犬の社交性とDNAの三次元構造の関連を解明—ウィリアムズ・ベーレン症候群と類似性を発見。


2024年8月7日付けで、学術誌「BMC Genomics」に発表された新しい研究によれば、犬の社交性の進化にはDNAの三次元構造が重要な役割を果たしていることがわかりました。犬のDNA配列の線形構造と三次元構造の両方が、家畜化によって形づくられた友好的な行動と関連しており、これにより社会的な性質の分子メカニズムの新しい理解が得られる可能性があります。


GTF2I遺伝子とウィリアムズ・ベーレン症候群との関連


社交性といった行動特性は、複数の遺伝子、遺伝子間の相互作用、環境要因、そして個々の生活経験により影響されます。2017年、プリンストン大学のブリジット・フォンホルト教授(Bridgett vonHoldt)は、犬のGTF2I遺伝子が人間のウィリアムズ・ベーレン症候群(WB)と関連することを特定し、注目を集めました。WBは、極端な社交性や特有の顔貌を特徴とする疾患であり、GTF2I遺伝子の変異による神経発達および不安や社交性に関連する経路の異常が原因とされています。
本研究では、遺伝子の変異がDNAの三次元構造にどのように影響するかを調査するため、GTF2I遺伝子の古代型(オオカミに類似する型)と現代型(犬に特有の型)の相違を解析しました。


遺伝子の三次元構造と行動特性の関係


研究チームは、GTF2I遺伝子のイントロン領域(タンパク質をコードしないが遺伝子発現を調節する役割を持つ部分)を調査しました。この解析は、ハンガリー・エトヴェシュ・ロラーンド大学(ELTE大学)の犬脳組織バンクの協力のもとで行われました。ELTE大学のエニコ・クビニー博士(Eniko Kubinyi)は、「脳幹のサンプルは、医学的理由で安楽死された飼い犬から採取され、研究に提供されました。神経系に重大な疾患を持たない犬のみを対象としています」と説明しています。


本研究は、古代型と現代型のGTF2I遺伝子がクロマチンループの形状に異なる影響を与えることを発見しました。具体的には、レトロトランスポゾン(自己複製するDNA配列)が関与する新規の調節DNAセグメントは、通常ゲノムから排除されますが、古代型のオオカミゲノムではこれを保持している一方で、現代型の犬ゲノムでは排除されています。このレトロトランスポゾンの有無により、GTF2I遺伝子の三次元構造が異なり、これが細胞外マトリックスやGTF2I遺伝子のスプライシング(遺伝子の断片の組み合わせ)を調節する経路に影響を与える可能性があります。


分子レベルの収斂進化を示唆


人間のWB患者では、細胞外マトリックスの異常とGTF2I機能の変化により、特有の顔貌を持つことが知られていますが、本研究では、犬においても類似した分子メカニズムが働いていることが示唆されました。このことは、犬の超社交性と人間のWB症候群の間に、分子レベルでの収斂進化(異なる種が同じ特徴を持つように進化すること)が存在する可能性を示しています。
「ある種が特定の変異を保持し、他の種がそれを保持しない場合、その調節効果は進化的に重要であると考えられます」と、本研究の第一著者であるドリティ・タンドン博士(Dhriti Tandon, PhD)は述べています。レトロトランスポゾンがない場合、オオカミに見られるDNAループが犬では形成されず、これが両種の神経認知的特性や社交行動の違いを説明する一因になるかもしれません。


行動の根底にある3D DNA構造の重要性


本研究の成果は、行動を決定する要因として、ゲノムの線形配列だけでなく、その三次元構造も重要であることを強調しています。この理解は、犬の家畜化による行動進化だけでなく、人間の社交行動や神経発達疾患の理解にも寄与することが期待されます。

 

写真:Vanda Molná

[News release] [BMC Genomics article]

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