ドイツ・ライプチヒにあるマックスプランク進化人類学研究所のスヴァンテ・ペーボ博士に率られる研究チームが、デニソバ人のゲノム変異の解析を行い、それが極めて低いことを明らかにした。これは即ち、デニソバ人が今ではアジア全体に広く分布しているにしても、昔はそれほど人口が多くなかった事を示唆している。更には、ゲノムの総目録から明らかなのは、遺伝子の変異は古代の祖先の時代ではなく現代人の世代に見受けられる事である。これらの変異の状況から推察されることは、それが脳機能や神経システムの発達に関係しているのではないかという事である。

 

2010年にペーボ博士と研究チームは、南シベリアのデニソバ洞窟から発見された指骨の欠片からDNAを単離して解析した。それは、それまで知られていなかった古代人の若い女性の骨である事が解り、「デニソバ人」と名付けられた。DNAの2重螺旋を容易に解く技術が開発されたおかげで、それぞれの2本をシーケンス解析に使用し、デニソバ人のゲノムを全箇所に渡って30回以上繰返しシーケンシングする事が出来た。これによって、解析されたゲノムシーケンスの正確さは、現代人のゲノムを解析する場合の精度と同等の品質のものが得られた。


サイエンス誌2012年8月30日付けオンライン版に発表された最新の研究では、ペーボ博士と研究チームは、デニソバ人のゲノムを、ネアンデルタール人及び世界各地から得た現代人11人のゲノムと比較検討した。その結果、前報にあるように、現在東南アジアの島々に住む人たちとデニソバ人のゲノムがどのように混合されたのかが再確認された。また、ヨーロッパ人と比較して、東アジアや南アメリカに住む人たちの方が、ネアンデルタール人のゲノムを若干多く含んでいることも明らかにされた。「東アジア地域で観察されるゲノムが、デニソバ人よりネアンデルタール人により近いという事は、古代のネアンデルタール人の人口は、ヨーロッパよりアジアの方が多かったと推測される。」と論文では述べられている。

「これは絶滅種族のゲノム情報を極めて高い精度で解析した結果です。ほとんどのゲノムは染色体2対の違いさえも解析が出来、デニソバ人の若い女性についても、両親から受け継いだ夫々について解析出来ました。」と本研究の筆頭著者であるマシアス・メイヤー博士は語る。つまり、この技術によって、当時のデニソバ人のゲノム変異の発生頻度は、現代人に受け継がれてからよりも低いことが解ったのだ。これを基に推定できることは、デニソバ人は当初は人口が少なかったが、その後、短期間のうちにより広い地域に広がったという事である。「今後、ネアンデルタール人の人口推移も同じような経緯を辿った事が明らかになれば、アフリカから発祥した単一集団が、デニソバ人とネアンデルタール人とに分かれていったと推察されます。」と本研究を率いるペーボ博士は語る。

研究チームは更に、デニソバ人から分かれた現代人に起こった比較的最近のゲノム変異が、10万個程度ある事を明らかにしている。そして、その変異のいくつかは、脳機能と神経システムの発達に関与するものである事も解っている。その他の変異で注目されるのは、皮膚や目や歯などの形態に関与するものである。「本研究によって、古代の人類は結果として人口が減ったり絶滅したりした一方で、現代人がどのように複雑な文化的多様性を保ちながら急速に人口を増やしてきたのかを明らかにする道が開けたと思います。」とペーボ博士は語る。

今年の初め、ライプチヒの研究チームは、デニソバ人の全ゲノムシーケンスを世界の研究者に、オンラインで公開した。デニソバ人の指の骨がロシアアカデミーのアナトリー・デレビアンコ氏とミカイル・シュンコフ氏によって発見されたのは、彼らがデニソバ洞窟を掘削している2008年の事であり、考古学的発掘調査によって、人類が生活していたのは遺跡の地層から、凡そ28万年前からである事が確認された。指の骨は、その発見された地層の年代から、5万年前から3万年前位であると推定される。

■原著へのリンクは英語版をご覧ください:Max Planck Researchers Describe Ancient Denisovan Genome

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