Scripps Research Institute (TSRI) の研究チームは、強力な新開発のDNA操作技術をこれまでよりさらに広い範囲にわたって適用する方法を考え出した。TSRI, Department of Chemistry, Molecular Biology Janet and Keith Kellogg II Chairであり、教授も務めるDr. Carlos F. Barbas IIIは、「これは現在の生物学の分野でもっともホットなツールだ。しかも、私たちの研究で、このツールをどんなDNA塩基配列にでも適用できる方法を考え出した」と述べている。
この大発見はTALEと呼ばれる一群の合成DNA結合タンパクに関わるもので、生物学者はこのTALEを研究上の実験やバイオテックの用途、あるいは遺伝病治療を含めた医療に取り入れ、細胞中の特定遺伝子をスイッチ・オン・オフしたり、さらには削除、挿入、書き替えにも用いることが増えてきている。TALEを用いた手法は動物植物に見られるDNA塩基配列のごく一部に対してしか使えないものと考えられていたが、この新研究でその限界が取り払われた。Dr. Barbasの研究チームは研究の成果を学術誌「Nucleic Acids Research」の2013年8月26日付予定稿オンライン版に掲載している。
長年、分子生物学者は、細胞を活かしたまま、容易にまた精確にDNAを操作するようになる日を夢見てきたが、それがかなり現実に近づいている。TALE型の合成タンパク質はほんの何年か前に創り出されたばかりだが、これまでに発明された中ではもっとも使いやすく、しかも精確なDNA専用ツールだと言われている。合成TALE (transcription-activator-like effectors, 転写活性化物質様作動因子) は、植物に感染する特定の細菌が生成する自然のTALEタンパクを基本にしている。この自然のTALEは植物のDNAの特定の位置に結合し、特定の遺伝子の活動を促進することで植物の生命活動を阻害し、侵略する細菌の成長と生存を強化する働きがある。研究チームは、TALEタンパク質のDNAに結合するセグメントを容易に組み換え、DNA塩基配列の望みの位置に結合させる手法を見つけていた。
一般的には、DNAに結合するセグメントを他のタンパクセグメントに結合させ、望みの位置で望み通りの機能を発揮させることができる。たとえばDNAの切断酵素の断片などが考えられる。Barbasの研究室も、この分野の他の研究室もすでにこの強力なTALEを利用したDNA操作タンパクを何千という数で組み換えしている。しかし、TALEを利用したDNA操作には重大な限界があると考えられてきた。これまでに発見されている本来のTALEタンパク質は事実上すべてDNAの転写が4文字のDNAコードのTの文字、ヌクレオシドのチミジンで始まる塩基配列のみをターゲットとしているのである。構造研究の結果から、本来のTALEタンパク質はイニシャルのTがないDNAにはうまく結合できないことが想像される。そのため、ほとんどの分子生物学者が自分たちが組み換えしている人工TALEタンパク質も同じ「T制限」があるものと決めてかかっていた。
新研究で筆頭著者を務めているBarbas Laboratoryの研究助手、Dr. Brian M. Lambは、「また、現在あるTALE人工タンパク質や酵素も本当にチミジンが先頭になければならないのかを徹底的に調べた研究者もいなかった」と述べている。そこで、Dr. Lambは、DNAの最初の文字をTから他の3種のヌクレオシド (A, G, C) に変えた場合にもTALEタイプのタンパク質がTの場合と同じように機能するかどうかの研究を始めた。その結果、自然、人工を問わず、ライブラリーのTALEタンパク質を使った結果では「T制限」を裏付ける強い証拠があった。Dr. Lambは、「一ケタも二ケタもの違いがあった。試験したTALEタンパク質の中にはDNAの頭のヌクレオシド塩基を変えただけでその活性が99.9%低下するものもあった」と述べている。しかし、博士は、もっと広く適用できるTALEタンパク質を合成する可能性を捨てなかった。そこで博士は、昨年、当時Barbas研究室の研究助手だったDr. Andrew C. Mercerが開発した「指向性進化」テクニックを採用した。まず、DNAの先頭のヌクレオシドに結合すると仮説を立てた構造を持つ新種TALEタンパク質の膨大なライブラリーを作成した。このタンパク質はその構造についてはランダムな変化がある。次にその様々な人工新TALEを何段階もの試験にかけた。そうやって自然進化を加速したバージョンのTALEタンパク質でターゲットとするDNA塩基配列の先頭がT以外のヌクレオシドであっても適正に働くものを選び出した。このようにして、最終的に「T制限」に妨げられない新しいTALEタンパク質アーキテクチャをいくつか選び出すことができた。あるTALEタンパク質はTヌクレオシドの代わりにG (グアノシン) で始まるDNAに結合するという特性を示した。また他にも4つのDNAヌクレオシドのうちT以外のものを選ぶTALEタンパク質がいくつも見つかった。Dr. Lambは、このような非T制限TALEは、たとえばDNA切断酵素の破片などと結合させた場合には設計通りの機能を果たすことを突き止めた。
Dr. Lambは、「私たちの研究は、基本的にT制限を打破したことになる」と述べ、Dr. Barbasは、「つまり、TALE型人工タンパク質でターゲットにできるDNA部位の数や、どの遺伝子内でもターゲットの精度が飛躍的に増大した」と述べている。
Dr. Barbasの研究チームは、この発見を踏まえ、新しいタイプのTALE型人工タンパク質をツールとして用いた遺伝子治療の開発を計画している。しかし、それにとどまらず、TALEによるDNA編集での「T制限」を取り除いたことは、基礎的な分子生物学、バイオテクノロジー、幹細胞医療、ナノテクノロジーの分野でもDNA操作と組み合わせた研究では大きな前進が考えられる。現実に、生きた細胞のDNAを操作しなければならない用途やあるいはタンパク質-DNAマシンを造る場合にもこの研究での発見が大きく有利に働くはずである。Dr. Barbasは、「可能性として考えられる、この技術の用途は、誰の想像をもはるかに超えていると思う」と述べている。
■原著へのリンクは英語版をご覧ください: Breakthrough in TALE-Based DNA Editing Technology



