2015年2月24日付でMIT News Officeが発表したプレスリリースで、MITの科学者グループがエボラ、黄熱病、デングの各ウイルスを検出判別する簡単な試験法を開発したと発表している。これは将来的に様々な実用用途が考えられる発明品である。エボラ患者を診断する時は一刻を争う状況になりがちである。しかし、現在ある診断検査法は結果が出るまでに1日か2日かかるため、医療担当者も患者が直ちに治療を必要としているか、また隔離が必要かなどを迅速に判断することができない。

 

MITの研究者が開発した新診断検査法はこのような問題を解決することができるかも知れない。妊娠検査に使われているような細長い紙切れでエボラ患者を短時間で診断できるだけでなく、黄熱病やデング熱など他のウイルス性出血熱も診断することができるからだ。MIT, Department of Mechanical Engineeringの客員研究員でMIT, Lincoln Laboratoryの技術スタッフも務めるDr. Kimberly Hamad-Schifferliは、「最近のエボラ大発生でも見たとおり、患者の症状は分かってもそれがどんな疾患なのかはっきりしない場合がある。そのため、患者の疾患を迅速に判別できる検査法の開発を希望していた」と述べている。MIT, Institute for Medical Engineering and Science (IMES) のDr. Hamad-Schifferliと、Hermann L.F. von Helmholtz Professorを務めるDr. Lee Gehrkeは、「Lab on a Chip」誌に掲載された研究論文の首席著者であり、論文で新しい検査器具について述べている。


論文は、2015年2月12日、「“Multicolored Silver Nanoparticles for Multiplexed Disease Diagnostics: Distinguishing Dengue, Yellow Fever, and Ebola Viruses」の表題でオンラインで発表された。論文の筆頭著者はIMESポスドクのDr. Chun-Wan Yenが務め、Dr. Hamad-Schifferli、Dr. Lee Gehrkeの他にもHelena de Puig大学院生、IMESポスドクのDr. Justina Tam、IMESインストラクターのDr. Jose Gomez-Marquez、客員研究員のDr. Irene Boschらが著者として名前を連ねている。

現在、エボラの診断には、エボラ・ウイルスの遺伝物質を検出できるPCRのような高度なテクニックを備えたラボに患者の血液サンプルを送って調べてもらうしかない。その検査法はかなり正確ではあるが、時間がかかり、エボラその他の熱病が風土病になっているアフリカの一部地域ではそのような技術を利用することも難しい。この新しい検査器具は、妊娠テストに用いられており、最近では連鎖球菌性咽頭炎その他の細菌感染診断にも用いられるようになっている「ラテラル・フロー技術」と呼ばれる方法をもとにしている。
しかし、これまで多色ナノ粒子を用いて複数の病原体を同時に検査するという「多重化」方法を試した者はいなかった。

新しい検査器具を開発するために4年前からDr. Hamad-Schifferliと共同で研究を進めていたDr. Gehrkeは、「西ナイル熱やエボラ、あるいはアルゼンチン出血熱、ハンタイウイルス症候群など発展途上国に特有の様々の出血熱ウイルスには短時間で判定できる診断法がまったくない」と述べている。
既存の紙片タイプの診断法はほとんどがたった一種の疾患しか検査できないが、MITが新しく開発した検査紙片はカラー・コード化されており、数種の疾患を判別することができる。研究チームはそのために三角形の銀のナノ粒子を用い、サイズによって異なる色づけをした。
3種類のナノ粒子はそれぞれ赤色がエボラ・ウイルス、橙色が黄熱病ウイルス、緑色がデング熱ウイルスを認識する抗体と結びつけてある。
患者の血清を紙片に沿って流すと、紙片に塗られた抗体と一致するウイルス・タンパクがそこで引っかかり、ナノ粒子が眼に見えるようになる。
この変化は肉眼で判定できるが、色盲の人の場合には携帯電話のカメラを使って色を識別することができる。

Dr. Hamad-Schifferliは、「患者の血清サンプルを紙片に流して、橙色の帯が現れれば黄熱病、赤色の帯が現れればエボラ、緑色の帯が現れればデング熱と判断できる」と述べている。この検査作業は約10分で終わるため、医療担当者が迅速にトリアージを行い、患者を隔離すべきかどうか判断して感染の拡大を防ぐことができる。

カナダのUniversity of Toronto Institute of Biomaterials and Biomedical Engineeringの准教授、Dr. Warren Chanは、「この検査器具は迅速な診断を可能にしているだけでなく、患者の血液サンプルもごく少量しか必要とせず、しかも1枚の試験紙片で複数の疾患を検出することができるということで感心している」と語っている。
さらに、この研究に関わっていないDr. Chanは、「現在の感染症検査に比べると一歩進んでいる。この診断検査法は現在世界各地で起きている感染症の蔓延に対応しており、複数の感染症を一度に検出できるという利点がある」としている。
研究者たちはその新しい検査器具をPCRなど既存の診断技術を補完する技術と想定している。

Harvard Medical SchoolのMicrobiology and Immunology教授も務めるDr. Gehrkeは、「もし、電気も特別な医療技術もない現場にいて、患者がエボラに感染しているかどうか知りたいとする。この検査法はすぐに結果を知ることができるため、患者を他のエボラにかかっていない人々と同じ待合室に入れる危険を冒さなくて済む。
公衆衛生の立場から言えば、患者処置の最初のトリアージが非常に重要になることがある。その後でPCRなり何なりのフォローアップで患者の診断を確認すればいいのだ」と述べている。

研究チームは、この検査器具のFDA認可を取得し、まだまだエボラ大発生が終わらない地域で使えるようになることを望んでいる。
そのため、現在すでにラボで組換えウイルス・タンパクと感染動物の血清サンプルを用いて器具の試験を進めている。
しかも、この検査器具は、銀のナノ粒子を異なる抗体に結びつけることで他のウイルス性出血熱その他の感染疾患の診断検査用に作り替えることができる。Dr. Gehrkeは、「ありがたいことにエボラ大流行も下火になってきている。それはいいことだ。
しかし、私たちは次に何が来るかを考えている。再びウイルス感染が大発生することには疑問の余地がない。次の大発生はスーダン・エボラ・ウイルスかもしれないし、その他の出血熱かも知れない。私たちの研究の目的は、次に必ず起きる感染症大発生に備えて必要な抗体を開発することだ」と述べている。

画像は、MITの研究チームが開発した、エボラ・ウイルス、黄熱病ウイルス、デング熱ウイルスを検出判別することのできる紙片型の新診断器具。この器具は異なる色の銀ナノ粒子が表面に付着しており、病原ウイルスの違いを異なる色で示すことができる。
左は未使用の器具で中身を示すために開封されている。右は診断検査に用いられた後の検査器具で色の帯がウイルス感染陽性を示す。(Credit: Jose Gomez-Marquez, Helena de Puig, and Chun-Wan Yen)。
この迅速診断検査器具を発表したMITのプレスリリースは、MIT News OfficeのAnne Trafton記者が著した。

■原著へのリンクは英語版をご覧ください: MIT Scientists Develop Field-Usable Device Enabling 10-Minute Test to Detect & Differentiate Ebola, Yellow Fever, and Dengue Fever Viruses

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