失われるのは命だけじゃない。ニシンの「文化崩壊」が漁業管理に突きつける警鐘

渡り鳥やゾウの群れが、経験豊富なリーダーに導かれて壮大な旅をするように、魚の群れにも「文化」があり、世代から世代へと「記憶」が受け継がれていることをご存知でしょうか?しかし、もしその記憶を頼りに生きる魚たちから、知識を持つ「長老」を一掃してしまったら、何が起きるでしょう。最新の研究は、私たち人間の活動が、ニシンの群れから回遊の記憶を消し去り、彼らの故郷を800kmも変えてしまったという、衝撃的な事実を明らかにしました。 これは単なる魚の話ではありません。私たちの行動が、地球の生命にどれほど深く、そして見えない形で影響を与えているかを物語る、重要な警告です。 海で起きた文化の崩壊 ― 漁業の圧力がニシンの群れから集団的記憶を消し去ったことを示すNature誌の最新研究 海洋生物における回遊文化の脆弱性に関する驚くべき事実が明らかになりました。2025年5月7日に学術誌『Nature』に掲載された画期的なオープンアクセスの研究で、ノルウェー海洋研究所)のアリル・スロッテ博士(Aril Slotte, PhD)と同僚たちは、過剰な漁獲が魚の個体群から集団的記憶を消し去り、行動の劇的な変化を引き起こす可能性があることを示しました。 この論文は、「Herring Spawned Poleward Following Fishery-Induced Collective Memory Loss(漁業が誘発した集団的記憶の喪失に続き、ニシンは極方向へ産卵した)」と題され、年長の魚を選択的に漁獲したことで引き起こされたニシンの群れにおける社会的学習の崩壊が、いかにして産卵場所の突然の800キロメートル(約500マイル)もの北上をもたらしたかについて、初の大規模な証拠を提示しています。 記憶が回遊を導くとき ニシンは単に本能に突き動かされる生き物ではありません。渡
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Edited by Michael D. O'Neill
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