造血幹細胞前駆細胞 (HSPCs) のゲノム編集技術がさらに前進

造血幹細胞前駆細胞 (HSPCs) のゲノム編集技術がさらに前進

University of Southern CaliforniaとSangamo BioSciencesの研究チームの協同作業のおかげで、造血幹細胞前駆細胞 (HSPCs) のジンク・フィンガー・ヌクレアーゼ・ベースの遺伝子編集技術がさらに前進した。研究論文で、共同第一著者のUSC所属Colin M. Exline, Ph.D.とSangamo BioSciences所属Jianbin Wang, Ph.D.は、造血幹細胞・前駆細胞の遺伝子を効率的に編集する新しい手法を発表している。



2015年11月9日付Nature Biotechnologyオンライン版に掲載されたこの研究論文は、「Homology-Driven Genome Editing in Hematopoietic Stem and Progenitor Cells Using ZFN mRNA and AAV6 Donors (ZFN mRNA and AAV6ドナーを用いた造血幹細胞・前駆細胞 (HSPCs)のホモロジー・タイプのゲノム編集)」と題されている。

論文の共同責任著者でUSCにおいてMolecular Microbiology and Immunology、 Pediatrics, Biochemistry and Molecular BiologyおよびStem Cell Biology and Regenerative Medicineの教授を務めるPaula Cannon, Ph.D.は、「HSPCsを用いた遺伝子療法は、HIVその他の血液系、免疫系疾患の治療に大きな可能性を持っている。

また、ゲノム編集テクニックによって、疾患を引き起こす、遺伝子の誤植、つまり、遺伝子の突然変異を修復するなどきわめて精密な改変が可能になっている」と述べている。


そのようなターゲット化した遺伝子医療は患者の治療に大きな可能性があるが、ヒトHSPCsではうまくゲノム編集することが非常に難しかった。特にどのような血球タイプにもなる可能性を持つ、もっとも未分化な原初的細胞では極端に難しい。Sangamoのチームと協同作業をしたDr. Cannonのグループは、細胞のDNAを正確な位置やシーケンスで切断するため、ジンク・フィンガー・ヌクレアーゼ (ZFNs) と呼ばれる「遺伝子のハサミ」を用いた。

通常、細胞はDNA破損を修復するため、切断されたDNAシーケンスの複製をテンプレートとして用いる。この過程で、新しいDNAシーケンスを挿入したり、突然変異を修復すれば、細胞をだまして遺伝子編集をすることができる。また、ウイルスやmRNAを含め、様々な担体、あるいはベクターを用いて、細胞にターゲットのヌクレアーゼと新しいDNAテンプレートの双方を与えることができる。

現在の研究で、USC-Sangamoの研究チームは、HSPCsに自然に入ることのできる血清型6型のアデノ随伴ウイルス (AAV) という特定タイプのウイルス・ベクターを用い、非常に効率的にDNA修復テンプレートを細胞に導入できることに気づいた。同時に、短命なmRNA分子としてZFNsを送り込むことで、HSPCsを乱すことなくDNA切断や修復の作業が可能になることも突き止めた。

この2つの輸送手段を合わせ、もっとも原初的なヒトHSPCsでも遺伝子を正確な部位に挿入することが可能になり、作業効率も15%から40%というこれまでにない高率を実現した。その後、研究チームは、遺伝編集したヒトHSPCsを免疫不全のマウスに移植し、細胞が生存を続け、編集されたDNAを保存したまま複数のタイプの血球に分化するところまで成功した。

共同責任著者で、Sangamo BioSciencesのVice President of Researchを務めるMichael C. Holmes, Ph.D.は、「この研究の成果から、HSPCsのゲノム編集技術を拡大するアプローチが明確になってきている。ゲノム編集を人間の血液、免疫系疾患の治療に利用するという考えをさらに大きく前進させることができた」と述べている。

この研究には他の共同著者として、USCのNick Llewellyn, Ph.D.、Sangamo BioSciencesのJoshua DeClercq、Samuel Hayward、Patrick Wai-Lun Li, Ph.D.、David Shivak、Richard Surosky, Ph.D.、Philip Gregory, D. Phil.が名を連ねている。

写真は、ヒト免疫細胞に感染したHIV (黄色)。(撮影: Seth Pincus, Elizabeth Fischer, and Austin Athman, National Institute of Allergy and Infectious Diseases, National Institutes of Health)。

原著へのリンクは英語版をご覧ください
Sangamo BioSciences & USC Collaborate to Improve Zinc Finger Nuclease-Based Gene Editing for Hematopoietic Stem and Progenitor Cells (HPSCs)

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Edited by Michael D. O'Neill

Michael D. O'Neill

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