人間はまだカメから学ぶことがあるかも知れない。また、初めてカメのゲノム塩基配列を解析した科学者達は、カメの長寿の秘密や何か月も呼吸しないで生きられる能力に、人間に応用できる何らかの知識が得られるのではないかと考えている。このゲノム塩基配列解析を担当した研究チームは、「カメが酸素欠乏状態から心臓や脳を守るために持っている自然なメカニズムを解明すれば、将来、人間の心臓マヒや卒中の治療法改善の手がかりになるかも知れない」と述べている。

 

UCLAの保全生物学者でこの研究論文の筆頭著者、Dr. Brad Shafferは、ミズーリ州セント・ルイス市のWashington University内Genome Instituteとの協力で研究を続けてきており、さらには長年の研究プロジェクトで総勢58人の論文共同著者とも共同研究を行ってきた。学術誌「Genome Biology」のオープン・アクセス論文として2013年3月28日付でオンライン発表されたこの研究論文では、カメの中では棲息範囲がもっとも広く、またもっともよく研究されている種の一つ、ニシニシキガメのゲノムを解析している。


UCLAのInstitute of the Environment and Sustainability (IoES) とDepartment of Ecology and Evolutionary Biologyの教授を務めるDr. Shafferは、「ニシキガメの異常なまでの適応力は、未知の新しい遺伝子によるものではなく、ヒトを含めた脊椎動物に共通する複数の遺伝子のネットワークによるものであると知って、研究チームはむしろ驚いたくらいだ」と述べている。

IoESのLa Kretz Center for California Conservation Science所長も兼任するDr. Shafferは、「いずれも他の脊椎動物と共通する遺伝子だが、カメはその遺伝子のネットワークを他の脊椎動物とは違った使い方をしており、ほとんどの場合、カメの活動を向上させるように働いている」と述べている。
また、「カメの適応力があまりにも並外れているため、まったく新しい未知の遺伝子があるのではないかと予想していたから、結果を知ってむしろ驚いた。しかし、遺伝子がいずれもすべての脊椎動物に共通したものだということは、人間の健康状態にも大いに関連しているということでもある。
特に酸素欠乏や低体温症や長寿など、このカメの特性に関連した分野が解明できるかも知れない」と述べている。研究チームは、カメのゲノムの中で、脳の遺伝子19種、心臓の遺伝子23種が、低酸素状態で活性化することを発見した。その中にはたった一つ、130倍活性化する遺伝子もあった。「これらの遺伝子はすべて人間にも共通しており、人間の酸素欠乏治療として研究課題にもなるのではないか」と述べている。

研究チームはカメの異常な適応力をいくつか研究した。たとえばニシキガメは完全に酸素が欠乏する酸素欠乏症のまま何か月も生きる能力があり、特にニシニシキガメは陸生脊椎動物の中では知られている限りもっとも酸素欠乏耐性に優れている。加えて、ニシキガメは氷の張った池のような低温環境で4か月ほどの間、呼吸のために氷の上に出る必要もなく冬眠を続けることができるという能力がある。カメはまた非常な長寿で知られている。いくつかの種は、100年以上の年齢で生殖することもできるほどだ。研究チームがカメの長寿の原因と予想していた遺伝子を調べたが、代わりに酸素欠乏から身体を守る「超活発」な遺伝子をいくつか発見した。そればかりか、カメの長寿の秘密が「寿命を縮める」遺伝子を抑制する機能にあることを示す現象も確認した。

Dr. Shafferは、「私たちは、ニシニシキガメには他の長寿動物と同じように特定の2つの遺伝子が欠けているか、機能が極端に抑えられているものと予想していた。研究の結果、カメはこの2つの遺伝子を持ってはいたが、痕跡程度でまったく機能していなかった。この2つの遺伝子はヒト・ゲノムにもあって、活動しているから、ヒトの長寿を研究する際に真っ先に調査すべき遺伝子だ」と述べている。カメのゲノムを解析した結果、甲羅を背負ったこの生物が進化系統的にもっとも近いのは鳥やワニであることが明らかになった。また、カメの遺伝子進化は異常なほど遅く、そのゲノムの進化速度はヒト・ゲノムの進化速度の3分の1程度にしかならない。

ただし、カメの進化の遅さに対して急速に変わっているのは絶滅の危機という状況である。世界のカメ種330種の半数以上が絶滅危惧種と見られており、脊椎動物の中ではもっとも絶滅が危惧される主要動物グループになっている。

Dr. Shafferは、「カメの個体数が激減している原因は人間にある。人間の活動がカメの棲息地を奪ったり、カメが棲めないように変えてしまっているということもあるが、もっと大きな原因は、カメが、特にアジアでレストランのメニューや食卓に載せられることである。これが世界的なカメの減少の最大の原因になっている」と述べ、さらに、「私たちはカメが種として栄えた秘密を解明したが、現在まだ生き残っているカメの豊かな多様性を保存するためには困難に挑戦しなければならない。
カメは、進化や人間の健康についていろいろと教えてくれることがあるが、私たちがカメ保護のために今すぐに行動しなければ手遅れになるだろう」と結んでいる。

■原著へのリンクは英語版をご覧ください:First Turtle Genome Sequence Offers Clues to Longevity and Treatment of Oxygen Deprivation

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