University College London (UCL) が中心になって行った国際的な研究で白髪化の遺伝子が初めて突き止められ、この現象が単に環境的なものではなく、遺伝的な因子も持っていることが明らかになった。
2016年3月付Nature Communicationsに掲載されたこの研究は、ラテン・アメリカ全体にわたって様々な民族の祖先を持つ6,000人強の人口を分析し、髪の色、白髪化、濃さ、直毛や縮毛の形状に関わる新しい遺伝子を探した。
この研究論文は、「A Genome-Wide Association Scan in Admixed Latin Americans Identifies Loci Influencing Facial and Scalp Hair Features (民族混合ラテン・アメリカ人のゲノムワイド関連スキャンで顔の毛と頭髪の特徴を決める遺伝子座判明する)」と題されている。筆頭著者を務めたUCL Cell & Developmental BiologyのDr. Kaustubh Adhikariは、「禿頭化や髪色に関わっている遺伝子はすでにいくつか見つかっているが、人間の髪の形状や濃さに関わる遺伝子や白髪化に関わる遺伝子が発見されたのは初めてだ。これも、多様な民族のるつぼを分析したために可能になったことであり、これほどの規模での分析は過去にはなかったことだ。
この研究の成果から人間の外見に対する遺伝子の影響について知見が深まれば、法医学の分野でも化粧品の分野でも様々な適用が考えられる」と述べている。また、法医学的なDNA技術の開発で個々人の遺伝子構成に基づいて視覚的なプロフィールを構築することができるようになるかも知れない。この分野の研究は、これまでヨーロッパ系住民のサンプルを用いてきた。しかし、この新しい研究成果をラテン・アメリカ、東アジアで法医学的な復顔法に役立てることができるかも知れない。
白髪化に関わる遺伝子、IRF4は、髪色に関わっていることは知られていたが白髪化にも関わっているという発見は今回が初めてだった。この遺伝子は、髪、皮膚、眼の色を決めるメラニン色素の産生と保存の調節に関わっている。白髪化は毛髪からメラニン色素が失われることで起きるが、研究者達はIRF4がどのようにそのプロセスに関わっているのかを解明しようとしている。髪が成長する時にIRF4がどのように影響するのかを解明できれば、髪の毛が毛包で成長する際に白髪化を遅らせたり、阻害することで毛髪の外見を変えるという美容的な用途を開発することも可能だ。この研究を主導したUCL BiosciencesのAndres Ruiz-Linares教授は、「白髪化の遺伝的関連を初めてつかんだ。人間の加齢の生物学的理解を進める上で重要なモデルになることが考えられる。また、IRF4と白髪化の関連のメカニズムを理解すれば、白髪化を遅らせる方法を開発する上で役立つ可能性がある」と述べている。この研究では、University of BradfordのCentre for Skin Sciencesで、毛髪の縮れを決めるPRSS53という遺伝子についても調べた。University of BradfordのDesmond Tobin教授は、「不思議なほどにふさふさとした頭髪は人間の進化に尽きない謎を感じさせるし、セリン・プロテアーゼS1ファミリー・メンバー53 (PRSS53) 遺伝子の新しい変異体の発見で、頭髪の形状や風合いを調節する遺伝子を理解するための重要なヒントが与えられた。
成長する髪の繊維の形を決める毛包の中でのPRSS53酵素の機能と、東アジア民族やメリカ先住民族の直毛と関連づけられている新しい変異は、人類の進化の過程で髪の形が比較的新しい淘汰作用だったことを裏付けている」と述べている。研究チームは、他にも、ひげの濃さや髪の形状を決めるEDAR、眉毛の濃さを決めるFOXL2、一本眉の発生率を決めるPAX3など、毛髪に関連した遺伝子を見つけた。Dr. Adhikariは、「髪の特徴は、自然淘汰、あるいは性淘汰など何らかの形での淘汰を通して決まっていくものと考えられてきたが、ゲノムにその考えを裏付ける統計的な証拠を見つけた。私達の研究で突き止められた遺伝子は、白髪化や直毛、濃い眉などを単独で決めるものとは考えにくく、未発見の様々な因子と組み合わさって機能するようだ」と述べている。
研究チームは、ブラジル、コロンビア、チリ、メキシコ、ペルーで募集したCANDELA (Consortium for the Latin America) コホートから6,630人のボランティアを選んでサンプルを採取し、DNAを解析した。最初のスクリーニングの後、男子45%、女子55%、合計6,357人のサンプルを採用した。このグループの人種的内訳は、ヨーロッパ系混合 (48%)、アメリカ先住民族 (46%)、アフリカ系 (6%)となっており、頭髪の外見はかなりの違いが見られた。男女とも髪の形状、色、禿頭化、白髪化を判定したが、男子だけはひげ、一本眉、眉毛の太さなども検査した。外見の違いを生む遺伝子を突き止めるため、各個人の外見的特徴を全ゲノム解析結果と比較した。その結果を既存の各異種人口のデータと照合し、その違いがこれまでの知見と一致するか、また淘汰過程にあるかを調べた。
この研究に参加した研究機関は次の通り: UCL、Universidad de Oviedo (Spain)、Universidad Peruana Cayetano Heredia (Peru)、Universidad de Tarapaca (Chile)、University of Edinburgh (UK)、Centro Nacional Patagonico (Argentina)、National Institute of Anthropology and History (Mexico)、Universidad de Antioquia (Colombia)、UNAM (Mexico)、Universidade Federal do Rio Grande do Sul (Brazil)、University of Bradford (UK)、University of Melbourne (Australia)。
原著へのリンクは英語版をご覧ください
Gene for Graying Hair Identified
