老化のトランスポゾン原因説を裏付ける新研究

老化のトランスポゾン原因説を裏付ける新研究

新研究で、老化とトランスポゾンの動きの関係として唱えられている「老化のトランスポゾン原因説」がさらに強く裏付けられた。トランスポゾンは転移因子とも呼ばれ、老化した細胞中で一部の塩基配列がDNAからはぐれたもので、ゲノムの他の部位に自分自身を転写し、組織の遺伝子構成を撹乱し、生物の寿命を縮める可能性もある。



過去の研究から、細胞が老化すると堅く巻きついていたヘテロクロマチンがゆるみ、その中に閉じ込められていたトランスポゾンが染色体の所定の位置から抜け出して新しい位置に移動し、正常な細胞機能を混乱させることが明らかになっている。一方、これまでの研究で、研究動物のカロリー摂取量を制限したり、特定遺伝子を組み換えることで大幅に寿命を伸ばせることが示されており、そのことと関連している可能性がある。

2016年8月24日付PNASオンライン版に掲載された新研究論文の主席著者で、ブラウン大学のprofessor of biologyを務めるDr. Stephen Helfandは、「この研究で、真の因果関係の可能性の解明に向けて大きく踏み出した」と述べている。この論文はオープン・アクセス論文として掲載され、「An Accelerated Assay for the Identification of Lifespan-Extending Interventions in Drosophila melanogaster (キイロショウジョウバエの寿命を引き延ばす介入の判定のための加速アッセイ)」と題されている。

Dr. Stephen Helfandは、「これまで、連想や示唆は何度も言われており、いずれも十分に根拠のあるものだったが、科学の世界では仮説を裏付けるデータが揃っていなければならない」と述べている。Faculty investigatorのDr. Jason Woodをリーダーとする新研究の成果は、ヘテロクロマチンの弱化、トランスポゾンの発現の増加、老化、寿命など個々の現象を綿密かつ直接的に結びつけるいくつかの実験を経て導き出された。


ある一連の実験では、研究チームはキイロショウジョウバエの老化の際に転移因子が激しく動き回るところを画像で捉えた。そこで、研究チームは、特殊な遺伝子の断片を、人間の肝臓細胞と脂肪細胞に相当するハエの脂肪体細胞に挿入し、特定の転移因子がゲノムを移動すると明るい緑に光るようになっている。ハエが老化するに従って、細胞の罠の明るく光る明確なパターンが顕微鏡で確認できた。ただし、ハエが老化してもトランスポゾン活動増加は安定していなかった。

Dr. Woodは、「ハエがある時期に達するとそこから急激に活動が活発になる」と述べている。データによれば、転移因子の活動が実際に活発になり始める時期は、ハエが死に始める時期と厳密に相関関係にある。また、研究論文に述べられているいくつかの実験では、寿命を延ばす操作としてよく知られている低カロリー食餌がトランスポゾンの活動増加時期をかなり遅らせることも明らかになった。さらに研究チームは、トランスポゾンの発現と寿命の関係を調べるため、ハエだけでなく哺乳動物にも見られるヘテロクロマチンの抑制を向上することが知られている遺伝子の組み換えの効果を試験した。たとえば、ヘテロクロマチンの生成を助ける遺伝子Su(var)3-9 の発現が増えると、ハエの最大寿命が60日から80日に伸びた。小さなRNA経路を通してトランスポゾンを抑制する遺伝子Dicer-2の発現が増えるとやはり寿命が大幅に伸びた。最後に、トランスポゾンの活性化とゲノム内の他の部位への移動を阻害する抗HIV薬3TCが、Dicer-2を不活性化する遺伝子変異を持つハエの寿命を少し回復することを突き止めた。

Dr. Helfandは、「これだけの新しい実験結果があるが、トランスポゾンが老化に伴う健康の変化の原因と宣言するには早すぎる。実験結果はその仮説を強化しているが、ようやく骨格に肉付けをし始めたばかりだ」と述べている。ただし、すでに新しい実験が計画されている。たとえば、意図的に転移因子の発現を促し、ハエの健康や寿命を損ねるかどうかを試す実験も計画されている。また、他にも、パワフルなCRISPR遺伝子編集テクニックを用い、ゲノム内を移動する転移因子の能力を奪うとどうなるかを試すという実験もある。「もしそれで寿命に変化があれば、それも一つの証拠になる」とDr. Helfandは述べている。同時に、研究チームは、効果を高めるとともに安全性についてもさらに知るため、薬剤による介入の開発も続けている。

ブラウン大学は、ニューヨーク大学とロチェスター大学とともに新規970万ドルの研究助成金を得て、老化におけるトランスポゾンの研究をさらに進めている。Dr. HelfandとDr. Woodは、「トランスポゾンは老化に対して大きな要因になっていると思われるが、老化に伴う健康の衰えの原因はもっと大きなプロセスであり、トランスポゾンはそのごく一部に過ぎないと思われる」と述べ、さらに、Dr. Woodは、「老化のプロセスを左右する様々なメカニズムが考えられ、様々なことが起きているのだろうが、トランスポゾンはその一つだというのが私達の考えだ」と述べている。

原著へのリンクは英語版をご覧ください
New Study Strengthens Link Between Increased Transposon Movement and Aging

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Edited by Michael D. O'Neill

Michael D. O'Neill

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