ウェイル・コーネル医科大の研究チームは、肺再生のスイッチングの探究に大きな前進を得たと発表した。これによって何百万人もの呼吸器系疾患患者の治療に道が開けた。2011年10月28日のCell誌に発表された彼らの報告によると、肺の中で酸素交換が行なわれる 場所であり、非常に多くの小さなブドウの房のような液嚢状の肺胞を、新たに再生する誘因となる生化学的シグナルが明らかにされた。特に、その再生シグナルは、肺の血管内壁を覆う特殊な内皮細胞に起因する。マウスモデルの実験では、片方の肺を失った場合、もう片方の杯の容積が増加し広がる事がよく知られている。
本研究では、このようなプロセスの背後にあるトリガー分子を同定し、研究チームはこの機序がヒトにも適用できると考えている。
「私たちは既に肝臓や骨髄の再生に関わる機序については明るいのですが、成人の臓器にはある程度の損傷が再生の起因となる場合があるというケースを解明するには、まだ多くの課題があるのです。」と本研究を主宰するウェイル・コーネル医科大の遺伝医学科教授でアンサリー幹細胞研究所副所長であるシャーヒン・ラフィ博士は語る。さらに、ハワード・ヒューズ医学研究所のフェローでもある同博士は「証明はされていませんが、ヒトには、喫煙やがんや甚大な慢性肺傷害などが無い場合には、肺を再生する潜在能力を有しているという仮説があります。」と説明する。「私達が希望を抱いているのは、今回の成果によって臨床応用が進み、肺の再生を必要とする例えば慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者に適用できるように成ることです。COPDと診断された患者さんには有効な治療法が無いのが現状です。私は本研究成果を基に、COPDやその他の慢性杯疾患患者さん達が、肺血管に由来する因子をコントロールすることによって治療が可能になる日を期待しています。」と本研究の共著者でウェイン・コーネル医科大の胸部疾患・遺伝子医学教授であるロナルド・G・クリスタル博士は話す。ラフィ博士の研究チームは以前に、肝臓と骨髄の再生をコントロールする成長因子を明らかにし、そのどちらも内皮細胞が誘引物質を分泌しており、それを「アンギオクリン因子」と名付けた。
現在の肺疾患研究では同様の現象が見つかっており、それは、肺内の血管細胞がジャンプして肺胞細胞の再生を行うというものだ。「血管というものは、血液を運ぶだけの不活性なパイプでは無いのです。積極的に臓器の再生に関与しているのです。これは本当に画期的な発見です。臓器はそれぞれ自己の血管内に、臓器再生を促す独自の成長因子を持っているのです。」とラフィ教授は語る。この研究を進めるに当たって、ラフィ研究室のポスドクで本研究の主席著者であるビ・センディン博士は、マウスの左肺を切除して残った右肺の再生過程の生化学的仕組みを研究した。以前にパイオニアとも言える研究を行なったクリスタル博士は、マウスの左肺を切除した場合には右肺が80%再生し、失った肺胞のほとんどに置き換わる事を実証した。「この再生過程は肺の生理学的呼吸器機能を回復させますが、これは種々の内皮前駆細胞の増幅と肺胞嚢の再生に拠るのです。しかしながら、この再生現象は肺の容量が突然減少するような外傷を受けた後にのみ発生するのです。そして残った肺の血管特定の部分が肺胞嚢を再生させるメッセージを受け取るのですが、私たちの仕事はそのメッセージを見つけることなのです。」と本研究の上級研究員で肺血管細胞の機能解析法を開発したダニエル・ノーラン博士は説明する。
左肺の切除により右肺の内皮細胞にあるレセプターが活性化し、血管内皮成長因子(VEGF)と塩基性線維芽細胞成長因子(FGF-2)とに応答する。これらのレセプターの活性化によって、膜型基質メタロプロテアーゼ-14(MMP-14)というタンパクの翻訳が増加する。研究チームは、このMMP-14が上皮成長因子(EGF)を放出することによって、新たな肺組織の形成が開始される事を発見した。マウスの内皮細胞にあるVEGFとEGF-2レセプターを特異的に不活性化させたら、右肺の再生が行われなかった。肺再生の欠失は血管内でMMP-14が産生されない事に起因する。面白いことに、このマウスに正常マウスから内皮細胞を移植すると、MMP-14の産生は回復し、機能的肺胞嚢の再生の誘因となる。「内皮細胞の移植によってMMP-14産生が刺激され、肺機能と肺システムの回復するロジックは、呼吸器系疾患の治療に応用できます。」とこの研究で肺の機能解析を担当するステファン・ウォーガル博士は語り、「この研究は幼児や子供の肺が成長する過程で、どのように傷が修復されていくメカニズムを理解するために助けとなります。」と続ける。ウォーガル博士は小児科と遺伝医学の准教で、小児肺増学の著名な准教である。
MMP-14の役割は、ラフィ博士が重要な「アンギオクリン」シグナルに分類したように、肺胞嚢の再生を司る肺の内皮特異的成長因子である。ラフィの研究チームは肺血管を活性化させるシグナルの探索も目的としている。「残った方の肺における血流の局所変化と生化学的刺激とが内皮細胞の活性化の開始の合図となります。」と本研究の共上席著者でホフストラ大学生物工学教授そしてウェイル・コーネル医科大生物工学非常勤准教であるシーナ・ラバニー博士は語る。次の課題は、マウスだけでなくヒトにおいても肺の再生に関与するMMP-14とまだ確認されていない他のアンギオクリン因子を見つけることである。「まだ確証はないですがヒトにおいても同様のメカニズムであろうと予測されます。」とディン博士は話す。本研究の著者等が論理建てている一つは、COPD(長期の喫煙による疾病が生じるケースが多い)患者の場合は、肺の内皮細胞への傷害が大きいために、肺胞嚢再生の適切なシグナルが出なくなっているということである。喫煙は肺に傷害を与えることは知られていますが、肺は肺胞嚢を再生しようとしているのです。しかし或るレベルを超えて内皮細胞を損傷すれば、もはや肺再生の機能は損なわれてしまうのです。」とコウジ・シド博士は語る。
「アンギオクリン因子の交換や、多機能性幹細胞由来の正常な肺内皮細胞の移植によって、肺の再生機能は回復すると思われます。」とウェイル・コーネル医科大ロナルド・O・ペレルマン&クラウディア・コーエン再生医学センターのゼブ・ローゼンワクス博士は示唆する。そして「現在では、私たちは遺伝性肺疾患患者由来の多機能性幹細胞を使用して、パスウエイの解明に取り組んでいます。これによって、どのように肺内皮細胞が傷害から再生されるのかが理解される助けになると考えています。」と結んだ。本研究でラフィ博士と研究チームを組むウェイル・コーネル医科大の研究メンバーは、ビ・センディン博士、ダニエル・J・ノーラン博士、ペイペイ・グオ、アレキサンダー・O・ババザーデ、ツォンウエイ・カオ、ゼブ・ローゼンワクス、ロナルド・G・クリスタル、ステファン・ウォーガル、そしてコウジ・シド等である。他の共著者等は、エール大学医学部のマイケル・サイモン博士、日本の奈良先端大学のトーマス・D・サトウ博士、そしてホフストラ大学のシーナ・Y・ラバニー博士らである。
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