スタンフォード医学部、AIを活用した糖尿病診断アルゴリズムを開発—2型糖尿病のサブタイプを特定

糖尿病は長らく1型(主に小児期発症)と2型(肥満と関連し、成人期に発症しやすい)の2種類に分類されてきました。しかし、2型糖尿病(Type 2 Diabetes)の患者には体重や発症年齢などの違いがあり、すべてが同じメカニズムで発症するわけではないことが明らかになっています。このたび、米・スタンフォード医学部(Stanford Medicine)の研究チームは、持続血糖モニター(Continuous Glucose Monitor, CGM)のデータを活用し、2型糖尿病の主要な4つのサブタイプのうち3つを識別できる人工知能(AI)アルゴリズムを開発しました。「このツールを使えば、糖尿病予備軍(prediabetes)の早期発見が可能になり、食事や運動の習慣を調整することで予防につなげることができます」と、本研究の共同責任著者であるマイケル・スナイダー博士(Michael Snyder, PhD)は述べています。本研究は、2024年12月23日にNature Biomedical Engineering誌に掲載されました。

論文タイトルは、「Prediction of Metabolic Subphenotypes of Type 2 Diabetes Via Continuous Glucose Monitoring and Machine Learning」(持続血糖モニタリングと機械学習による2型糖尿病の代謝サブフェノタイプの予測)」です。

 糖尿病の詳細分類がもたらす医療の進化

 米国では、約13%(約4000万人)が糖尿病と診断され、9800万人が糖尿病予備軍とされています。このため、より詳細な診断を提供できる技術は、糖尿病ケアを根本から変革する可能性を秘めています。

「2型糖尿病患者の大半は単に『2型』と診断されますが、実際には異なる生理学的メカニズムが関与しています」と、スタンフォード医学部の内分泌学教授トレイシー・マクラフリン博士(Tracey McLaughlin, MD)は述べています。

近年、2型糖尿病のサブ分類が進められており、これは心血管疾患、腎疾患、肝疾患、眼疾患などの合併症リスクの理解や、個々の患者に適した治療法の選択に役立つと考えられています。

「どのタイプの2型糖尿病かによって、効果的な薬が異なります」とマクラフリン博士は指摘します。「私たちの目標は、誰もが簡単にアクセスできるツールを開発し、自身の健康状態を理解し改善できるようにすることです」。

 

スナイダー博士の個人的な経験 

本技術は、スナイダー博士自身にも役立った可能性があります。彼は過去に糖尿病予備軍であると診断され、筋肉量を増やすことで血糖値を下げようと試みましたが、効果がありませんでした。

「私は伝統的なインスリン抵抗性ではなく、β細胞機能不全(beta-cell deficiency)による糖尿病だったため、運動による血糖コントロールがうまくいかなかったのです」とスナイダー博士は語ります。

この研究によって、糖尿病のサブタイプをより正確に診断し、適切な治療を選択できる可能性が高まります。

 

糖尿病の診断方法の限界と新技術の必要性

 現在の糖尿病診断は、血中のグルコース濃度の測定のみに基づいており、単純な血液検査で行われます。しかし、「高血糖の背景にある生理学的メカニズムを明らかにするには、より詳細な代謝テストが必要です。」とマクラフリン博士は指摘します。

 これまでの代謝テストは研究施設で行われてきましたが、手間がかかり高価であるため、臨床の現場で広く活用するのは困難でした。

一方で、持続血糖モニター(CGM)は市販されており、手軽に利用できるツールです。CGMを用いることで、高血糖の有無だけでなく、個人の代謝プロファイルをより詳細に把握することが可能になります。

 

インスリンの役割

インスリンは、膵臓で作られるホルモンで、血中のグルコースを細胞に取り込ませ、エネルギーとして利用させる働きを持ちます。

 

インスリンが十分に作られない(インスリン分泌不全)→ 血糖値が上昇

インスリンが効きにくい(インスリン抵抗性)→ 細胞がグルコースを取り込めず、血糖値が上昇

さらに、糖尿病はインスリンだけでなく、インクレチン(incretin)と呼ばれる腸ホルモンの異常や、肝臓のインスリン抵抗性も関与しています。これらの要因により、2型糖尿病の患者は異なる代謝パターンを持つことがわかってきました。

 

AIアルゴリズムによる糖尿病サブタイプの識別

マクラフリン博士とスナイダー博士は、持続血糖モニター(CGM)を活用し、糖尿病のサブタイプごとに異なる血糖変動パターンを検出できるかを検証しました。

このモニターは腕に装着し、リアルタイムで血糖値の上昇と下降を測定します。例えば、糖質を含む飲料を摂取すると、多くの人が血糖値の急上昇を示しますが、その上昇の仕方やパターンは個人によって異なります。

研究チームは、糖尿病予備軍21名と健康な33名、計54名の参加者を対象に、AIを活用したアルゴリズムを適用し、血糖値のピークや変動パターンを解析しました。

 「従来の血糖負荷試験(Oral Glucose Tolerance Test, OGTT)は数十年前から使われていますが、測定できる指標は限られています。しかし、CGMを用いれば、より詳細で個別化された代謝パターンを把握することができます」とマクラフリン博士は述べています。

 

アルゴリズムの精度検証 

研究では、CGMのデータを用いて、インスリン抵抗性(Insulin Resistance)やβ細胞機能不全(Beta-Cell Deficiency)といった代謝サブタイプを特定するアルゴリズムを開発しました。

このアルゴリズムは、従来の血糖負荷試験や他の代謝バイオマーカーと比較しても高い精度(約90%)でサブタイプを正しく識別できることが確認されました。

 

より多くの人々にアクセス可能な糖尿病診断技術へ 

この技術の利点は、糖尿病や糖尿病予備軍の人々に詳細な代謝データを提供するだけでなく、より幅広い健康管理にも活用できることです。

「たとえ糖尿病を発症しなくても、インスリン抵抗性があることを知ることは重要です。インスリン抵抗性は心疾患や脂肪肝疾患のリスク因子だからです。」とマクラフリン博士は説明します。

研究チームは今後、実際に2型糖尿病と診断された患者に対してこのアルゴリズムを適用し、その有効性をさらに検証する予定です。

さらに、この技術の広範な利用が、医療機関へのアクセスが困難な人々の健康管理を改善する手助けになることも期待されています。

「経済的な理由や地理的な問題で医療を受けるのが難しい人々にとって、この技術は非常に価値のあるツールになるでしょう。」とマクラフリン博士は語ります。

 

[News release] [Nature Biomedical Engineering article]

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