Massachusetts General Hospital (MGH) の研究チームががん診断のために開発した手持ちサイズの診断装置が、ヒト型結核菌 (TB) その他の主要感染細菌による感染の即時診断に利用されるようになった。「Nature Communications」と「Nature Nanotechnology」の2誌に掲載された2件の研究論文は、マイクロ流体技術と核磁気共鳴法 (NMR) を組み合わせた携帯装置は、このような重大な感染を診断するだけでなく、耐性菌株の存在まで判定することができると述べている。

 

この2件の論文の共同首席著者の一人でMGH Center for Systems Biology (CSB) 所長を務めるRalph Weissleder, M.D., Ph.D.は、「迅速に感染の病原菌を突き止めると同時に耐性菌の存在を見極めることは、病気の診断だけでなく患者に投与する抗生物質を選ぶ上でも重要なことだ。この論文で述べている方法では、この2つのテストが2時間ないし3時間で完了する。従来の標準的な病原菌培養検査では診断するまでに2週間程度はかかっていたから大きな進歩と言える」と述べている。


これ以前に、MCH CSBの研究者は、患者の血液や微細な組織サンプルでがんバイオマーカーを検出することのできる携帯装置を開発していた。この装置は、ターゲットとなる細胞や分子をまず磁気ナノ微粒子でラベル付けした上で、ターゲットのレベルを検出・定量化するマイクロNMRシステムを通して測定するという手順を取っている。ところが、当初はこの装置で特定の細菌を正確に検出するために抗体を検出するという方法を取ったところ、肝心の抗体を見つけることができなかったため、研究チームは特定の核酸配列をターゲットとする方法に切り替えた。

2013年4月23日付でオンライン版「Nature Communications」に掲載された研究論文に述べられている装置は、喀痰サンプルから結核菌のDNAを検出した。その実験では、サンプルからDNAを分離した後、サンプルに含まれているターゲットの配列をすべて標準的手法で増幅し、相補的核酸配列を含んだポリマー・ビーズで取り込み、ターゲットDNAの他の部分に結合した配列の磁気ナノ粒子でラベル付けした。この装置には、ラボ用の標準スライド大のミニアチュアNMRコイルが組み込まれており、サンプル中の結核菌DNAをすべて検出することができる。

TBに感染していることが判明している患者グループから採取したサンプルと、健康な対照グループから採取したサンプルを用いて装置を試験した結果、3時間以内にポジティブのサンプルをすべて正しく判定し、ネガティブのサンプルを誤ってポジティブとすることもなかった。従来の診断手順では、結果が出るまでに何週間もかかり、しかも感染患者の判定も40%程度の誤差がある。また、TBとHIVの双方に感染している患者の場合には誤差がもっと大きくなる。これは双方の病原体に感染することで、結核菌の量が増えることによるものと考えられる。それに比べて、同研究チームが開発した特殊核酸プローブは、耐性菌種まで判定することができた。

2013年5月5日付でオンライン版「Nature Nanotechnology」に掲載された研究論文は、すでに細菌バイオマーカーとして用いられているリボソームRNA (rRNA) をナノ微粒子ラベリングのターゲットとして用いた類似の装置について記述している。研究チームは、rRNAの中で多くの細菌種に共通する部分を検出するユニバーサルな核酸プローブを開発し、その他に肺炎連鎖球菌、大腸菌、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 (MRSA) など、臨床的に重要な病原体13種類に特有の塩基配列をターゲットにしたプローブのセットも用意した。この装置は、血液サンプル10ミリリットル中の細菌数が1つか2つでも検出するほどの感度があり、細菌量を正確に推定することができる。感染が明らかな患者から採取した血液サンプルを用いて試験した結果、2時間以内にその特定細菌種を正確に判定し、標準培地法では検出されなかった2種の細菌種を検出した。

いずれの装置も、汚染のリスクを減らすためには、すべての操作を完全に密閉したスタンダローン型の装置にまとめなければならないが、Dr. Weisslederは、「装置はどちらも小型で使いやすいことから、発展途上国での使用に最適だ」として、さらに、「この病原体検出には磁気相互作用を利用しており、非常に信頼性が高く、サンプルの質に左右されない、ということはサンプルを極端に精製する必要がなく、使える資材が限られている地域での使用に理想的といえる。また、TBを短時間で診断できるため、TB検査と治療方法の判断が一回の来診で済ませられ、発展途上国でTBの伝播を防ぐために重要な役割を果たす可能性もある。

2つの研究論文の共同筆頭著者、MGH CSBのHakho Lee, Ph.D.は、「この装置は先進国でも重要な用途がある。この装置は細菌の種を判定するだけでなく、耐性菌かどうかなど他の特性も判定することができるため、医師は、患者に初めから正しい薬を処方することができ、治療抵抗性のある菌種の出現を抑えることができる。また、この装置がごく一滴のサンプルで検査できるという特長は、小児や高齢者のようにサンプルを取ることが難しい場合には特にその実力を発揮する」と語っている。

写真キャプション: 携帯診断装置の写真画像。(画像はMGH CSB提供)

■原著へのリンクは英語版をご覧ください:Portable Device Provides Rapid, Accurate Diagnosis of TB, Other Bacterial Infections

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