遺伝性の前立腺がんリスクに関与する変異をついに発見
若年期の男性に発症し、家系に遺伝する前立腺がんの遺伝因子について、20年来研究されてきたが、遂にこの疾患リスクが非常に高くなる、珍しい遺伝性の遺伝子変異が発見された。この発見は、ジョン・ホプキンス大学医学部とミシガン大学(U-M)ヘルス・システム研究所の研究チームによって、2012年1月12日付けのニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン誌に発表された。発表によると、この変異を有する男性は、前立腺がんを発症するリスクが変異の無い男性に比べて10倍から20倍も高いと考えられる。前立腺がんの症例全体から見れば、この遺伝子変異のケースは一部に過ぎないが、健康診断項目に追加するか早期スクリーニングを実施することにより、この変異に依拠する高いリスクグループを発見できるメリットがある。
今年もアメリカでは24万人が、新たに前立腺がんと診断されると見込まれている。「遺伝性の前立腺がんに関与する遺伝子変異としては、今回の発見が初めてです。」とU-M医学部の内科学と泌尿器学の教授で、本論文の上級共同著者の一人であるキャスリーン・A・クーニー博士は語る。もう一人の上級著者で、ジョン・ホプキンス大学医学部泌尿器学と腫瘍学の教授であるウィリアム・B・アイザックス博士は付け加えて、「これは私たちが20年来、追いかけてきたものなのです。前立腺がんが家族性であることは、随分以前から分かっていました。しかし遺伝に関与する隠れた遺伝子をピンポイントで同定することは大変困難で、これまでの多くの研究結果は矛盾が多く、不十分でした。」と語る。この研究は、アリゾナ州フェニックスのトランスレーショナル・ゲノム研究所(TGen)のジョン・カープテン博士との共同研究体制のもと、ヒト染色体の17q21-22領域として知られる部分の200個を超えるDNAの配列を、最新の技術で解析することによって行なわれた。U-M前立腺がんゲノム研究プロジェクトにおいて、ノースカロライナ大学のエタン・レーンジ博士と共同で、この17q21-22領域を研究ターゲットとして発見したのは、クーニー博士である。
研究チームは、U-Mとジョン・ホプキンス大学の臨床研究に参加していた94家族に属する、前立腺がんに罹病した最も若い年代層からサンプリングを開始した。どの家族も、親子や兄弟などの近親に複数の前立腺患者を持っていた。そのうち4家族のメンバーには、HOXB13遺伝子に同様の変異が観察されたが、この遺伝子は胎児期と成長後における、前立腺の生育に重要な働きを有する。この4家族のメンバーで前立腺がんを発症している18人全員から、この遺伝子の変異が観察された。ウェイク・フォレスト大学のシャンフェン・シュー博士とリリー・チェン博士との協力の下、ジョン・ホプキンス大学もしくはU-Mで前立腺がんの治療を受けた5,100人の男性から、HOXB13遺伝子に同様の変異を有するケースを探索した。その結果、1.4%=72人に同様の変異が見つかった。そして、彼らの一親等親族、即ち兄弟や親子においては少なくとも一人以上が、前立腺がんを発症していた。前立腺がんではない1,400人の男性を対照例として検査した結果、同様の変異を有する例は、僅か1件のみであった。
更に、研究チームは、その研究に参加している若年層の患者と、家族性のがん患者について検討を行なった。「この遺伝子変異は、家族性のがん患者には顕著に見受けられ、また、家族性で無い場合は、55歳以降に発症したケースに比べて、それ以下の若年期に発症したケースに、顕著に見受けられます。その違いは、3.1% 対 0.62%となっています。」とクーニー博士は説明する。「このような結果は過去には見たことがありません。一つの変異が、家族性がんの遺伝性の原因の一つとなっているのです。」と共著者で、ジョン・ホプキンス大学の泌尿器学教授であるパトリック・ウォルシュ博士は語る。ウォルシュ博士は前立腺がんの治療法を確立した先駆者として有名である。同博士は1980年代に、近親に前立腺がん患者がいる場合は、前立腺がんを発症するリスクが高いことを、最初に立証した研究グループの一人でもある。研究チームは、家族性前立腺がんの遺伝子検査の実施が出来るようになって、女性がBRCA1とBRCA2遺伝子の変異を検査することで乳がんや卵巣がんのリスクを予見しているような状況が、近い将来可能になると考えている。
「この変異の研究を続け、もっと多くの症例にアプライ必要があります。次の課題は、マウスモデルを構築して、この変異が前立腺がんの原因であるかどうかの検討を行なうことです。」とアイザックス博士は説明する。更に付け加えて、「DNA配列解析の技術が進めば、家族性前立腺がんのリスクに直接関与するような、更なる希少な変異を見つけることが出来るでしょう。」と語る。この特異的変異は、ヨーロッパ系家族の系統から発見されており、アフリカ系家族の系統からはHOXB13遺伝子に2種類の変異が見つかっている。アフリカ系家族の症例数は94家族中7家族でしかなく、正確な変異挙動を調べるには、もっと症例数を増やさねばならない。アフリカ系アメリカ人の場合は、より若年期に前立腺がんを発症し、予後も悪い傾向にある。クーニー博士は、前立腺がんの健康診断における、家族性の前立腺がんのケースの発見は、これまでと違って行ないやすくなると考えている。
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生命科学雑誌バイオクイックニュース: 2024年8月号
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