脳のバイオマーカーで3種の精神病バイオタイプを特定

脳のバイオマーカーで3種の精神病バイオタイプを特定

サイエンス出版部 発行書籍

University of Texas Southwestern Medical Center (UT Southwestern) の研究者を中心とする研究コンソーシアムは、精神病の診断と治療に役立てられる包括的なバイオマーカーの組み合わせを経験的に証明した。従来、精神病診断の基本は臨床観察で、患者を統合失調症、分裂情動、双極性障害などに分類することだった。


しかし、Bipolar-Schizophrenia Network on Intermediate Phenotypes (B-SNIP、中間表現型の双極性障害・統合失調症ネットワーク) と名付けられたこの新しい研究で、神経生物学的に独特な3種のバイオタイプを突き止めた。
この3種は従来の臨床所見と必ずしも一致しない。
アメリカ国民の推定6%が統合失調症、分裂情動、双極性障害を患っている。

言い替えれば1,900万人のアメリカ国民がこれらの障害に悩んでいるということになる。この研究コンソーシアムを率いたUT SouthwesternのChair of Psychiatry and Professor of Psychiatryを務めるCarol Tamminga, M.D.は、「ある意味で、この研究はこれまでの精神病診断の基礎を完全に解体し、再考したといえる。


診断を現象本位でなく、生物学的に構築し直すことにより、これらの脳障害の生物学的な基礎を、障害の定義と新しい治療法のための分子標的として際立たせることが可能になった」と述べている。他にもHarvard University、Yale University、the University of Chicago、University of Georgiaが参加したこのB-SNIPコンソーシアムの研究論文は、2015年12月8日付American Journal of Psychiatryオンライン版に掲載されている。この論文は、「Identification of Distinct Psychosis Biotypes Using Brain-Based Biomarkers (脳内のバイオマーカーを用いた独特な精神病バイオタイプの発見)」と題されている。

UT SouthwesternのAssistant Professor of Psychiatryを務め、この研究では共同リーダーを務めたElena Ivleva, M.D., Ph.D.は、「ひとくくりに『うっ血性心不全』という用語で呼ばれている疾患も実はいくつもの心臓、腎臓、肺臓の障害であり、それぞれ異なる機序があり、治療法も異なっている。同じように、『psychosis』という用語もいくつかの異なる精神障害を意味していることを明らかにした」と述べている。これまでにも、症状を基にした精神障害の診断は生物学的に有意義な違いを不完全にしか理解できず、そのため、しばしば治療効果が上がらない結果になっているという証拠が多数提出されてきた。この新しい研究では、被験者はいくつかの認知検査、追跡眼球運動検査、脳波検査 (EEG) を受け、さらにいくつかの磁気共鳴画像法 (MRI) 検査を受けた。被験者グループとして、精神病患者、その第一度近親者、対照グループがつくられた。被験者1,872人のバイオマーカー・データの結果を分析し、3種のはっきりと異なる精神病のクラスターもしくはバイオタイプが浮かび上がった。

バイオタイプ1
バイオタイプ1は、もっとも重篤な精神障害グループで、認知、追跡眼球能力も低く、また、脳組織損傷もひどく、主として前頭部、側頭部、頭頂部に広がっていた。一般に精神病の診断のすべてのタイプがこのバイオタイプ1にも現れているが、統合失調症の場合には、大多数 (59%) がこのバイオタイプ1に該当し、また、バイオタイプ1は、他のグループに比べてより重度な精神病症状 (幻覚や妄想) を示す傾向があった。

バイオタイプ2
バイオタイプ2は、認知障害と追跡眼球運動不良があったが、EEG測定では、神経学者が「noisy brain」と呼ぶ大きな波形が現れていた。このような波形が現れる人は、刺激過剰、活動過多、過敏症と診断されることが多い。また、バイオタイプ2でも前頭部や側頭部の灰白質欠損が見られたが、バイオタイプ1ほどではなかった。バイオタイプ2の症例は鬱病と躁病など気分評価尺度で低い評価になった。

バイオタイプ3
バイオタイプ3は障害がもっとも軽いグループで、認知、EEG機能、脳構造もほぼ正常に近いという評価が出ている。その症状の重篤さも軽度である。このグループの被験者は双極性障害と診断されることが比較的多かった (60%)。

見事な謎
UT Southwestern で、Psychiatric ResearchのLou and Ellen McGinley Distinguished Chairと、Brain ScienceのCommunities Foundation of Texas, Inc. Chairを務めるDr. Tammingaは、「謎と思うと同時に見事だと感じるのは、上記3種の生物学的な要因の疾患構成、つまりバイオタイプは、臨床的には統合失調症、分裂情動性障害、双極性障害と診断されるだろうということだ。症状徴候では重なるが、それぞれ異なる疾患の識別にバイオマーカーが威力を発揮するという例は他の医療分野でもいくつも見つかる」と述べている。

さらに正確な診断と新しい治療法
「重篤な精神障害の神経生物学的な研究が、より正確で生物学的にも有意義な診断と新しい治療法につながることを望む」
UT SouthwesternのAdjunct Professor of Psychiatry and PediatricsのDr. John Sweeney, Ph.D.がこの研究の共同研究責任者を務めた。また、Dr. Sweeneyは、UT SouthwesternでResearch on Autism Spectrum DisordersのTownsend Distinguished Chairも務めている。

写真は、Dr. Ivleva (左) と Dr. Tamminga。

原著へのリンクは英語版をご覧ください
Three Distinct Psychosis Biotypes Identified Using Brain-Based Biomarkers; Findings Should Aid Diagnosis & Treatment; Work Reported by B-SNIP Consortium (Yale, Harvard, UT Southwestern, U Chicago, U Georgia)

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Edited by Michael D. O'Neill

Michael D. O'Neill

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