アルツハイマー病の実験薬で脳細胞のクリーニングが促進されることをマウスで確認

アルツハイマー病の実験薬で脳細胞のクリーニングが促進されることをマウスで確認

アルバート・アインシュタイン医科大学の研究者らは、アルツハイマー病のモデルマウスにおいて、アルツハイマー病の主要な症状を回復させる実験薬を設計した。この薬は、不要なタンパク質を消化して再利用することで、不要なタンパク質を取り除く細胞のクリーニングメカニズムを再活性化することで作用する。本研究は、2021年4月22日付のCell誌オンライン版に掲載された。この論文は、「シャペロンを介したオートファジーが神経細胞の転移性プロテオームの崩壊を防ぐ(Chaperone-Mediated Autophagy Prevents Collapse of the Neuronal Metastable Proteome)」と題されている。アインシュタイン大学の神経変性疾患研究のためのロバート&ルネ・ベルファー講座、発生・分子生物学教授、加齢研究所の共同ディレクターを務めている本研究の共同リーダーであるAna Maria Cuervo博士 (写真) は、「しかし、今回の研究で、マウスでアルツハイマー病の原因となる細胞クリーニングの低下が、アルツハイマー病の人にも起こることがわかり、我々の薬がヒトにも効く可能性を示唆していることに勇気づけられた。」と述べている。



Cuervo博士は、1990年代に、シャペロンを介したオートファジー(chaperone-mediated autophagy;CMA)と呼ばれるこの細胞クリーニングプロセスの存在を発見し、健康と病気におけるCMAの役割について200の論文を発表している。CMAは、加齢とともに機能が低下し、不要なタンパク質が不溶性の塊となって蓄積され、細胞にダメージを与える危険性が高まる。実際、アルツハイマー病をはじめとする神経変性疾患では、患者の脳内に有害なタンパク質の凝集体が存在することが特徴となっている。今回の論文では、CMAとアルツハイマー病の間には動的な相互作用があり、神経細胞でCMAが失われるとアルツハイマー病が発症し、逆にCMAが失われるとアルツハイマー病が発症することが明らかになった。この発見は、CMAを活性化させる薬剤が神経変性疾患の治療に希望を与えることを示唆している。


アルツハイマー型認知症とCMAの関係を明らかにする
Cuervo博士のチームはまず、CMAの障害がアルツハイマー病に寄与するかどうかを調べた。そのために、遺伝子操作により、CMAを欠損した興奮性の脳神経細胞を持つマウスを作成した。1種類の脳細胞でCMAが欠損するだけで、短期記憶の喪失や歩行障害など、アルツハイマー病のネズミモデルでよく見られる問題が生じた。さらに、CMAの欠失により、プロテオスタシス(細胞が含むタンパク質を制御する能力)が大きく損なわれていた。通常は可溶性のタンパク質が不溶性に変化し、毒性のある凝集体を形成する危険性があった。
Cuervo博士は、逆もまた真なり、すなわち、初期のアルツハイマー病がCMAを障害するのではないかと考えた。そこでCuervo博士らは、脳神経細胞でタウというタンパク質の異常なコピーが作られるようにした初期アルツハイマー病のマウスモデルを研究した。タウの異常なコピーは、アルツハイマー病の原因となる神経原線維のもつれを形成することが明らかになっている。研究チームは、記憶と学習に重要な脳領域である海馬の神経細胞におけるCMAの活動に注目した。その結果、海馬の神経細胞におけるCMAの活動は、対照動物のCMAの活動に比べて著しく低下していることがわかった。
では、初期のアルツハイマー病の場合はどうだろうか?CMAも阻害されるのだろうか?研究チームは、アルツハイマー病患者の脳から死後に採取した神経細胞と、比較対象となる健康な人の脳から採取した神経細胞のシングルセルRNAシーケンスデータを調べた。このデータから、患者の脳組織におけるCMAの活性レベルが明らかになった。案の定、アルツハイマー病の初期の人ではCMAの活性がやや抑制されており、その後、アルツハイマー病が進行した人の脳ではCMAの抑制が非常に大きくなっていた。
Cuervo博士は、「70歳、80歳になると、CMAの活動は若い頃に比べて30%程度低下するのが普通だ。ほとんどの人の脳は、この減少を補うことができる。しかし、これに神経変性疾患が加わると、脳神経細胞の正常なタンパク質構成に壊滅的な影響を及ぼす可能性がある。今回の研究では、CMAの欠損がアルツハイマー病の病態と相乗的に作用し、病気の進行を大きく加速させることがわかった」と述べている。

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Edited by Michael D. O'Neill

Michael D. O'Neill

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