AAAS年次総会で国際的権威3名がT細胞免疫療法の進展を報告

AAAS年次総会で国際的権威3名がT細胞免疫療法の進展を報告

免疫療法をがんや感染症治療のために広く臨床的に用いる試みは近年になって大きく進んでいる。たとえば、T細胞移入療法の臨床試験はかなり有望な成果を挙げている。ワシントンDCで開かれたAmerican Association for the Advancement of Science (AAAS、米国科学振興協会) の2016年年次総会では、Technical University of Munich (TUM) のDirk Busch教授、San Raffaele Scientific InstituteのChiara Bonini教授、Fred Hutchinson Cancer Research CenterとUniversity of Washingtonに所属するStanley Riddell教授という斯界の国際的権威3人が、最近のこの分野の進展状況を報告した。



T細胞免疫は、健康に対する疾患の危険を判断し、これに対応するよう進化してきており、同じ疾患の再発を防ぐために生涯にわたって免疫を記憶している。

ところが、慢性疾患では、反応性の高いT細胞がしばしば不活動になったり、消失することさえある。最近の研究の進歩により、保護機能的なT細胞の免疫応答を復活させることで慢性感染症だけでなく、がんさえ治療できるという考えがかなりリアリティを持ち始めている。


2016年AAAS年次総会の部会"Fighting Cancer and Chronic Infections with T Cell Therapy: Promise and Progress (T細胞療法によるがんや慢性感染症との戦い、将来性と進展状況)"では、疾患に関連した分子を標的とするキラー免疫細胞を患者に移植するT細胞移入療法が中心テーマになった。しかし、広く臨床現場で利用するにはまだいくつハードルがあり、個別症例に対してもっとも効果的なT細胞を判定するか、生成するかしなければならないこと。起こりえる副作用を避けたり、抑えたりするためにT細胞を患者から採取するか、適したドナーから採取しなければならないこと。

また、研究室から臨床現場までの経路を短縮する方法を見つけ出さなければならないことなどが解決していなかった。この三つのハードルに対して、初の臨床試験のデータを含めて進展のあったことが報告されている。 Busch教授は、「もちろん、企業の関心も高まっているが、研究者同士の競争も盛んだ。
私達の研究の成果として、治療に最適な細胞製品を作るために最適な細胞を選び出さなければならないという確信が得られると同時にそのためにより優れた技術を開発した。過去何年間か、TUMの研究者は、Stan RiddellやChiara Bonini両教授と協同し、患者に移植すれば直ちに増殖し、大きな数量になり、その上で長期あるいは一生活性を続ける細胞製品を送り出すために研究を続けてきた。この研究では、T細胞の中でもひときわ高い再生能力を持ったサブセットを見つけた。このサブセットはごく少量、極端な場合には1個のT細胞で治療的免疫応答を得るのにも十分だった」と述べている。さらに、「このようなポテンシャルの高い細胞を使用する場合には、安全対策もしておかなければならないが、それもすでに実証している」と述べている。

TUM Institute for Advanced Study (TUM-IAS) のClinical Cell Processing and Purification (臨床細胞処理精製問題) フォーカス・グループで、Busch教授、Riddell教授と研究チームは、臨床用特定T細胞サブセットを迅速に選別する方法も開発した。特に中枢記憶T細胞 (TCM) が注目されており、このTCMは、移植細胞がごく少数でも移植、拡張し、長く根付く能力がある。

さらに、TCMの遺伝子を組み換え、生体内での挙動に影響することなく、抗原に狙いを絞った新しい受容体を発現させることもできる。B細胞白血病の抗原を認識する、いわゆるキメラ抗原受容体 (抗CD19-CAR抗体) を発現するよう遺伝子を組み換えたT細胞の初の臨床試験はめざましい結果を示し、末期血液性悪性腫瘍も完全に寛解した。また、慢性感染症にT細胞移入療法を用いた臨床試験でも有望な成果が得られた。同時に、副作用が現れた場合の保護手段として、療法に用いた遺伝子組み換えT細胞を選択して取り除く方法も探った。そのような安全対策の一つが前臨床動物モデルの試験で成功しており、すでに人間の患者にも適用されている。

Busch教授は、「T細胞にマーカーを埋め込んでおき、遺伝子を組み換えた細胞のみを選んで結合する抗体を送り込むことができた。抗体が細胞に結合すると他の免疫機構が始動し、その抗体を取り除く。これを抗体媒介細胞傷害性と呼んでいる」と述べている。目標はさらに進んで、医療細胞製品への理解が深まり、その特性がより明確にされること。さらに、安全対策を付加しておくことで安心してこの手法を他の患者にも個別医療的に用いられるようにすることである。

Busch教授は、「私達の開発した細胞製品の特性が明確になれば、臨床での応用もそれだけ結果を的確に予想できるようになる」と述べている。 TUMで開発された技術は、STAGE Cell Therapeuticsという新会社設立につながり、その会社はシアトルのJuno Therapeuticsと合併した。ミュンヘン所在のJuno Therapeutics GmbHは、同社のヨーロッパ支社である。

原著へのリンクは英語版をご覧ください
Progress on Fighting Cancer & Infections with T-Cell Immunotherapy Described at AAAS Annual Meeting

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Edited by Michael D. O'Neill

Michael D. O'Neill

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