されていない種も含まれています。
研究チームは、これらのゲノムを比較することで、ライム病細菌の進化の歴史を数百万年前に遡り、古代超大陸パンゲア分裂以前に起源を持つことを突き止めました。この起源が、現在の世界的な分布の背景にあることが示されています。
また、細菌が種内および種間でどのように遺伝情報を交換し進化しているかを解明しました。この遺伝情報の交換は「組換え」と呼ばれ、細菌が新しい環境に適応する能力を高め、病原性を維持または強化する重要なメカニズムです。研究者たちは、細菌ゲノム内で遺伝情報が最も頻繁に交換される「ホットスポット」を特定し、これらの領域が主にマダニとの相互作用や宿主動物への感染に関連する遺伝子で構成されていることを発見しました。
診断と治療の新たな可能性
本研究の結果は、ライム病細菌がどのように進化し、ヒトに感染する能力を獲得したかについての理解を深めるものであり、今後の診断法や治療法の開発に向けた重要な知見を提供します。シュツァー教授は「ライム病や関連細菌の包括的で高品質な配列解析は、臨床から公衆衛生、細菌生理学、医療ツール開発、さらには宿主—細菌相互作用の研究に至るまで、あらゆる研究プロジェクトに恩恵をもたらします」と述べています。
また、研究チームは解析結果をもとにウェブベースのソフトウェアツール(borreliabase.org)を開発し、他の研究者がボレリア属細菌のゲノムを比較し、ヒト感染の能力を持つ要因を特定することを可能にしました。
将来の展望
研究者たちは、現在の成果に基づいて、特にこれまで研究が進んでいない地域からのライム病細菌株の解析をさらに進める予定です。また、ヒトに感染する能力を持つ株に特異的な遺伝子の機能を明らかにすることで、新たな治療法のターゲットを見出すことを目指しています。気候変動などの要因によってライム病の発生地域が広がる中、この研究はライム病という公衆衛生上の脅威に対抗するための貴重なツールと知見を提供しています。
ラトガース大学、シティ・ユニバーシティ・オブ・ニューヨーク、メリーランド大学、ユタ大学など、複数の研究機関が協力して行われたこの研究は、ライム病だけでなく、他の感染症に対する研究にも応用できるフレームワークを提供しており、感染症の診断や治療法を改良するための新しいアプローチの基盤となります。



