「ジャンピング遺伝子」が加齢関連脳障害の原因か

「ジャンピング遺伝子」が加齢関連脳障害の原因か

加齢とともに身体的な影響が顕著になってくる。皮膚にはしわが増え、身体的な力を出すことが難しくなってくる。同時に眼につかない変化も進んでおり、たとえば、脳も加齢するにつれてそれまでとは異なる現象が進行し、それが加齢関連脳障害を引き起こす可能性もある。学術論文誌「Nature Neuroscience」の2013年4月7日付オンライン版に掲載された研究論文で、Cold Spring Harbor Laboratory (CSHL) のJoshua Dubnau 准教授と研究チームは、ショウジョウバエが加齢するにつれて、脳内のトランスポゾン、別名 「ジャンピング遺伝子」 の数が増え、また活動も盛んになることを突き止めた。


トランスポゾンは、1940年代のCSHLで、後にノーベル賞を受賞することになるBarbara McClintock教授がトウモロコシを対象に研究していた時に発見した物質で、トランスポゾンは一般的にはDNA塩基配列の反復であり、動物や植物のDNAの中に自分自身を挿入する能力がある。「ジャンピング遺伝子」という別名は、このトランスポゾンが活性化されると元の位置から離れてゲノムの他の位置に入り込む、つまり移動できるという性質に由来する。また、移動するとそこで異なる遺伝子機能を発揮するか、あるいは生殖細胞系の場合には特にあてはまることだが、致命的な破壊的結果になる可能性もあると推測されている。

ショウジョウバエの寿命は日数で数えることになっており、平均寿命は40日から50日程度である。このショウジョウバエを観察すれば、加齢、記憶などの脳機能の遺伝的現象を調べることができる。Dr. Dubnauのチームの研究で、Ago2 (アーゴノート2) と呼ばれるタンパク質の活動を阻害すると長期記憶も阻害されるという現象が観察され、それがDr. Dubnauの興味をひいた。その現象は臭いに対するパブロフ反射を用いて試験、確認している。Dr. Dubnauは、「これはショウジョウバエの体内で神経変性的な欠陥が起きると、それが加齢とともにさらに顕著になっていくということではないか」と述べている。

Ago2は、ショウジョウバエの体内でトランスポゾンの活動に対する防御に関わっていることが知られており、Dr. Dubnauや、Dr. Wanhe Li、Dr. Lisa Prazakら同僚研究者は、その働きを究明するためにはトランスポゾンの存在を確認することが重要だと考えた。トランスポゾンは、正常な脳の発達の間は活性化しているが、その後間もなく休眠状態に入る。そのことから、トランスポゾンが成長に何らかの役割を果たしていることが推測される。

Dr. Dubnauの研究チームはトランスポゾンを調べている際に、正常なショウジョウバエの21日目頃に脳細胞あるいはニューロン内のトランスポゾン量が急に増えることを突き止めた。また、その量は加齢とともに着実に増え続けることが明らかになった。このようなトランスポゾンは、特に「ジプシー」と呼ばれるタイプも含めて、非常に活動的でゲノム内のあちこちの位置を飛び回るのだった。しかもショウジョウバエのAgo2の発現をブロックすると、もっと早くからトランスポゾンが増え始めるのだった。しかも、Ago2の働きを止めた若いショウジョウバエのトランスポゾン量はもっと日齢の過ぎた正常なショウジョウバエのトランスポゾン量と同等で、しかも、日ごとにその量が増え続けていった。トランスポゾン量が増加するにつれて、もっと日齢の過ぎた正常なショウジョウバエに起きる長期記憶の欠損が現れ、同時に寿命もはるかに短くなっていた。

Dr. Dubnauの報告書は、「基本的にAgo2の機能を停止したショウジョウバエは20日を過ぎる頃には長期記憶をすっかりなくしており、正常なハエの場合には同じ日齢でも長期記憶は正常だった」と述べている。Dubnau研究室が、以前にCSHLのMolly Hammell准教授との協力で行った研究の論文で、トランスポゾンと、ALS (筋萎縮性側索硬化症、あるいはルー・ゲーリッグ病) やFTLD (前頭側頭葉変性症) など厳しい神経変性疾患との関連が確定されている。その場合も、共通するのはTDP-43というタンパクで、これがトランスポゾンの活動を制御することが示されている。Dr. Dubnauは、以前の研究論文と今回の論文に基づいて、加齢に伴う神経変性や一部の神経変性疾患などに見られる病理は「トランスポゾンの嵐」が原因ではないかとしている。ただし、Dr. Dubnauのこれまでの研究でも、トランスポゾンが加齢による脳欠陥の原因なのかあるいは逆に脳欠陥の結果なのかという疑問には答えていない。

Dr. Dubnauは、「次のステップは、ショウジョウバエを遺伝子操作することでトランスポゾンを活性化し、トランスポゾンが神経変性の直接の原因なのかどうかを調べることだ」と述べている。この研究には、CSHLの他、Stony Brook University、University of Zurich、Sorbonne大学が参加している。

■原著へのリンクは英語版をご覧ください:“Jumping Genes” May Contribute to Aging-Related Brain Defects

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Edited by Michael D. O'Neill

Michael D. O'Neill

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