10月24日、ボストンで開かれていた American Society of Human Genetics (ASHG) の2013年総会で、大腸がんにおける遺伝子と食事の相互作用を確認したとする報告があった。この研究チームは、「赤身肉や加工肉の摂取で統計的に有意な大腸がんリスク増大のあることは知られているが、遺伝子と食事の相互作用の研究でこのリスク増大の機序が解明できる可能性がある」と述べている。
ASHGの総会で研究報告を行ったUniversity of Southern California, Keck School of Medicineの予防医学准教授を務めるJane Figueiredo, Ph.D.は、「大腸がんの原因としては、食事は改善可能な要因であるだけに、この研究が追試で確認されれば公衆衛生にとっても大きな意義がある」と述べている。NIHが出資する国際的な研究体制のGenetics and Epidemiology of Colorectal Cancer Consortium (GECCO) で共同研究を続けているDr. Figueiredoは、さらに「遺伝子プロファイリングによって大腸がんリスクの高い個人を選別し、スクリーニング、食事改善その他のがん予防対策を講じるようになることは十分に考えられる」と続けている。研究チームは、また、野菜、果物、繊維質食品摂取と大腸がんリスク低下の関係も遺伝子変異と関わっていることを突き止めた。
ワシントン州シアトル市所在のFred Hutchinson Cancer Research CenterのPublic Health Sciences Division所属で、この研究を指導したUlrike Peters, Ph.D., M.P.Hは、「個人の遺伝子変異が食事による大腸がんリスクを決めている可能性はこれまで徹底的に研究されたことはなかった。しかし、この研究成果が大腸がん発症について新たに重要な手がかりを与えてくれる」と述べている。Fred Hutchinson Cancer Research Center所属で、この研究の生物統計学担当主任のLi Hsu, Ph.D.は、「この研究は、大腸がん研究の分野で大規模な人口集団のゲノム全体にわたって遺伝子と食事の相互作用を統計的手法で解明しようとした初の試みだ」と述べている。研究の対象となったのは大腸がん患者9,287人と健康な9,117人で、全員がGECCOの10回の観察研究に参加した。
赤身肉や加工肉、果物、野菜などの摂取と関連づけられている遺伝子変異を同定するため、研究チームは270万に及ぶ遺伝子変異を組織的に検索した。研究参加者の遺伝子配列、病歴、食事などの情報はGECCOのデータベースにおさめられている。その結果、遺伝子変異rs4143094と加工肉摂取との間に有意な相関性のあることが見つかった。
この変異は、第10染色体中の、いくつかのがんとの関連が突き止められている転写因子、GATA3と同じ領域で見つかっている。通常この遺伝子でエンコードされた転写因子は免疫系に関わっている。第8染色体上でも、もう一つの遺伝子変異rs1269486に統計的に有意な食事・遺伝子相互作用が見つかっているが、この変異は、大腸がんリスクの低下とも関連づけられている。
特定の食品が遺伝子の活動に影響を与える機序はまだ突き止められてない。Dr. PetersとDr. Figueiredoは、加工肉の消化が免疫や炎症の反応を引き起こし、それが腫瘍発症を引き起こすのではないかと推測している。GATA3転写因子は、通常免疫や炎症の反応を抑制する働きがある。しかし、GATA3遺伝子領域に突然変異があれば、調節不全の転写因子をエンコードしてしまい、反応抑制ができなくなることも考えられる。
Dr. Petersは、「GECCOの研究は、大腸がんについて、遺伝子と食事の相互作用という新しい発見があった他、がんの根本原因と生物学的経路の解明に結びつきそうな重要な結果も出ている。私たちの研究では、生物学的にがんと関係のありそうな2箇所の遺伝子領域に注目している」と述べ、GATA3付近と8q23.3の変異について述べている。さらに、「この2つの遺伝子座は、そのゲノム上の位置を考えると生物学的に非常に興味深い重要なものかもしれない。今後も機能分析を続ける必要がある」と述べている。
GECCOの多研究機関合同研究チームは、すでに豊富なデータが揃っているヨーロッパの大腸がん患者の大コホートを対象とする独自の研究やColorectal Cancer Trans-disciplinary study (CORECT) コンソーシアムとの共同研究を通じて遺伝子と食事の間の相互作用の研究を続けている。Dr. Petersは、「GECCOは、遺伝子変異がバイオマーカーを含む環境やライフスタイル上の危険因子によってどのように変化を受けるか、またそれが患者の治療に対する反応や生存率にどう影響するかなどの研究を通じて大腸がん関連遺伝子変異をさらに解明していく方針だ」と述べている。
大腸がんは多因子的な疾患であり、ライフスタイル、環境、遺伝子など様々な要素が複合的に原因となっている。ゲノム全体で30個を超える大腸がんの感受性対立遺伝子の位置が突き止められている。その中にはリスクに大きく影響するまれな変異もあれば、ほとんどリスクのないありふれた変異もある。このBioQuick記事は主にASHGのプレスリリースに基づいている。このASHGは、8,000人近い世界の人類遺伝学専門家の第一級の専門家を会員とする組織であり、ASHGの年次総会は、人類遺伝学専門家の会議としては世界最大であり、この分野の著名な専門家の集まるフォーラムでもある。10月26日までボストンで開かれていたASHG年次総会には約6,700人の遺伝学専門家が出席した。
■原著へのリンクは英語版をご覧ください:Gene-Diet Interaction Study Identifies Significant Variants Associated with Diet-Related Risk of Colorectal Cancer



