DNA折りたたみ構造の速写で自己免疫疾患等に新しい手がかり
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イギリスのバブラハム研究所とマンチェスター大学の研究者の共同研究で、ゲノムの物理的接続をマップ化し、ゲノム中の自己免疫疾患に関わる部分の解明が前進。研究チームは、Capture Hi-Cと名付けられた、見かけ上かけ離れた位置の遺伝子の発現を調節するノンコーディング配列を判定する新しいテクニックを用いて、遺伝子配列の変化の生体的影響や疾患リスク増加などの理解に新しい手がかりを与えている。
この新研究は、2015年11月30日付Nature Communicationsオンライン版オープン・アクセス論文として掲載され「Capture Hi-C Reveals Novel Candidate Genes and Complex Long-Range Interactions with Related Autoimmune Risk Loci (Capture Hi-Cが明かす新発見の候補遺伝子と関連自己免疫リスク遺伝子座との間の複雑な長距離相互作用)」と題されている。
Human Genome ProjectはヒトDNAコードの大部分を明らかにし、さらに大規模な人口を対象とした調査では、がん、循環器系疾患、免疫系疾患など様々な疾患と関連しているDNA配列の変化が突き止められている。このような変化の多くが、ゲノム中のタンパク質コード遺伝子を含んでいる部位の外にあるため、この遺伝子変化の生体への影響の理解も、その領域に関連している遺伝子を判定する作業はめくらめっぽうというに等しかった。しかし、このような関連を理解するというのは、遺伝子的な病因を明らかにするカギとなるものである。
バブラハム研究所の研究チームが開発した新テクニックは、ゲノムの画像の「一コマを凍結」し、その立体的な構造をそのまま捉え、一見離れて見える領域が、DNAの折り畳み構造のために実際にはすぐ隣り合わせになることを明らかにした。この「速写」で、非コード制御領域が、その制御する遺伝子、それもゲノム上で大きく離れた遺伝子に接触する位置を正確に捉えることができる。このテクニックでゲノムの相互作用をこれまでで最高の高解像度画像で表示し、さらに拡大表示できるため、ゲノムの他の部分の配列変化の影響を受ける遺伝子を判定することができる。
マンチェスター大学の遺伝性疾患研究者は、この手法を使い、リューマチ様関節炎や1型糖尿病のような自己免疫疾患リスクに関連した新しい候補遺伝子を判定した。マンチェスター大学の研究員、Dr. Stephen Eyreは、「自己免疫疾患に関わっている免疫細胞2種のゲノムの相互作用を観察した結果、DNA中の疾患関連の変化でも、その関連から推測されるような直近の遺伝子とは関係しておらず、少し離れた位置の遺伝子制御因子と関係している場合があることを突き止めた。このことから、まったく異なる遺伝子標的の組み合わせも考えられ、自己免疫疾患にもまったく新しい見方が生まれ、さらにはまったく新しい治療法が考え出される可能性がある」と述べている。
この研究で開発されたテクニックの利用について、バブラハム研究所のHead of the Nuclear Dynamics Research Programを務めるDr Peter Fraserは、「疾患の治療を可能にするためには、まず、疾患において生物学的レベルで何が起きているのかを完全に理解しなければならない。私達の開発したCapture Hi-Cテクニックを用いることで、自己免疫疾患を引き起こしている可能性のある遺伝子を新しく発見しており、この知識は、将来、治療法を考える上で重要なものになるだろう」と述べ、さらに、「このテクニックは、他の疾患についても、その遺伝的な要素に関する知識を大きく変化させるカギになることと思うし、この知識を基礎にしてより進んだ予防的治療の発展が期待される」と述べている。
写真は、最新のDNAシーケンシング技術とモデル化テクニックを用い、単一細胞中の染色体の何千という分子測定データをまとめて創り出した染色体の立体的形状イメージ。
原著へのリンクは英語版をご覧ください
Novel Technique Allows Scientists to ID Non-Coding Sequences That Regulate Expression of Seemingly Very Distant Genes; “Snap-Shot” DNA Folding Findings May Shed More Light on Autoimmune & Other Diseases
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Edited by Michael D. O'Neill
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