65歳以上の健康な双生児を対象に行われた国際的にも重要な研究で、遺伝子が脳の灰白質構造の発達に及ぼす影響を知る重要な手がかりが明らかにされ、人間の脳の遺伝的青写真解明に道を開いた。
オーストラリアのUniversity of New South Wales (UNSW) Medicineの研究者を中心とする研究チームは、Older Australian Twins Study (オーストラリアの高齢双生児研究) の対象となった322人のMRIスキャンを分析した。
この研究の目的は、脳の皮質および皮質下の構造の遺伝的関連性 (または遺伝率) をマッピングすることにあった。この部分の構造は、記憶、視覚処理、運動制御など様々な機能を司っている部分である。
この新研究論文は、2016年9月6日付でScientific Reportsオンライン版に、「Distinct Genetic Influences on Cortical and Subcortical Brain Structures (脳の皮質および皮質下構造に明らかな遺伝子の影響)」の表題でオープンアクセス論文として掲載されている。
研究主任を務めたUNSW, Centre for Healthy Brain Ageing (CHeBA) のAssociate Professor Wei Wenは、「遺伝子が脳の発達に関わっていることは知られている。しかし、どの遺伝子が関わっているのか、異なる脳の構造に対する関わり方などはまだ分かっていない。脳の発達に関わる遺伝子を突き止めるためには、まず、特定の遺伝子が脳の複数の構造に関わっているのか、それとも一つの構造だけに関わっているのかを知らなければならない。今回の研究は、双生児を使い、脳の全構造の間の遺伝的相関性を調べた初めての試みだ」と述べている。
研究チームは、93組の一卵性双生児と68組の二卵性双生児のMRIスキャンを分析した。参加した双生児は全員が白人男女で、認知症を患っておらず、平均年齢は70歳でオーストラリアの東部諸州在住者だった。研究チームは、合計12箇所の脳構造の容積を測定し、統計的モデリングと遺伝モデリングを使ってそれぞれの遺伝率を算出した。遺伝率とは、形質または身体の違いにどの遺伝子がどの程度関わっているかということである。
Scientific Reports掲載の論文中で、同研究チームはいくつかの大きな発見を報告している。著者らは、データから次のことが考えられるとしている: まず、脳の皮質および皮質下構造の容積に対する遺伝的要因は中から強 (40%から80%); 次に記憶処理に重要な役割を持つ皮質下の海馬は、高齢者では遺伝的要因が70%を超える;また前頭葉 (行動、記憶、意欲) や、後頭葉 (視覚処理) などを含む皮質構造の遺伝的要因は70%を超える; 脳の構造には対称性があり、左半球と右半球の対応する構造は同じ遺伝的要素の影響を受けている; 最後に、脳には遺伝的相関性を持つ3つのクラスターがあり、この3つの領域では同じ一組の遺伝子が複数の構造に影響しているらしいことが突き止められている。3つのクラスターのうちの1つは4つの皮質性頭葉構造であり、他の2つは皮質下構造のクラスターである。
UNSWの神経精神医学者であり、CHeBAのco-directorを務めるScientia Professor Perminder Sachdevは、「このように遺伝的相関性のある三つのクラスターの存在が確認されたことがこの研究でもっとも重要な成果であり、この研究のもっとも目新しいところだ。これを青写真として、脳を遺伝的に関連した構造に分割し、脳の新しいモデルを編成することができる。この手法を大規模なデータの解析に適用し、さらに効率的に脳の発達に関係する遺伝子を探すことができる」と述べている。
Dr. Sachdevは、「伝統的な双生児を使った研究は、身体や行動の特徴が遺伝子決定基を持っているかどうかを判断する重要な手段だ」と述べている。双生児研究は、DNAが100%共通するmonozygotic twins (一卵性双生児) と、50%共通するdizygotic twins (二卵性双生児) で双生児同士の生来の特徴の相似性を比較するものであり、このような双生児研究では、たとえば一卵性双生児の間の身体的特徴の相似が、二卵性双生児の場合よりも強く出ているなら、その身体的特徴には遺伝的要因が強いということになる。
Dr. Sachdevは、「調べた構造すべてにわたって強い遺伝的要因が見られたが、皮質構造と皮質下構造の間では遺伝的相関性が小さかったのは意外だった」と述べている。これらの構造はそれぞれ独自の遺伝子決定基を持っており、相互の関連性はごく低かった。彼は、「これは、脳が信じられないほど複雑な器官であり、遺伝学的に見て均一な構造を持っていると思ってはならないことを教えてくれるものだ」と述べている。
研究チームは、彼らの研究成果がこの分野の研究のさらなる発展と人間の脳の遺伝的青写真に関するより深い理解につながることを期待している。Dr. Sachdevは、「この研究は、そのために不可欠な第一歩の一つだ。まだまだ先は長いが、人間の脳の可変性の遺伝子的要素を理解できるようになれば、いつか、そのような違いをもたらす仕組みや疾患発生の仕組みを理解できるようになるだろう」と述べている。
原著へのリンクは英語版をご覧ください
Twin Study Helps Unravel Genetic Blueprint of the Human Brain



