エピジェネティクス研究に新たな発見—親ヒストンのリサイクル機構を解明。

2024年8月1日付けで、学術誌Cellに発表された新しい研究が、エピジェネティクスとその健康や疾患への影響に関する理解をさらに深める発見を示しました。論文タイトルは「The Fork Protection Complex Promotes Parental Histone Recycling and Epigenetic Memory(フォーク保護複合体は親ヒストンのリサイクルとエピジェネティックメモリーを促進する)」です。

エピジェネティクスとは、DNAの配列そのものを変えずに遺伝子のオン/オフを制御する仕組みを研究する分野です。この過程には、DNAやヒストンと呼ばれるタンパク質に化学的な「タグ」を付与することで、遺伝子の活性を調節する役割が含まれます。細胞分裂時にこれらのタグが正確に次世代細胞に受け継がれることが重要で、そうすることで新しい細胞が親細胞と同じ機能を持ち続けることが可能になります。

 

親ヒストンのリサイクルを制御するMrc1の役割

今回の研究は、コペンハーゲン大学のジェヌビーブ・トン教授(Genevieve Thon)とアンヤ・グロス教授(Anja Groth)によるもので、Mrc1というタンパク質がこのエピジェネティックな情報伝達に重要な役割を果たすことを発見しました。研究によると、細胞分裂の過程でMrc1はヒストンを均等にDNAの2つの新しいコピーへと分配し、細胞のアイデンティティと機能を維持します。

「私が生物学科で博士課程を行っていたとき、このタンパク質が細胞内のヘテロクロマチン状態を維持するのに重要だと考えていましたが、分子レベルでその役割を確認するツールが当時はありませんでした」と、現在はCPR(ノボ ノルディスク財団プロテイン研究センター)でポスドクとして研究を続けるセバスチャン・チャールトン博士(Sebastian Charlton, PhD)は述べています。

 

協力体制で解明されたMrc1の新たな機能

チャールトン博士は、CPRのヴァレンティン・フルーリー助教授(Valentin Flury)をはじめとする他の研究者と協力し、Mrc1の役割をさらに詳しく解析しました。その結果、Mrc1がヒストンを単独で、または他のタンパク質(Mcm2)と共に結合し、エピジェネティックな情報を新しいDNA鎖に伝達することで、細胞がどの遺伝子をオン/オフにするかを決定する「記憶」を維持していることを突き止めました。

 

エピジェネティック情報の継承が細胞の機能を維持する

実験によれば、Mrc1に変異が生じると、ヒストンの正確な分配が妨げられ、エピジェネティックな情報の喪失につながり、細胞のアイデンティティが崩れることが明らかになりました。これにより、特定の遺伝子のサイレンシング(抑制)が正常に機能しなくなることが判明し、エピジェネティック情報を保持することの重要性が示されています。

エピジェネティックな状態の安定性はすべての細胞において正常な機能を維持するために欠かせませんが、このプロセスがうまくいかないと、がんなどの病気や加齢に伴う機能の低下が引き起こされる可能性があります。

「今回の発見の潜在的な意義を完全に見積もることはまだ難しいですが、細胞のアイデンティティを維持する非常に根本的なメカニズムを明らかにしたことは間違いなく、将来的に医学研究に大きな影響を与える可能性があります」と、ヴァレンティン・フルーリー助教授は述べています。

画像:ヒストンに巻き付いたDNA

[News release] [Cell article]

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